prologue
よろしくお願いします。
昼間は賑やかな商店街も夜ともなるとシャッターが閉まり閑散としている。朝や夕方には登下校する小学生の団体、買い物帰りの主婦がいるが今は賑やかさとは程遠く、ひっそりと静まり返っていてこの世界に一人しかいないような気になる。
商店街を歩きながら渡良瀬海衣は白い息を吐く。銭湯で温まった身体も雪でも降りそうな外気の中では直ぐに冷え切ってしまいそうだった。
空を見上げると澄んだ空の中には星々が静かに瞬いている。
12月25日といえば世間ではクリスマスを祝うだろうが渡良瀬には関係がない。恋人もいなければ家族とも離れて暮らしている。そうでなければ銭湯になんか来るわけがないのだから。
煌々と照らす満月がどこか馬鹿にしているように思え鼻を鳴らしパーカーのフードを目深に被り帰路を急いだ。
アパートは商店街の終わりから曲がったところにある。等間隔に並ぶ街灯の明かりを銭湯から20数えると商店街の端に着く。
16…17…18…
19まで数えたところで足を止めふと前を向いた。
何かがおかしい。
気がついた途端暗闇が渡良瀬を襲った。あるのは街灯の明かりひとつ。背後を振り返るとある筈の道がなく闇だけが見える。空を見上げても闇しかない。
目眩がして街灯に手を付き蹲る。強烈な眠気に襲われ抗うすべもなく遠のく意識の中笑い声が聞こえた気がした。