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第四章 4節 女神九相図

 楽しかったパーティーが終り、Rとその母が眠りについた後、Mはベランダで、軽くうとうととしていた。そこへ天から、女神が舞い降りた。


「やあ、来たな」


「ええ。色々と情報も仕入れてきましたよ」


阿頼耶識あらやしきを使って?」


「そう。未来のことを少し見てきました」


ベランダに降り立った女神の顔は、月の光のせいか、蒼白に見えた。


「じゃあ、情報交換だ」


Mは右手を女神に向かって差し出した。女神がそれに触れた。その瞬間、二人の間の情報交換は終わっていた。


「そう……、Rちゃんがあの竜と……。時間遡行、すごいわね」


「ああ……。それより、なんだこの未来は……」


 Mは女神から受け取ったビジョンを見返し、反芻していた。そしてそこに記憶されていたのは……、女神消滅までの一部始終であった……。


「まるで九相図くそうずだな。悪趣味な! なぜ……。誰がこんな……」


 九相図というのは、仏教絵画の一つ。野山に打ち捨てられた人間の死体が、朽ち果てていく様を9枚の絵に描きとめたものである。人の世のはかなさを説いていると言われる。女神の場合、人間のような肉体は持たないため、このような醜い姿となるわけではない。その全身の像がぶれ、崩れ、見えなくなり、その後、新たな神が誕生する。そう、神の死とは、神の世代交代の時に起こるものなのだ。


「神の世代交代? そんな……」


「以前未来を見た時にはなかったものです。明らかに未来は変わりつつある。ちなみにその先の未来は、全く見えませんでした。阿頼耶識の仕組みさえも変えてしまうような、新しい神が誕生するのかも……。」


「世代交代は、なぜ起こるんだ?」


「それは、その神への尊敬の念、祈りの力、信仰が、弱まるということ。残念ですけれど」


「神は、人間の信仰によって生かされている……」


「ええ、そういうこと……。ちなみにね、私は日本の敗戦、第二次世界大戦直後に、一度消えかけたの。私の手や足は朽ちて別の生物の手足や顔が、生えかけていた。日本人の心がアメリカに支配されかけていた、ということね。そんな状況を破壊して、私を元の姿に戻してくれたのは、M、あなたなの。あなたが命をかけて残したメッセージが、日本国民の多くを、奮い立たせてくれたのですね」


「そうだったのか……」


「ええ……。だから私は、一時的に延命されていたようなもの。もし近い将来、消えてしまったとしても、私にはもう悔いはない。あなたとのゲームはいつも楽しかったし、今はこうして休戦もできて、よかったと思っています。本当に、いい頃あいなのかも」


「気弱なことを言うな。大丈夫だ、俺がまた何とかする」


「いいえ、今、日本人が望んでいる神は、融合生物、キメラなのよ」


 女神はベランダの手すりに手をかけ、右手を天に向けた。伸ばされた人差し指から、光り輝く雪と、星の形をした飾りと、その他クリスマスツリーのデコレーションが大量に放出され、風にのって宙に舞い、キラキラと輝きながら、街に降り注いだ。疲れ切ってポケットに手を突っ込みあるいていたサラリーマンや、水商売の女たちが、おどろき、目を輝かせて子供のように上空を見上げた。


「ハッピー・ハロウィーーン! おほほ! おほほほほ!!」


 おい、いろいろ混ざってるぞと、突っ込みを入れそうになったMだったが、哀しく微笑み、口を閉じた。そうだ、これこそが融合生物、キメラなのだ。日本古来のイベントを忘れ、旬の遊びを忘れ、得体の知れないどこかの国の文化にうつつを抜かす国民。アメリカがそうなったように、日本もそうなるのか。


「いや……、そんなことは断じてさせない。日本文化の死は日本の死だ。俺は断固、それを阻止する」


「そうね……、そうしてくれるとうれしいわ」 女神が気弱に微笑んだ。

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