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6.欲しいばかりでは貰えない

 それから私はまた、ユリウス様に二十日もの間、放置されている。政略結婚の相手なんてそんなものなのかな。一のお姉様から送られてきた手紙を読み直しながら、私は一人で眠るには広いベッドの上で、何度も何度も転がった。転がったところで、何も解決しない。


 でも、ずっと寂しいのは嫌!


 マーサがいるから一人ではないのよ。でも、ずっとマーサだけではやっぱひ寂しい。


 一のお姉様のようにユリウス様から愛されて、幸せいっぱいになりたいもの。


 ニのお姉様が読ませてくれた小説みたいに、毎日ドキドキしたい。優しく抱きしめて貰らいたいし、目があった時に笑いかけて貰いたい。


 どうしたらそんな風になれるのかな?


 お姉様と同じことをしたらいいのかな。でも、お姉様の手紙には、結果は書いてあったけれど、過程は書かれていなかった。


 だったら、二のお姉様が読んでいた小説はどうだったかな。少しずつ惹かれ合う二人が、幸せになれる物語が多かった気がする。


 愛して欲しいと願うばかりでは駄目なのよ。まずは自分が相手を愛さないと。なんて、お父様から贈られたお花を愛おしそうに眺めがら、お母様が良く言っていた。


 小説のように王子様から想われるヒロイン。そんな風になるには、もしかして、願うばかりではダメなのかな?


 小説の中のヒロインも、確かに王子様のことが大好きだった。今の私のユリウス様に対する感情とは何だか違う気がする。


 でも、一度のお茶会でしか殆ど話をしていない。この前の横抱き事件の際は二人共無言のまま、部屋まで送って貰ってしまった。涙を目に溜めたマーサの出迎えで、殆どお礼らしいお礼も言えなかったのは失敗だったかも。それが原因で嫌われちゃっていたらどうしよう。


 このままじゃ、きっと溺愛なんて夢のまた夢で、義務だけで隣に座ることになっちゃうかも。それは嫌。だから、何とかしないと。


 待ってばかりでは手に入らないものもある。一のお兄様の受け売りだ。お兄様は何か大きなことをする時には必ず言っていた。私も、溺愛して欲しい! って、待ってばかりじゃ駄目だよね。


 愛して貰う前に、私がユリウス様のことを沢山知って、沢山好きな所を見つけよう。


 私が拳を握ると、一のお兄様が私の好きな顔で笑った。白い歯を見せて、この世に敵なんていないとでも言うよに笑う。あの顔が私は大好きだった。隣国との戦争があった際、震えていた私にあの不敵な笑顔を見せてくれた時からだ。


 でも、それはお兄様には秘密。だって、教えたらつけあがるんだもん。


 私はユリウス様のことを何も知らない。待っていても、ユリウス様のことを教えて貰えるわけじゃないもの。


「まずは、ユリウス様と沢山話さなきゃ!」


 私は握った拳を天高く掲げた。



 ◇◇◇◇



 私が決意を新たにするまでの間、私の生活も少しだけ変わった。侍女が一人増えた。


 決して甘くない横抱きを経験したあの日から三日後のこと。侍女頭と呼ばれる女性が一人の女の子を連れて私の部屋を訪れた。男爵家の次女だと紹介された女の子が膝をつき礼をする。彼女はサラサと名乗って緊張した面持ちで、背筋を伸ばした。


「サラサ、今日からよろしくお願いしますね」

「も、勿論でございます。精一杯務めさせていただきます」


 三のお姉様の澄まし顔を真似して、挨拶をすれば、サラサが肩を震わせて今以上に頭を下げる。それ以上は下げられないというくらい深い礼だ。


「そんなに気負わないで。私とマーサと仲良くして欲しいの」


 結局澄まし顔は最初だけ。すぐにいつもの私に戻ってしまった。やっぱり私にはお姉様みたいな雰囲気は出せないな。


 それでも、サラサは頭をさげたまま。なんだか、とっても厚い壁を前に掛けられた気分。


「もう大丈夫だから、顔を上げて?」


 サラサはパッと見た感じ、私とそう変わらなさそう。宮殿に行儀見習いとして務めるのは、成人してからだと聞いた。だから、きっと私の少し年上。侍女とは言え、年が近いなら色々と話を聞きたい。


 もう少し打ち解けてくれないかな。


 優しく肩に手を添えて、顔を上げることを促すも、サラサは肩を大きく跳ねさせると、身体を強張らせた。


「何か御無礼がございましたらお申し付け下さい」


 どうしよう!


 何故か、とても怖がられている。私何かしたのかな? 知らない内にこの国ではやってはいけないことをしたとか……。あるかもしれない。


 侍女頭は黙っているばかりで、手助けをしてくれそうにも無かった。こういう時の上司じゃない〜。「私はただ連れてきただけです」みたいな顔をして部屋の中で空気に徹する。


 これ以上声を掛けても怖がられそう。どうしていいか分からずオロオロしていると、私の後ろからマーサが現れた。


「姫様。後は私がやっておきますから、姫様はゆっくりお休み下さい」


 さすがマーサ! 頼りになる!


 心の中でマーサに手を合わせながら、頷いた。


「では、お願いね」

「はい。お任せ下さい」


 マーサが頭を下げるのを確認したところで、くるりと背を向けて、奥の部屋へと逃げた。


 その日から、マーサと一緒にサラサが私の世話をしてくれるようになったのどけれど、どこか私を怖がっているようで、上手く意思の疎通が取れない。マーサも原因を探ってくれているみたいなんだけど、まだ分からないと眉尻を下げた。


 仲良くなろうと思って、砂糖菓子を一緒に食べないかと誘ってみた。けれど、サラサは声も出さずに首を振っていたの。もう、この世の終わりみたいに顔を青ざめさせて。そんな顔を見せられてまで、無理に砂糖菓子を勧めることもできず、砂糖菓子は一人で食べた。


 今の私にとって、大きな課題は二つ。ユリウス様のことを知ること。そして、サラサと打ち解けること。


 本当はもっと沢山課題はあるのだけれど、その二つだけで、私の両手は塞がってしまっている。だから、まずはこの二つ。しっかりしていこう!


 ユリウス様と会えなかった日の二十日目の夕刻。私はユリウス様にお手紙を書いた。












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