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3.政略結婚のお相手は

 絵姿詐欺なんて、良くある話。絵姿なんてあてにならない。腕の良い画家は心得ている。主人の機嫌を取るためなら少しくらい髪を増やしたり皺を取ったりするものだ。そう、一番目のお兄様が言っていたのを思い出していた。


 ウェルダール王国から貰った絵姿を見て、これで主人の機嫌を取る為に、少しかっこよく描いているというのなら、頭には髪の毛ではなくて、ワカメが乗っているに違いない。そんな風に思っていた私を、誰か殴って欲しい。


 こんな美しいワカメがあるのなら、毎日ワカメでも良いと、一番目のお姉様は言うことだろう。一番目のお姉様は美しい物が大好きだから。


 北国の人というのは、皆肌がきめ細やかで綺麗なのだろうか。ユリウス様の長くて綺麗な手ばかり見てしまう。さすがに顔をまじまじと見るのは失礼だもの!


 それにしても手まで綺麗だ。お兄様方の少し無骨な手とは違う。


 芳しい紅茶の香りは、嗅ぎ慣れない香りだった。帝国のよりも香りが強い気がする。慣れない生活で疲れているからそう感じるのだろうか。


 ユリウス様の隣に座りながら、確かめるようにもう一度紅茶の香りを吸い込んだ。


「旅の疲れは取れたか?」

「はい、ゆっくり休ませて貰いましたので」


 二十日もね! 二十日も休めば、旅の疲れも忘れてしまうどころか、暇過ぎて逆に疲れたような気がします。でも、外面の良い私は、そんな嫌味みたいなこと言える訳もなくて、はにかんで終わった。


 それにしても、絵姿詐欺も大概だ。こんなに違ったらもう別人だよ。あの絵姿を見て、「やっぱりやめた!」って言わせたかったのではないかと疑う程だ。


 本物そっくりに描いていたら、二のお姉様が「私が行きたい!」とお父様に食いついただろうな。年も二十と同じだし。


 そんなニのお姉様に借りた本に、麗しの王子様との蜜月を描いた小説があった。


 あの小説だと、麗しの王子様は常々蜂蜜よりも甘い言葉を使っていた記憶がある。彼が一言発する度に、うぶな私は「ギャーキャーワーキャー」騒いだものだ。


 でも、この口からそんな甘い言葉が聞けたら最高かもしれない。すぐにとは言わないけれど、いつか必ず!


 己の手を強く握って頷けば、ユリウス様が訳もわからず困ったように首を傾げる。


「なんでもありません。おほほほ」


 今のは少し、取り繕い過ぎたかも。あまりにも恥ずかしくて、三のお姉様が持たせてくれた扇を広げて口元に当てた。


 三のお姉様は私の一つ上のお姉様で、扇子集めが趣味だった。輿入れが決まった日、泣きながらお気に入りの一つを持たせてくれたの。「今生の別れじゃ無いんだから」なんて言いたかったけれど、国外に嫁いだ時点で次会える確約が有るとすれば、天国に行ってからだ。


 お姉様方との別れを思い出すと、少し泣けてくる。でも、お姉様方と、泣かないって約束したから、泣かないのよ。


「知り合いもいない全く知らない土地に来て、辛く無いか?」


 形のいい眉を下げて、私の顔を覗き込む。それ以上近くに来ると、輝きで目が潰れるかもしれません。輝きから逃れるように、目を細めれば辛いことでも思い出したのかと、子供にするように頭を撫でられた。


 彼は人の悲しみを考えることのできる優しい人みたい。この人となら、うまくやっていけるかもしれない。


 政略結婚だとしても、やっぱり仲良しが良いものね。


「大丈夫です。マーサもいますし」

「マーサ?」

「連れてきた侍女のことです」

「ああ、二人連れてきていると報告に上がっていたな……侍女は彼女だけ?」

「はい。なので、もし可能ならこの宮殿のことに詳しい侍女を何人か付けていただけませんか?」


 会ったばかりでおねだりは、さすがに我儘に見えてしまうかな、とも思った。けれど、マーサは一人で二十日間私の世話をしてくれている。


 このままじゃ、マーサが倒れちゃうもの。マーサの為にもあと数人、侍女をおねだりすることこそ私が一番にやらなきゃならないことだ。


 帝国では私付きの侍女が二十人くらい居たんだけれど、ここだと一人の王族にどの位の人数付くものなんだろう。


 侍女を沢山雇うということは、権力の誇示にもなるけれど、職を得る人を増やせるのよ。人を沢山雇えば、一人の負担が軽くなる。楽でお給金が多い方が皆良い仕事をしてくれるの。そう教えてくれたのは、お母様だ。


 私の世話をするだけで二十も必要ないよ? と減らそうとしたら教えられた。


 お姉様方も沢山の侍女を連れていたし、いつも顔ぶれが違っていたから、そういうものなのだと思う。


 仲良くなった侍女が、下町のお菓子を買ってくれて、皆でお菓子パーティをしたりしたこともあったわ。


 この国でもそういう関係を作っていけたらいいな。


「分かった。伝えておこう。他に何か必要なものはある? 他国から妃が来るのは初めてで、至らない点も多々あるかもしれない」


 だから二十日も放置されたの? 客人として食事とか必要最低限のことはしてくれていたけど、それだけだった。


 だとしたら、私から主張していった方がいいのかもしれない。借りてきた猫の生活は肩が凝るもの。


「何か有りましたら、またお願いさせて下さい」


 あれもこれもと主張したいけれど、まずは情報収集から。帝国の常識がこの国の常識ではない。帝国の常識であれやこれやとお願いするのは迷惑になるかもしれないもの。外面の良い私は、笑顔を作るに留めた。


 まずは侍女から情報収集といきましょう!


 最初のお茶会はぎこちなくも、つつがなく終了した。殆ど初めましての割には、上手く行った方だと思いたい。


 お茶会が終わった後は、ユリウス様が部屋までエスコートしてくれたのは嬉しい誤算だ。別れを惜しむ恋人みたいでむず痒い。


 けど!


 ユリウス様と歩いていると、どんどん前に進んでしまう。五歩進む度に、小走りで隣に行かないと、置いて行かれてしまう。


 ユリウス様の足が長過ぎるのが悪いのだ。断じて私の足が短いわけではない。私よりも頭一つ分は背が高いから、足の長さだって全然違う。歩幅が随分と違うから、五歩も歩けば離れてしまう。


 婚約者だし、半年後には妃になるのだから、隣で歩く機会も多い筈。早急に上品な早歩きを取得した方が良さそう。淑女たるもの歩く姿は上品でなくっちゃ。


 そういえば、二のお兄様はユリウス様と同じくらいの身長だけれど、私が置いて行かれることは無かった。二のお兄様は足が短いのかしら?











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