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2.出鼻を挫かれましたが、負けません!

「お姉様、いいなあ〜」


 めくるめく新婚生活が綴られた手紙を、私はギュッと握りしめる。


 羨ましい!


 とーっても羨ましい!


 もう、手紙の端々から伝わってくる『愛されて困っちゃう』って感じ。私、こういうのを何と言うか知っているの。


 溺愛。


 あー、いいないいな。お姉様、いいなあ〜。私も毎晩「愛してるよ」って囁かれて、抱きしめられて眠りたい。


 二人だけの庭園で、好きな花を眺めながら「うふふ」って笑い合いたい。甘い果実を口に放り込まれて、その後口づけされて、「お前の方が甘いな……」なんて、言われたい!


 私だって、溺愛されたーい!


 私は部屋の長椅子に転がった。



 ◇◇◇◇


 王女として生まれたからには、好きな人と結婚できるなんて考えては駄目よ。貴女はお父様の仰る通りの方に嫁いで、子供を産むの。そう、お母様が言った通り、私は十六歳の半ばという若さで、北の小さな国、ウェルダールに輿入れすることになった。


 若過ぎると反対した人も多かったけれど、皇帝であるお父様の言葉は絶対。結局決定から十日の内に、あっさりと送り出されてしまった。


 ウェルダールの織物がとても稀少な物なのだ。それを取引する為だけに、私はウェルダールの王太子と婚姻を結ぶ。


 同日、七歳上のお姉様も、南の国への輿入れが決まっていた。お姉様と一緒に見た二人分の姿絵。お姉様のお相手は、とっても包容力のありそうな美丈夫だった。私のお相手、ウェルダール王国の王太子ユリウス様はというと、何だかパッとしない顔をしている。


「ウェルダールには良い絵描きがいないのかしらねぇ」


 お姉様がほんのり苦笑気味に呟いた言葉は忘れもしない。


 でも、本当に目と鼻と口が付いた普通の顔。あまりやる気の感じられない姿絵。もしかしたら、ウェルダールはこの婚姻をあまり望んでいないのかもしれない。


 そんな不安が頭を過ぎってもおかしくはないと思う。


 それでも私だって王族の端くれ。母国とウェルダール王国の親交の為にも、愛されるような王太子妃になろう!


 そう、心に炎を宿して長い長い旅路に出た。


 帝国から連れてきたのは侍女のマーサと、護衛のジオルの二人だけ。あまり帝国の人間で固めたら、印象が悪いもの。後は嫁いだ国に任せようと決めた。


 馬車二十台分の嫁入り道具は、帝国の富を表す為に必要らしい。減らして欲しいとお願いしたけれど、こればかりは譲れないと、首を横に振られてしまった。


 帝国の首都から山道を通って、何回も休みながら私はこのウェルダール王国に骨を埋める覚悟で宮殿の門をくぐった。


 白亜の宮殿は綺麗だけれど、とても小さい。お母様と私が使わせて貰っていた離宮の一つと変わらない大きさだ。


「お城は別の所にあるの?」


 なーんて、聞いてしまって、ウェルダールの人達を凍りつかせてしまったのは、つい先月のこと。それが最初の失敗。


 帝国の規格で考えてはいけないのだと、改めて胸に刻んだ。


 ウェルダール王国に着いた次の日、私はこの国の王族の方々と会うことができた。国王と王妃、息子が三人。並んで挨拶を受ける。


 帝国と違って、ウェルダール王国は王族も一夫一妻制を取っているらしい。私のお父様なんて、五人も妻がいるのに。帝国とは全然違うらしい。


 そして、ここに来て一番衝撃的なことを聞かされた。


「ウェルダールでは、十七歳から成人と認められます。成人になるまでは婚姻はできません」


 国王の隣に佇んでいた宰相だと名乗る男が説明をしてくれる。帝国では十五で成人とされていて、婚姻も十五から許されていた。


 私は十六。ここでは未成年だ。結婚できないんじゃない!


 早速お父様の期待に応えられない自分自身の不甲斐なさを感じて、呆然としてしまった。


 私の絶望をよそに、宰相が言葉をつづける。


「ですから、今回は……」


 門は潜らせて貰ったけれど、いわゆる門前払いですか!


「いや、ルーナ王女がよろしければ、成人されるまでは婚約者というお立場では如何だろう? 十七歳になるまでは、こちらの宮殿の客人として過ごしてくれれば良い」


 宰相の言葉を遮ると、国王は優しい笑顔を見せてくれた。


 何という優しさだろう! 王妃も優しく微笑んで頷いている。その後ろに並んだ三人の王子は笑顔ではなかったけれど、嫌がっては居なさそうだった。 


「本日から、よろしくお願いいたします」


 私は帝国に居た頃に沢山練習した礼を取る。


 こうして、私は十七になるまで半年、客人としての生活が始まった。


 政略結婚とは言え、婚約期間があるというのはありがたい。だって、初めましてで同じ部屋で暮らして下さいでは、十六の私では難易度が高い。その点、少しずつお互いを知ることのできる時間は、恋愛経験が全く無い私には、有難いことだった。


 けど!


 思ってたのと違うの。


 そう、恥じらうように目を合わせて、少しずつ紐を解くように会話をする筈。


 宮殿で暮らしはじめて二十日目の朝、婚約者であるユリウス様から、お茶のお誘いを頂いた。


 二十日よ、二十日!


 ちょっと遅すぎない? 確かに顔合わせはしましたとも。でも、とっても遠かったの。目と鼻と口が付いていることは分かったけれど、目の悪い私には、ぼや〜っとしていてはっきりとは見えなかった。


 何の音沙汰も無く、ぼーっと宮殿で過ごすこと十日。そろそろ何かしらの動きがあっても良いのでは? と、侍女のマーサと話し始めた。


 でも、嫁入り前なのに出しゃばるって印象が悪くなるのも怖かった私は、そのあと追加で十日もジッと待っていた。


 そして、やっと来た招待状!


 やっと! やっと来たの!


 ちょっと浮かれて、お気に入りのドレスを着た私は、お茶会の会場だと通された部屋で待つ、我が君……じゃない、婚約者様を見て呆然としてしまった。


「久しぶり、ゆっくり休めたかな?」

「は、はい……」


 薄く笑う目の前の男性は誰だろう?


 確かに目と鼻と口が付いている。姿絵通りの金髪だ。絵では髪の毛はベターっとなっていたけれど、ふわっふわの癖っ毛で、あの中に手を入れたら気持ち良さそう。空のように透き通った瞳。


 絵と全然違う!


 我が婚約者、ユリウス様は、あの日見た姿絵を数十倍も美しくした顔をしていた。私は思わず頬を染めてしまったと思う。


 二十日くらい、なんだと言うの? この顔の前では、文句の一つも言えず、私は促されるままに、お茶会の席へとついた。










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