開幕と奪取
「ギギッ……。能力が集まってきたな、手頃な世界を経由して元の世界に戻るとしようか」
一つ目の黒い蜘蛛の化け物、世壊シと呼ばれる存在は、世界を飛び回り、自身の能力をコピーする力を駆使し強化してきた。そして、今。次の世界に移るために世界の狭間を飛んでいる。
「ギギッ……!? なんだ、ここは」
次の世界に移動する途中で、地上に落ちた。その場所はまるで、何もない空間に、世界の一部だけを切り取って、何もない場所に浮かばせたようだった。
「おい、お前は誰だ」
世壊シの目の前の空間が割れる。そして、その空間の隙間から、鎧を着た大男が悠々と歩いてきている。そして、隙間から出てくると、空間は勝手に閉じた。
「ギギ、俺は大妖怪、世壊シだ」
「妖怪? なんだそれは? まぁ、いい。俺は邪悪の管理者であり、魔王ラギ・イニシエンだ。お前はどこから来たんだ?」
「ギギ、ほかの世界から。とだけ言っておこう」
「そうか、それなら。提案がある」
イニシエンは、一歩前に進む。堂々とした風格で世壊シを見つめている。
「なんだ」
「世壊シ、俺の仲間になれ!」
「何故だ」
「この世界を見てどう思う。活気も何も無い。それどころか、この世界では人が……。俺の民はもうほとんどこの世には居ない。寂しい世界だ」
「ギギ、関係ないな」
世壊シからしてみれば、こんな世界の崩壊など知ったことではない。そもそも、好きで来たわけでは無いのだし、何か能力を得てしまえば本当に用済みなのだから。
「この世界に革命を起こす。その為に力が必要だ。お前の異世界の力を俺に貸せ! この世界に居る以上はお前も俺の民だ! 異議は言わせねぇ!」
「傲慢だな」
「そりゃそうだ。俺様は魔王なのだからな、傲慢で強欲だ。だからこそ、こんな世界は許せねぇ。もう、誰一人として不幸にはさせねぇ! 俺は強欲だ、全員が幸せを得られない限り納得できねぇ! これが俺の王としての覚悟だ! 来いよ世壊シ! 後に続け! 俺が道になってやる!」
熱くなるイニシエンとは対照的に、冷めていく世壊シ。何故こんなことになってしまったのだろう。相手が悪かったとしか言えない。
「ギギ、知ったことか。俺は、俺の目的にしか動かない」
「だが、それでもだ。微小な可能性であっても見過ごす事は出来ない。善も悪も知ったことか! 俺は俺の理想を求めるだけだ! 突き進むと覚悟を決めた! 最後に大団円のちんけな王道ストーリーで十分だ! 俺の覚悟は、数千もの転生を超えても、薄れたことは一度もない! 強引にでも進んでみせる! 来いよ世壊シ!」
「俺の知ったことではないな」
「それでも、俺の思いを受け入れられないと言うのなら……。覚悟を抱け! 全力前進! お前の覚悟を俺にぶつけて来い! 俺の覚悟で迎え撃ってやろう!」
「ギギ、迎え撃てるものなら、やってみろよ」
イニシエンに接近する世壊シ。例えイニシエンの体が大きいとしても、それは人間レベルの話であり、世壊シの大きな体はそれだけで凶器になる。だが、動じずただ拳に力を籠め。
「俺の覚悟を受けろ! 邪悪[次元を超越する一撃]」
その拳をただ、突き出した。ただ、その一撃は。距離を無視し、相手の硬さや、大きさも無視し、目を開いたままだとその体がすり抜けるという能力さえも無視して、ただ、殴ったという結果だけを残した。
「ギギッ!?」
イニシエンの怪力は世壊しを吹っ飛ばし、数十メートル向こうへ落下する。だが、イニシエンは知らなかった。世壊シの目が赤くなっていた事、その力は、相手の能力をコピーすること
「最高の結果を求める俺の力だ! 俺が本気を出していれば、飛ばされるだけでは済まんぞ!」
「ギギ、そうかよ。複製[次元を超越する一撃]」
「がはっ……!?」
その一撃は。距離を無視し、相手の硬さなんかも無視し。ただ、世壊シの足がイニシエンの胸を貫いたという結果だけを残した。