第二章 10節 新学期
ついに新学期が始まった。Rはこの夏、大きく成長した。教室に入ると、何人かのクラスメートがこちらをちらっと見た。気のせいか、少し驚いたような表情。いや、気のせいではなかった。私の心が変われば、周囲の人の心もきっと変わるのだ、とRは思った。確か以前Mさんがそう言っていた。
まだ始業には少し時間があった。Rは、カバンから文庫本、「■■の●」第三巻を取り出した。1、2巻はともに日本のお話だったが、3巻の舞台は海外だった。話が進むたびに、ハードルが上がっているように感じる。でもここで負けたくなかった。もう半分読み終えたのだ、あと半分……。
(あれ?)
誰かがRの席の横に立っている。見上げると、黒縁の眼鏡をかけた女子が、微笑みながらRを見下ろしていた。
「お、おはよう。Rさん、何読んでるの?」
「あ、うん、おはよう。これ……」
Rは本を裏返して、表紙を見せた。
「■■の●! しかも3巻! すごいね、難しい本読んでるね」
「そうなの? はは……。ものすごい苦労してるけどね」
「そうなんだ。邪魔しちゃってごめんね、またお話させてね」
「うん、いいよ」
Rは言った。女子は顔を赤くして、去っていった。
クラスメートに話しかけられるなんて、これが初めてのことかもしれない。Rは平静を装いながらも、ドキドキしていた。なにかこの世には、見えない歯車があって、その歯車がゆっくりと動き出したみたいだ。
(Mさん、この世って不思議だね)
(うん、この世とはそういうものなんだ。何かのサインがあって、動き始める。だがもしサインがなくても、気にしなくてもいい。この世のどこかに、歯車は存在する。それを見付けて、動かせばいいんだ)
(うん、なんとなくだけど、わかるよ)
始業準備開始の、予鈴が鳴った。Rは文庫本を、水色のリュックにしまった。Rは考える。自分にとっての歯車って、なんだろう。Mさんと一緒に小説を書くこと? それを発表して、有名になって、お金を稼ぐこと? それとも、勉強をもっと頑張って、いい仕事に就くこと? もしかして、大学にも行っちゃったり? 恋をして結婚する、という平凡な生活もあり? 結婚するなら、Mさんとがいいけど、きっと無理だよね。
この世の巨大な時の秒針が、ゆっくりと回っている。その時計が、何かを告げようとしている予感。そうだ、私はその時計を探そう。Mさんのために、お母さんのために。
Rにとっての、新しい季節が今始まった。
MとRの物語 第二章 <了>
お読みいただき、ありがとうございます。
最終章は5章なので、今2/5くらい。
今後どんどん、風呂敷が広げられ、めくるめく展開に。お楽しみにー、がくがくぶるぶるw




