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第四章 12節 月と海(最終話)

ついに最終話。

 その日、Rは帰宅するとすぐにノートPCを起動して、「未来の可能性」、というファイルを作り、メモ帳で開いて書き込み始めた。


私の未来の可能性


 (1)ビットコインで大儲け(無理

 (2)Mさんと一緒に小説を書いて大儲け(難しい?

 (3)コンビニのアルバイトに復帰(これがいいかも?

 (4)アカデミーでシナリオの書き方を学ぶ(楽しそう

 (5)結婚して裕福な家の奥様に(絶対無理

 (6)ニートになって太る

 (7)宝くじを当てる(無理


「他には……」Rは考え込んだ。MはそんなRを黙って見守っていた。


「そうだ!」


 (8)Mさんしか知らない話をマスコミに売る。

 (9)Mさんを(かた)ってネットで大暴れ。

 (10)Mさんと結婚して幸せな家庭を。


「おい……」Mが思わず突っ込みを入れた。「大丈夫、大儲けとか、幸せな家庭とかあんまり興味ないから。ただのネタだよ」



 ネタはともかく、Rは真剣に考えてはいた。過去を変えることが出来ないなら、今を精一杯頑張って、未来を少しでもいいものにしなければなのだ。過去に戻って書きかえられる運命なんて、つまらない。一度しかないこの瞬間だから、がんばらないとなのだ。


 (そうだ……、R……。そういう考え方、どこかで見た気がしたが、フリードリヒ・ニーチェの、永劫回帰えいごうかいき、という思想に似てる。ニーチェは哲学者にして思想家。小説家でもある。彼はキリスト教で語られる、「天国」、「地獄」、に懐疑的で、神を批判したことでも有名だが、死んだ後の幸せ、「天国」を夢見て幸福感を得る人を批判し、彼は「永劫回帰」を唱えたんだ)


 (えいごう、かいき?)


 (うん、永劫回帰とは永遠に回る、メリー・ゴーランド。今生きているこの瞬間を、人は未来永劫、何度でも繰り返す。だから人は、瞬間瞬間を大事に生きねばならないのだ。Rのさっきの考えは、それに似てるよね)

 

 (うーーーん、よくわからないけど、近い気はするね)


 (うん。過去をくよくよと悩むよりも、人は未来を良くするために、がんばるべきなんだ。そのために何を選ぶか、よく考えるんだ)


 (うん)


 Rはよく考えた末に、「(4)アカデミーでシナリオの書き方を学ぶ」、という未来を選んだ。できたらあの男子と同じ学校に通いたいな、明日パンフレットを見せてもらいながら相談しないと、とRは考えた。


 帰宅した母親に、Rは自分の考えを伝えた。母は少し不安げな面もちで聞いていたが、聞き終わってにっこりとほほ笑んだ。そのうれしそうな顔を見て、Rもうれしくなった。


「お金は、大丈夫? 私もアルバイトはするけど」


「うん、Rががんばるんだったら、お母さんもがんばるよ。二人でいい未来にしようね」


「うん」


こうして、Rとその母親の、未来改造プロジェクトが始まった。そのプロジェクトには恐らく、例の図書館の男子や、クラスメートのメガネっ子も、巻き込まれるのだろう。でも、だからこそ人生は楽しいのだ。運命は輝くのだ。いろんな人が助け合い、がんばって何かを成し遂げる。そんな未来がきっとくる、とRは思った。


 ───


その頃……。

「あの世」において、女神は、「阿頼耶識あらやしき」の新しい記憶をサーチし、自分の、そしてMとRの未来を理解し、愕然としていた。「Rちゃんが……」、と女神は力なくつぶやいた。未来に女神を打ち滅ぼし、新たな日本の神になるのは、Rだとわかったのだ。さらに衝撃的なことに、MはRの側につき、女神の「滅び」を早める役目を果たすであろうことであった。


 (M……)


女神の表情が凍りついた。女神にとって辛うじての救いであったのは、Rが「地獄門」を使ってこの宇宙を崩壊に導こうとは、恐らくしないであろうということ、また、あの不可思議な技、「鮎の奔流」とやらを使い、未来であれば簡単に変えられるであろうことに、RもMも、気付く気配がなさそうであるということだ。もしそんなことが起これば、未来はどうなるかわからない。今はRがその可能性に気づかぬことを、女神は祈るばかりだった。


 ───


Mはベランダに立ち、月を眺めていた。「■■の●」という作品は、わずかな傷こそあるものの、(いや、その傷も実は計算して入れてあるのだが)、書き直すほどでもない。新たに五巻を書くほどでもないという結論となった。だとしたら、自分はなぜここにいるのか、と思わないでもなかったが、やはりそれは、俺が望んだことなのだろう。俺は夢に現れた、「未来から来た」少女Rに惹かれ、彼女との再会を望んでいた。そして今、それがかなったのだ。ならば……、その夢が成就した今、俺はどうするべきなのだろう?


 いや、そう自分に問うまでもない。俺はこのまま、Rとともに生き、Rが五衰していく様を見届けよう。そうやってRが老いて、この世を去らねばならなくなった時……。これまでは「荒御霊あらみたま」であった俺も、Rとともにあの世では「幸御霊さきみたま」となり、生まれたままの姿でRと抱き合い、幸福に生きていけるのだろう、そんな気がする。Mは一瞬遠い目をした後、再び月を見た。豊潤なまでの黄色に満たされた今夜の月は、まさに「豊饒の海」に満たされているに違いない。それは空虚な海ではなかった。その名の通り、「豊饒の海」だった。


不吉なまでに美しい金色に輝く月は、Mと、日本と、地球を照らしていた。Mはその輝きに「豊潤」を見たが、果たして本当にそうなのか。金色の月の背後で、見えない影がちらっとよぎった。それはなんらかの「意志」であった。


 ───


常夜灯に照らされた部屋の布団で身を固くしていたRは、その「意志」に気づいたかのように、月に顔を向けた。布団から右手だけをそっと出し、カーテンの向う、月が存在しているであろうポイントに向けて人差し指を立て、Rはつぶやいた。


 (鮎の、奔流)


月の背後に潜む「意志」がたじろぎ、Rを見据えた。Rの唇が微笑み、その片目が赤く光った。



「MとRの物語・■■の● 第五巻 了」

「小説家になろう」への初投稿作品、お読みいただきありがとうございました。


この作品はきっと、なろうでは受けないだろうと予想していたんですけど、予想していたより多くの人が読んでくださったようで、ほっとしたり、うれしく思っていたり。励みになりました。もし次回作を投稿させていただくとしたら、なろう向けにガリガリにチューニングした作品にしたいと思っています。よかったらまた、よろしくお願いします。

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