少女と青年
ピッピッピッピッと規則的に機械音が響き、無数のモニターに囲まれた空間の中央に置かれた少し古ぼけた椅子に一人の少女は座っていた。
少女はぼーとしたような瞳に光の灯らない目でそのモニターを見つめていたが、ふと一つのモニターに見知らぬ男性の情報が映ると、少女はしばしその情報を眺めたあと、静かに目を閉じた。
そして意識を自身の創り上げた世界へと向けると、その世界にその男性をそのままの姿で創り出した。
すると少女は視界が揺れたかのようにクラクラとした後、どこか痛むのか、一瞬顔を歪めたが、直ぐになんでもないかのように椅子に腰掛け直すと、特にそのことを気にすることも無く、顔に笑みを浮かべた。
そうして少女が笑みを浮かべながら再びモニターに映った女性の情報を眺めていると、急にどこからともなく一人の青年が現れた。
少女はちらりとその青年を見て微笑んだが、直ぐに目を閉じると再び意識を自身の世界へと飛ばした。
青年はそんな少女に少し苛立ったような顔をし、それを隠すことも無く、そのまま使用所の傍によると、そっと少女の肩に手を置いた。
『…利用されてると知りながらよくやれるな』
青年はそうボソリとつぶやくと、自身も少女の世界に意識を飛ばし、新しい存在のせいで狂った世界の時間軸を直し始めた。
それからどれくらいの時間が経っただろうか、ようやくモニターに何も映らなくなった頃、青年は少女の肩から手を離すと、微笑みながらただただ何も映さなくなったモニターをぼーって見つめる少女の前に座り込んだ。
『ヒナ、少し休め』
青年がそう少女、ヒナに声を掛けると、ヒナはようやく青年の方を向き、こくりと頷いた。
『計画は最終段階に入った。お前に死なれたら困る』
ヒナは口が聞けないのか、青年のその言葉に首を傾げながらも、何も言うことは無く、青年を見つめ続けた。
『俺の能力で誤魔化してはいるが、お前は元々失敗作の欠陥品だろ?身体にガタがきてるのは知ってるぞ』
ヒナは少し悲しげに顔を歪めながらも、直ぐにそれがどうしたのかとでも言うかのように微笑んでみせた。
青年はそんなヒナの様子に苛立ちを深めながらも、さらに続けた。
『本当に分かってるのか?全てが終わればお前はこの世界に取り残される。この俺とたった二人きりで!!』
苛立ちの中に微かに悲しみを感じたヒナは自身に繋がれていた機械をそっと外すと、青年の方へと手を伸ばし、歩み寄ろうとした。
しかし長年椅子から立ち上がることのなかったヒナに歩くことは出来るはずもなく、ヒナは椅子から転げ落ちた。
しかしヒナは直ぐに身体を正すと、懸命に手を使い這いずりながら、青年の傍に行き、青年を抱きしめた。
『やめろ…!俺は…お前なんか…!』
青年は掠れた声でそう叫んだが、ヒナは気にしてないかのように微笑み、青年の背を優しく撫でた。
そしてそっと自身のポケットから紙とペンを取り出すと、サラサラと何事かを書き綴り始めた。
『あなたもかれらといくの。ここにはわたしだけでだいじょうぶ』
『時間を動かさなければ歴史が狂う。俺が正さないと』
『わたしののうりょくはそうぞう。なんでもつくれる。だからだいじょうぶ』
ヒナはそういってまた微笑むと、ヒナの思いに救われ溜め込んでいた悲しみをあふれさせた青年の背をゆっくりと撫で続けた。