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アサシン皇帝の帝国のんびり行幸記 ~目指せ、観光立国~  作者: 森田季節


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3 孫娘と会わされた

 こうして、俺は皇帝になることになってしまった。

 ひとまず、漫遊スタイルのザール二世と一緒に帝都であるツに向かった。


 そう、帝都の名前は「ツ」である。長すぎる名前もアレだが、短すぎるのも発音がわかりづらい。その結果、帝国の人間のほとんどは帝都の固有名詞ではなく、帝都とだけ呼ぶ。


 帝都に着いた時、俺は目を見張った。


「こんな大都市があるんだ……」

「大都市といっても、帝都は行政の中心ではあるが、あまり観光資源がないのが残念じゃな。それと、都市の規模ならヨッカイーツのほうが大きい」

 皇帝に案内をされるという、国賓待遇みたいな扱いで俺は帝都を歩いた。


「異端派はだいたいイグーアという山深いところに集まってましたからね。そういうところで、アサシンの技術を身につけさせられました。人によっては忍びの者という者もいました」

「ああ、水の上を走ったり、カエルに変身したりするやつじゃな」


「それ、俗説です……」

 変化魔法はかなり難しいし、そこまでのものをなかば使い捨てのアサシンに覚えさせる奴はいない。

 暗殺の基本は物理だ。近づいて胸にナイフを刺したほうが確実に殺せるからな。


「この国もかつては大きな街道が通っていたのじゃが、今では、『愛を知る者』修道会領、ギフ大公国、シガー騎士団領、キヨト王国と通じる新街道を通る道が交通の大動脈になっておるからな。帝都にはかつてほどのにぎわいはない。こればかりはしょうがないの」


 大商人ならそんないろんな国家を通っていくんだろうな。

『愛を知る者』修道会領ではなんでも甘辛いソースをかけて食べるとか、焼いたパンに豆を甘く煮たペースト状のものを塗って食べるというが、本当だろうか。


「ちなみにおぬしを皇帝にするという話はまだ重臣たちにはしておらん。まずは、孫娘に会わして、その反応を見たいからのう」

「たしかに事前に会ってるほうが、軋轢は生じないでしょうね」

「しかし、その前に軽く市場でも冷やかしていくか。おぬし、本当に都市というものを知らぬまま生きてきたようじゃからの」


 皇帝の意気な計らいで、俺は東西に長く続く市場を見学させてもらった。

 知識の中でしか見たことのない様々なものがそこでは売られていた。時間を正確に計測する針式の時計すら、平然と売られている。これ、神殿ぐらいにしかないと思っていたのに。


 人の数が多いし、種類も多い。

 そもそも、アサシンとして育てられた時は異端派の関係者しか見てこなかったし、その外に許しを得て、出た時も農民ぐらいしかいなかった。


 都市民というのは農村部と比べると驚くほどいろんな種類がある。身なりもばらばらで、金持ちも貧乏人も、物乞いも、托鉢僧も、吟遊詩人も、娼婦も、様々な人間が日々を暮らしていた。人間も猫の獣人も犬の獣人もエルフもドワーフもゴブリンもいる。


「おぬし、そんなに目を輝かせて見るようなものか? そこまで楽しまれると、変な感じじゃな」

 俺はまるでおもちゃを与えられた子供みたいな目をしていたらしい。


「俺、来る日も来る日も光すらとくに当たらない環境で育ったんで。もちろん、親なんて知りません。おおかた親が教団に売ったか、教団関係者の私生児か、教団がさらってきた赤子か、どれかなんでしょう。ほんとに親という概念すらなかったですから」


「なんとも悲惨な境遇で生きてきたのじゃな」

 皇帝だけでなく、護衛二人もつらそうな顔になっていた。


「俺にとってはそれがすべてだったんで、ひどい生活かどうかもよくわかってなかったんですけどね。ただ、感謝するべきは、教義に関する本を読むことは許されたってことです。それで、この異端の教団を滅ぼしたほうがいいってぐらいには賢くなれたんですよ」


 それがなければ、俺はただの獣として生きることになっただろう。考えるだけでも悲惨だ。おそらく、とっくに落命していたと思う。アサシンというのは、何年も働けるものじゃない。そのうち見つかって死ぬ。


 やがて、皇帝は高そうなレストランに俺を案内してくれた。とはいえ、高いのか安いのかの相場すらあんまりわかってないが。

 すべての席が個室になっていて、テーブルがぽつんとあるだけの一部屋に通された。


「ここで好きなだけごちそうしていただけるんですか?」

 いわゆる贅沢もしたことがないので、どういうものがごちそうかも味覚としては理解してない。きっと、経典の中で罰を受けた傲慢な金持ちたちが食べていたようなものなのだろう。


「うむ、しかし、その前におぬしにとっての最初の仕事をしてもらう」

「なんですか? 俺の系図でも偽作します?」

 親すら不明の奴が皇帝というのは前代未聞だろうからな。


「違う。さあ、入ってきてくれ」

 その部屋の扉を開けて、つかつかと乗り込んできたのは、金色の髪をなびかせたうら若い少女だった。その服装だけで、高貴な身分だとわかる。

 あと、別に強調しているわけではないだろうけど、やけに胸が大きいのがわかる。あれは絶対に重いだろう。いわゆる栄養が全部胸にいくというやつだ。


 それと、目つきはかなり鋭い。俺の顔をじぃ~っと試すように見ていた。


「あの、ええと……俺の名前はテオドールです……」

 なんか、よくわからないが、ひとまず、あいさつだけはしておこう。


「そうね、たしかに顔は悪くないわね、お様」

 その言葉にはっとした。


「この子が孫娘の、サリエラじゃ」

 楽しそうに皇帝が言った。

次回は明日午前ぐらいに更新します!

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