異常と正常
「ギギ、じゃあな」
「……待て!」
世壊シは致命傷を受けたイニシエンを無視し、先へ進む。何かおかしいと、世壊シは違和感を感じている。何か、あるべきはずのものがこの世界にはない。
「ギギ……。こんなこと、今まではなかった。夜を操る力が使えない」
違和感とは、夜を操る力を使えないことだ。思考に没頭しながら進んでいると、森へとたどり着いた。世壊シは、そういえば1つ前の世界で都合の良い能力を手に入れていたと、手頃な木に触れようとした。
「汝は歪み。あるべき姿を忘れ、あるべき輪廻より外れた。歪み。世界の理から逸れてしまった姿、痛ましい、嘆かわしい。汝はとても、可哀そうだ」
どこからか女性の声が聞こえ、世壊シは木に触れようとした足を引っ込め。周囲を警戒するが、人影は見えない。
「誰だ、どこに居やがる」
「我は秩序の管理者。エンシェント。汝を正しに来た。あるべき姿に還れ、あるべき輪廻に還れ。一度大地に還り、輪廻に戻りなさい。汝の姿は痛ましい」
世壊シの周囲の地面から木の根が生えてきて、世壊シを取り囲む。
「ギギッ、木の根程度でどうにかできると思ってるのか」
「あるべき姿へ、あるべき輪廻へ。秩序[大地の浄化]」
木の根から浄化の波動が発せられる。それを受けている世壊シはあまり気分が良くなさそうだ。イレギュラーを嫌うエンシェント、夜壊シである事が正常であるために、世壊シは異常なのだ。そして、異常を正すのは秩序の管理者の力。
「ギギッ……!? やってられるか! [バーニングフィスト]」
世壊シの足が炎に包まれ、木の囲いの一部を吹き飛ばした。そして、そこから脱し、一気に加速。森から距離をとる。が、世壊シの隣を何かが並走している。
「なぁ、アンタ面白そうだな! 監視カメラで見てたんだけど、妖怪とかいう種族なんだろ!」
「ギギ、黙れ」
「アタイは混沌の管理者。レアル・グリードっていうんだ。早速だけどアンタの魂くれない? アンタの魂なら面白い機械が組めそうだよ!」
「やるわけないだろ」
並走しているのは、腕時計をたくさんつけた女性。世壊シのスピードについていけているという事は、ただの人間ではない。
「えー、でもさー。機械は人間が使うための物だから、人が嫌っていう事は出来ないけど。アンタは妖怪だから関係ないよな!」
レアルはどこからか拳銃を取り出し、世壊シに向かって発砲するが、その攻撃すべてがすり抜けている。
「ギギ、邪魔だ。[一閃]」
世壊シは立ち止まり、足を振るう。すると、レアルの胴体が真っ二つに分かれた。断面はバチバチと火花が散っている。
「うっそー、マジかー」
レアルの身体は派手に爆発した。金属片が飛び散っている。だが、世壊シは気づいていなかった。飛び散った金属片の一つが、その身体に入ってしまったこと。