新たなる鬼 遊び人編
「すまねえアレイシア。ジャガー横川が・・・」
ジャガー横川は息も絶え絶えである。
ユミ坂本が心配そうにジャガー横川の匂いを嗅いでいる。
彼等は姉弟である。
ちなみに魔犬はユミ坂本、ジャガー横川という名前である。
魔犬に姓はつけられない。
本郷がつい口にした名をマーベリック伯爵はそのまま受け取ってしまった。
本郷的にはユミ・坂本、ジャガー・横川なのだがマーベリック家の魔犬なのでユミ坂本、ジャガー横川なのだ。
アレイシアは慈しむように横たわるジャガー横川をそっと抱く。
「違うんです!アレイシア様、トラファルガー様が私を救おうとしてくださったからなのです。悪いのは私です」
銀色の髪の妙齢の女性、血や泥だらけの服装が痛々しい。
女性によれば自分が働く薬屋の経営を助けるために貴重な薬草を探しに出ていた所に毒を持つ大蛇に襲われ、そこをトラファルガーとジャガー横川に助けられたという。
直径1メートル、長さ15メートルに及ぶ白い大蛇。
トラファルガーと少女は命に別状は無いが大蛇に噛まれたジャガー横川の命は汎用性の毒消し草で今のところは持っているがあと2日が精々だろうとのこと。
全快を願うならば、岩肌高き仙手山に生えている仙手草を取ってきて薬にするしかない。
「私、これから解毒の薬草を取りに行きます。受けた恩は返さなければいけませんので」
はっとする本郷。
任侠魔犬の恩義に報いる女性、ジョディー。
ここで立たねば男が廃る、いや淑女が廃る。
アレイシアはすっと立ち上がる。
「護衛はわたし」
「俺が護衛しよう、ジャガー横川に救われたのはあんただけじゃない」
トラファルガーはアレイシアを制すると帯剣した。
頼りない木の枝を片手で掴みもう一方の手でロープを引っ張り上げるトラファルガー、ここは仙手山の中腹の崖。
足を踏み外したジョディーとトラファルガーを繋いだ一本のロープ。
「トラファルガー様、ロープを切って下さい」
「こんな軽い女は初めてだ、とっとと引っ張り上げるからそのままでいるんだぜ」
本当は腕一本ではかなりキツかったがトラファルガーは顔色変えずにジョディーを引っ張り上げ腰に抱きつかせた。
「行くぜ、薬師見習いのお嬢ちゃん」
「トラファルガー様ありがとうございます」
とうとう仙手草を採取し日が落ちる間際に無事に下山出来た。
「手がこんなに」
ジョディーはトラファルガーの手をみて真っ青になった。
ジョディーを救うために握ったロープの摩擦で皮がむけ血塗れであった。
麓に置いてあった荷物の中の水で手を洗い傷薬を塗り、包帯を巻いた。
宵闇の中で燃える焚き火の炎がジョディーの顔を浮かび上がらせる。
その姿にトラファルガーは運命を感じたがいつもの結末を想像して笑った。
もう少しすると夜が明ける。
その時であった、赤い肌のオーガが二人を襲う。
最強といわれる赤オーガは近衛騎士5人で対処すべき魔物である。
よく見ると若干足を引きずっている。
「トラファルガー様、薬草を持ってアレイシア様の所へ」
「馬鹿言ってんじゃない、それはあんたの」
「私があれを引きつけます、それが合理的です!」
一度なくした命ですといってジョディーが燃え盛る木の枝を赤オーガに投げつける。
「早く行って!」
ニヤリと笑うトラファルガー。
「俺があいつの足を動けなくする、そうすりゃあんたは朝までには王都だ」
痛む手で大剣を握り締めオーガに突進するトラファルガー。
オーガも手に持つ棍棒で応戦。
だが単騎のトラファルガーに勝ち目はない。
「走れ!ジョディー。早く!」
オーガの岩のような拳で吹き飛ばされ倒れたトラファルガー。
棍棒を振りかざすオーガ。
『こんな事だろうと思ったぜ!』
真陰流奥義 一刀両断、長ドス(白鞘の大刀)がオーガの腕を叩き斬る。
暴れるオーガを相手に右転左転で次々に身を切り裂く。
ついに倒される赤オーガ。
「叔父様、お怪我は無いですか」
怪我しまくりのトラファルガーが苦笑い。
「話には聞いていたが、これほどとはな。しかも今まで見たこともない剣術。貴様は一体誰だ、アレイシア」
逆光の中にアレイシアの影が浮かぶ。
「オッサンこそ只の遊び人には見えんがな」
お互いへたり込むジョディーを眺めて苦笑した。
持って帰った薬草のお陰で落ち着いたジャガー横川。
トラファルガーを中心に冒険話で盛り上がるマリアンヌ、ルークにメイド達。
訳が分からずキョトンとしているアレイシア。
アレックスはラウンジの外からほっとした顔でその様子を伺っていたのであった。




