歪みと世界
「ギギ……。なんだ、これは。この世界から出られない……?」
世壊シはこの世界から脱しようとしたようだ。能力は手に入れたし、この場所に留まる必要はない。そもそも、夜のないこの世界は世壊シにとって、居心地がいい場所とは言えない。だが、何かに阻まれて出ることができない。
「困ってるみたいだね。僕がヒントをあげるよ」
どうするか熟考しているところに、一人の子供がやってきた。世壊シの姿にもビビった様子も見せずに。
「ギギ、誰だ。お前に何が解る」
「僕は、そうだね。リアとでも呼んでよ。こんな姿だけど一応は中立の管理者の、代理人的な事をしてるんだ。そして、真実を知る存在でもあるよ」
世壊シに微笑みかけるリア。だが、その正体は中立の管理者の代理人であり、真実を知っているという。何に対しての真実なのかは解らないが、少なくともこの世界に関係しそうだ。それも、本当に何かを知っているのならばという話だが。
「俺はここから出られればいい。お前の真実は不要だ」
「君には不要かもしれないけどね、一応は警告しておこうかな。今ならまだ大丈夫だけど、ここで死んでしまったら永遠に出られないよ。だから、早く出たほうが良いね」
「ギギ、なんだその戯言は」
死んでしまったらもう、出られない。確かに戯言としか捉えることはできないだろう。
「見ているのは中立竜と、外で見てる人だけだからね。僕は知ってるだけっていう気楽な立場なんだ。特等席を取った気分だね。だから、本当に出られなくなったのか、それを知るのは次の僕なんだ。つまりね、君の事なんか知ったこっちゃ無いね」
「ギギ、訳が解らん」
「君という存在はとても僕らの希望に成りえたんだ、だけどね、君は存在を縛られてしまっている。役割を持っている。そうじゃないんだ、役割を持たないキャラクターが必要だと思うんだ。白い状態、白紙なら何かを書き込めるからね。役割を持ってしまったら、その道を辿るだけで、何度も繰り返すだけなんだよ。だから、皆は希望を抱いて同じ事を繰り返せるんだね。滑稽だよね」
「ギギ、俺が聞きたいことは出る方法だけだ」
「あー、そうだったね。それなら、君の得た力がイニシエンの物で幸運だったね。あいつの力は、行動と結果を直結させる能力。つまり、あらゆる過程を無視できるんだ。でも、気を付けて、行動できなければ、結果は生まれないからね。その力を使って、過程なんか無視して、この世界の壁を壊してしまえばいい。簡単でしょ。こんな柔い世界の壁なんて、実を持つ君ならね」
「ギギ……。複製[次元を破壊する一撃]」
世壊シの突き出した足は、あらゆる過程を無視して、ただ、次元の壁を破壊した。空間に穴が開く、世壊シはその穴から、何も言わず世界の外に出た。
「君はやっぱり、希薄な望みを絶つ存在には成りえなかったんだね。この終わらない希望を絶ってくれる存在が来るまで、僕は待つよ」