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5 結婚式と戴冠式

 その後(壊れたガラスや壁を片付けてもらったり、別室に移動したりした後)、サリエラはやたらと甘々になった。


「はい、テオドール、あーん」

 こっ恥ずかしいものを感じつつ、口を空ける。そこにスープの入ったスプーンが入ってくる。


「はい、次はパンね。あーん」

「別に普通に食べるけど。ダメよ、テオドール。あなたはわたくしの夫になる人なんだから」


 そう、どうも、サリエラは自分に勝った俺に本当に惚れてしまったらしい。

 それで、いちゃいちゃしている新婚さんみたいなことをしているのだ。もちろん、皇帝も護衛もそのままいるのでかなり変な空気だ。


「うむ、こんなに上手くいくとはのう……。もはや一生、サリエラは結婚不可能ではないかと思っておったが、どうにかなったわ……。さすが稀代のアサシンじゃ……」

「まさか、こんなふうにアサシンであることを使えるとは思いませんでした……」

 基本的に、人殺しにしか使えない技能のはずだからな。


「いやあ、めでたい、めでたい。もう、一切の懸念もなくなった。これでわしも安心してあっちに逝けるわい」

「いや、そんな。縁起でもないことを言わないでください」

「心配するな。ちゃんと、皇帝を譲位するまでは生きておいてやるわい」


 死亡フラグぽいものをどんどん出すのはやめてほしい。


「大丈夫よ。お祖父様はタフだから、二回ほど毒殺されかけたけど、普通の人間の致死量では死なずに一命とりとめて乗り切ったぐらいだから」


 サリエラが説明してくれた。もう、それ人間捨ててないかと思ったが、サリエラも常人離れしているので、血は争えないのか。

 じゃあ、すでに死んでるサリエラ父はどうだって話だけど、流行り病にかかったそうだから、こればっかりはどうしようもない。


「はい、あーんして、旦那様」

「旦那様って……」


「おかしくはないでしょ。旦那様よ。それとも、わたくし、好みじゃないかしら……」

 初めてサリエラが不安そうな顔になった。


 そうなると、本当に華奢な美少女にしか見えないので、ずるい。それと、やっぱり胸が非常識なほどに大きい。これ、胸がもっと小さかったら、もっと武人として大成できたかもな……。


 正直、サリエラはまさにお姫様というほどに美しくて、とても放っておけなかった。

 サリエラの手をそっととる。


「そんなことない。サリエラ様はおきれいです。もし、暗殺対象だったら、きっとためらって仕事にならなかったでしょう」

「ありがとう、旦那様。でも、サリエラ様というのはいただけないわ。サリエラでいいのよ。わたくしははっきりとあなたに負けたのだもの」

「サ、サリエラ……」


 今更不敬も何もあったものじゃないと思って、そう呼んだ。

 ぎゅっと、サリエラに抱き締められた。


「サリエラは一途じゃからの。きっと、よく尽くしてくれると思うぞ」

 楽しそうに皇帝が言った。



 その日から一週間後、皇帝ザール二世は老齢を理由に退位をしたいと正式に表明した。

 同時に、すでに皇帝候補が決まっているとも話した(らしい。その場に俺はいなかったからな)。


 以下は後で本人から聞いたことを元に再現したものだ。


「その人間は、アムルテラス教の教義について該博な知識を有している森の隠遁者であるテオドールである」

 皇帝の言葉に、重臣たちは困惑した。なにせ、それが誰かさっぱりわからないのだ。


 そんな訳のわからない人間に帝位を与えるのはまずいのではと彼らは口々に言った。

「だからこそ、よいのだ。この宮廷の誰ともつながりがないのだから、次の皇帝はお前たちにとって完全に中立な存在になる!」


 皇帝は笑ってから、こう付け足した。


「しかも、孫娘にも打ち勝ったのだ」

 それで、みんな黙り込んでしまった。

「文句がある者は孫娘にケンカで勝ってみるがいい。ちなみに孫娘はテオドールを伴侶にすることに異存ないと申しておる。これ以上言うことはないであろう?」


 そして、退位表明から三日後、俺は皇帝に即位する前にサリエラと結婚式を行った。

 場所は帝都よりかなり南部にあるイーセのアムルテラス教大聖堂である。アムルテラス教最大にして最高の神殿だ。ここで、厳粛な式を俺たちは挙げた。


 ちなみに花嫁姿のサリエラは非常識なほどにかわいくて、美しかった。

「旦那様、幸せにしてね……」

 はにかみながら、サリエラはそうつぶやいた。


「俺は、長らく幸せが何かわからない人生を送ってきたけど……君を幸せにするために全力を尽くすことは誓うよ」

 俺は皇帝や大臣、教皇、大僧正たちが居並ぶ中で、誓いの口づけを交わした。



 さらに一週間後、俺は皇帝ザール二世から帝位を譲り受けた。

 皇帝から授けられた冠は肩がこるぐらいに重かった。なんか、拷問みたいだなと思った。


「肩がこるから覚悟するのじゃぞ」

「あっ、やっぱりそうですか……」


「こんなものをおいぼれになっても頭に乗せて儀式をやっていたら耐えられん。とっとと引退して遊びに行くからな!」

「ごもっともです。ところでサリエラとの共同統治ということじゃなくて、俺だけが皇帝ということでいいんですか?」

 他国だと共同統治扱いになる例もある。とくにその王朝の血を女性側が継いでいて、婿を迎えるような場合だ。ちなみに、サリエラは後ろで見学している。


「こんなのをつけると重くて戦闘の時に不利なので、かぶりたくないらしい」

「皇帝で戦闘になること、そんなにないし、あっても困りますけどね……」


 とにもかくにも、俺はその戴冠の瞬間、皇帝テオドール一世となった。


 人々は俺のことを隠者皇帝と呼んでいるらしい。それも間違いではないが、どちらかというと、アサシン皇帝のほうが正しいかもしれない。

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