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8 お祭りの計画

「ちょっと、大聖堂の図書館に行って調べてみるか」


 俺はその日の夜、大聖堂併設の図書館に入って、古い資料をあさってみた。

 気が遠くなるほど昔から太陽神アムルテラスに関する信仰は続いているから、何かヒントになりうるものがあるかもしれない。


 教皇も立ち会ってくれたが、俺が資料を見るのが速いことにまた驚いていた。


「陛下はもともと僧侶だったのでしょうか……?」

「いえ、しがない隠者ですよ。公的に僧侶の洗礼を受けたことすらありません」

 異端側のアサシンでしたとは口が裂けても言えない。結果的に、主流派のほうの襲撃は全然なかったはずだけど。だからって言っていいということにはならない。


 そして、八百年ほど前の記録を見ていて、あることに気づいた。気づいたというか、そういう伝承も必ずどこかで読んだことはあると思うのだけど、忘れていたのだ。


「この大聖堂って、もともとこことは少しずれた敷地内にあったんですよね?」


 教皇がうなずく。

「はい、大昔はアムルテラス様を祀ることをメインにしていたので、本当に祭祀場所としてのハコ的なものだったそうです」

「そして、そのハコ的なものを二十年ごとに作り変えて、隣に移動させていたんですよね」


「ですね。同じところに長くいらっしゃるとアムルテラス様の力が弱まると言われていました。それで二十年ごとに木造の祭祀空間を作りなおしたとか」


 そうなのだ。原初的なアムルテラス様の祭祀空間は大聖堂みたいなものではなく、あくまでもアムルテラス様をそこに迎えるための空間だった。もちろん、本当にただの容器というわけじゃなくて、それなりにしっかりとした様式の建造物だろうが。


「今から四百年ほど前に、今の大聖堂が完成してからはそのような昔からの風習も廃れてしまいましたな」


「教皇、その廃れた風習、もう一度、復活できませんでしょうか?」


「陛下、復活というと、そのハコを再度用意するということですかな?」


「おっしゃるとおりです。お金は帝国のほうである程度は特別税も出します」


 俺の目が輝いているのがわかったのか、かえって教皇は申し訳なさそうな顔になった。

「陛下、おそらく大聖堂に再び人が来るようにしようとお考えなのでしょうが……今更、古式を復活させただけでは、そこまでの効果は……」


「古式だけではそうですね。しかし、この資料にいくつも書いてあるじゃないですか。それに関する膨大な数の祭礼、つまりお祭りがっ!」

 その言葉で教皇も気づいてくれたようだ。


「イーセという都市をあげてのお祭りをばんばん打ち立てれば、楽しそうだということで観光客もやってきます。お客さんが来たら、後はどれだけおもてなしするかです。大聖堂は、イーセの観光の核になってもらえればそれでいいんです!」


 どこの寺院のお祭りでも、そこに直接お参りに行かない人なんて、いくらでもいる。由来も知らない人のほうが圧倒的に多いなんてことのほうが普通だろう。

 それでも祭りに行く人はいくらでもいる。


 ようはお祭りを開く大義名分を作れば、人は呼べる。


「町は一回寂れきってしまうと、人もそこに住まなくなるので、復興するのはものすごく難しくなります。どうしてもマンパワーは必要ですからね。今、イーセの門前町はまた、にぎわいを取り戻せるか、このまま沈没するのかの分水嶺に立っています。どうか、よろしくお願いします!」


 俺は丁重に頭を下げた。


「あっ、陛下がそのように頭を下げられるのは困ります……!」

 そっか、俺、皇帝なんだった……。下手に出すぎると、変な感じになるんだな……。


 俺はゆっくりと頭を上げた。

 その目には、何か決意を固めた教皇の顔があった。

「わかりました。やりましょう。伝統を守るのも大聖堂の仕事ではありますが、守っているだけで、どんどん弱くなっていってはいけませんからね。新しい血を入れようではありませんか」


「ありがとうございます」

「なんというか……年の若い陛下を見ていると、新しいこともできるんじゃないかという可能性を感じるのです。たしかに、大きな街道も通らなくなってしまったこの帝国を発展させるには、観光しかないかもしれませんね」


 老齢の教皇の顔も、実際より十五歳ぐらいは若返ったように見えた。


 こうして、イーセの復興計画の方向性はある程度できたと思う。


 とはいえ、イーセの周辺にほかの観光地がなければ、わざわざ遠方の国から来ようと思わないかもしれないし、周辺の観光の掘り起こしももっとしなきゃいけないな。



 ただ、俺は少々踏み込みすぎてしまったかもしれない。


 その夜、ベッドで寝ていた時。

 妙な気配がして、飛び起きた。

 こういう、すぐに目覚める習慣は皇帝になっても消えないな。むしろ、ただの隠者よりはよほど暗殺されるリスクが高いから、しょうがないのかもしれないけど。


「いったい、誰だ……?」

 常に腰にはナイフを用意している。たいていの暗殺者なら返り討ちにできる。


 けど、そういう悪心を抱いてる者の気配とは違う。

 もっと、堂々としているのだ。暗殺者が発する空気とは別種のものだ。


 俺の目の前に急に光が現れた。

 そこに羽衣を体にまとわせた若い女性が現れる。

 燃えるような真紅の長い髪は風もない室内なのに、ふわふわとたゆたっている。


「皇帝テオドールよ、なかなか面白いことをやっておるではないか」

 直感的にこれは人間を超えた存在だと気づいた。


「我の名はアムルテラス。この国を守りし者である」

「ア、アムルテラス様がここにっ!?」


 俺はすぐに頭を下げた。

 なにせ、平伏するしかない。もしやと思うが、古式に戻すとかそういうことに不満でもあったらどうしようか……? でも、教皇がOKしたら、それでいいと思うよな。うん、それはしょうがない……。


「頭を上げよ。それでは話しづらいではないか」

「は、はい……」


 まだ、顔を見たかぎりだと、感情が読み取れない。いや、神の感情を読み取ろうとすると、ダメなのか?


「まあ、あれだな、テオドール、お前はそれなりによくやっているようだな」

 褒められた……のか?


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