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第二章 8節 逢魔が時

 それは感動的な、いい映画だった。美しい風景、リアルな空気、息づかい。ちょっとした仕掛けがいくつもある。でもそれほど難しくはない、わかりやすいストーリーだ。Rの右手がかすかに震えている。涙を我慢しているのだ。


(ちょっと待ってね)


 そう言ってRは右手でリュックの中をさぐり、マスクを取り出して、それをかけた。Rの右手は、再び左手と絡み合った。ぽろ……、とRの頬を、涙がこぼれたが、それはすぐに、マスクに吸収された。


 Rの眼を通してスクリーンを見ているMの目にも、うっすらと涙がにじむ。この身体に入って以来、涙もろくなってしまっているのは相変わらずだ。


(周りのラブラブな人達も、みんな泣いてるね)


(そうだな……)


 アニメとはこんなにも、すごいものだったのかと、Mは驚嘆していた。無論Mは、最近のアニメ映画も記憶にはあるのだけど、それは人の記憶を共有させてもらっただけのものであって、こうやって眼前の巨大なスクリーンで上映されると、感動も臨場感も、ひとしおだ。せつないシーンが続き……、エンディングを迎えた。


(よかった、よかったよ……)


 Rは大泣きしていた。その涙をすべて受け止めるには、マスクは小さすぎたが、Rは構わなかった。きっとそのうち乾くだろう。上映が終わり、暗かった館内が明るくなると、あちこちでラブラブな人達の、照れ笑いが起こる。みんなそれぞれの日常に戻ったのだろう。Rも、ゆっくりと手をほどき、左手の甲をそっとなでた。


(ありがとうMさん。いい思い出になったよ)


 水色のリュックを抱きしめ、Rは立ち上がり、出口に向かった。ショッピングモールを出ると、少し暗くなり始めたターミナルを、さわやかな風が吹き抜けた。やわらかい電飾が灯り、かすかに、秋の訪れを予感させた。さらに行き交う車のテールランプが、逢魔が時のすんだ青に、なめらかなパターンを描き出す。


(さあ、帰ろうか)


(ごめんね、もう少し……。このままでいさせて)


 Rは白い壁にもたれ、行き交う人々や、通り過ぎる車を眺めた。MにはRの心の中にも、小さな小さな火が、灯ったように感じた。時はこの瞬間にも、緩やかに流れていった。

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