神聖と布石
「ギギ……。なんなんだ、あいつは」
「そんな事を言うな。何か理由があったんだろう」
「ギギッ、誰だ!」
どこからか聞こえてくる男性の声。声の元をたどると、レアルの残骸の中に、トランシーバーのようなものあった。そこから聞こえてきているようだ。
「私は……。神聖の管理者とだけ名乗っておこう。異界の存在、世壊シ。実に良い名だ。この世界に足りないものがそろっている」
「ギギ、何が言いたい」
「頭の多い船は沈むだけだ、貴様が気にする必要はない」
「なんだそれは」
意味の解らない事を言う神聖の管理者に、興味を失った世壊シ。その場を立ち去ろうとするが。
「まぁ、待て。見慣れぬ世界に困惑していることだろう、私が少しだけ説明してやる」
かなり上から目線な言葉だが、この世界について解らないことが多いのも事実。世壊シは一応話は聞くことにした。
「ギギ、話してみろ」
「この世界は望まれて創られた世界。希望だけを詰め込まれて創られた世界だ。故に……、この世界に貴様の言う[夜]という概念があるはずがない。操る対象が無いのだから、操る事は出来ない。最も、たとえ悪が無くとも、善と善がぶつかるのだから、救いのない話だ」
「感じていた違和感はそれか……」
世壊シにとって[夜]はあって当たり前の物。それが無いという事を考えること自体が難しいが、言われてみれば、そうかというだけの話だ。
「さて、そんな世界を管理するのが、私たち管理者だ。変化を促す混沌、安定に固める秩序、それぞれ違った視点で人を導く邪悪と神聖。そして、勢力が偏りすぎないように調整する中立。私たちはこの世界で永遠に存在し続けなくてはならない。希望の一部として」
「だから何だと言うんだ」
「その名、世壊シ。私にとっては解放であり、救済。簡単に言おう、この世界を破壊してくれ、それが私にとっての希望。この世界にとっての希望」
「ギギ、黙れ」
世壊シはその足でトランシーバーを踏み壊した。今の世壊シはそういう存在ではないのだ。苛立った様子で何度も何度も踏みつけた。
「ギギッ! 俺が希望? ふざけるな」