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アサシン皇帝の帝国のんびり行幸記 ~目指せ、観光立国~  作者: 森田季節


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10/16

10 トーヴァの真珠

 翌日、俺はレッドハピネスをアムルテラス様にお供えするように教皇に連絡した。


 何を言い出すのかと思われるかもしれないけど、夢にアムルテラス様が現れて、妻も見たので間違いありませんと念を押しておいた。


 さて、問題はこの後だ。


「旦那様、今日はどこをめぐる予定なのかしら? それとも、もう帝都に帰るの?」

 朝食中、サリエラに聞かれた。それはそうだよな。


「実は、イーセの見学までしか決めてなかったんだよな。その後は予備日みたいなものだったんだ」

 あくまでもイーセについて考えるというのが今回のコンセプトだったのだが、ある程度、それは片付いてしまった。

 すぐに結果が出ることではないけど、一日や二日で観光客が増えたら逆に怖い。施策が決まった以上は気長に待つしかあるまい。


「そうだな。帝都に帰っても空しいしな。もう少し、この地域で何かないか調べたいな。帝都からここまで来るなんてそうそうないし」

「といっても、帝国の地図で見たら、狭い範囲でしか移動してないけれどね。ちょうどイーセのあたりが帝国中部ってあたりだし」

「だよな。帝国って南北でやけに長いよな……」


 現在の帝国は最北端のイナーヴェ、最南端のキフォーまでものすごく南北に長い。南北に百二十ギロンある。実際はまっすぐ南北に移動できる道はないから、さらに長い。


「ひとまず、イーセの近くのトーヴァって町に行ってみようか」

 すると、サリエラが目をきらきらさせた。


「なんだ? トーヴァにそんな楽しくなるようなものがあったか?」

「あるわよ! あそこは女のあこがれを大量に作っているという話なの。一度、この目で見ておきたかったの」

「あこがれ? なんだろう、甘いもの?」

 サリエラに手を左右に振られた。間違っていたらしい。


「違うわよ。旦那様、そういうものには鈍いわね。でも、冷静に考えたら隠者なんだから、当たり前か」

「そうそう。俺は世俗の快楽から切り離された生活送ってたんだよ」

「じゃあ、トーヴァは世俗快楽のかたまりみたいな町かもしれないわ」


 もしや、エロ系のものでもあるのだろうか。国としてはそれを推進するのも、ちょっとやりづらいけど、興味はあるぞ!



 結論から言うと、全然、そういうのではなかった。


「ふふふ、わー、こんなに大きな真珠があるだなんて! すごくいいわー!」


 さっきからサリエラはずっとうっとりしている。なんだか、浮気されているようで落ち着かないな。


 このトーヴァという都市の特産品は真珠なのだ。俺はほとんど知らなかったのだが、なんとトーヴァは世界的な真珠の産地らしい。大きな真珠を作る技術を、この土地の真珠商人が発見したという。


 俺はそのサリエラがほれぼれしている真珠の値段を聞いて、衝撃を受けた。

 もはや高すぎて、適正価格なのか、ぼられているのかすら、よくわからなかった。


「うん、安いわ。やっぱり、現地に来ると運んでくる宝石商を通さない分、安くなるわね~」

「これでも安いのか。こんなの、大金持ちしか買えないと思うけどな……」

 隠者とはまったく逆の価値観だ。


 俺としては、真珠自体の良し悪しは判断不可能なので、担当者に真珠の作り方とか、歴史とかを延々と聞いていた。

 で、ぶっちゃけ、そっちのほうが面白かった。


「なるほど、この湾はいろんな要素がからみあって、真珠作りに向いてるんだな。一朝一夕ではいかないドラマがあるもんなんだ」

 そういう人間の悲喜こもごもを聞くと、改めて滅んでいったというか滅ぼした異端の連中の見てた世界が狭すぎたと実感する。

 いろんなことに挑戦して技術を開発していった人間の世界は生き生きとしていて、動的なのだ。


 そこで、ふと思いついた。

「これさ、いっそのこと、資料館とか作って、人を呼び込んだらいいんじゃないか? ここだと作ってる様子も見学できるし。すでに工場とかあるわけだから、導線とかちょっと考えれば、新規でたいして何も足さずにできる」

「わたくしは真珠だけ買えたらいいけど」


「ま、まあ……そういう人間も多いとは思うけどさ……。でも、ここに来たら大幅に安く買えますって言ったらどうする?」

「それは行くことを検討するわね」


 世俗的すぎるが、それでいいと思う。観光って敬虔な信徒の修行ではないからな。

「でも、どうして見学場所を作ろうだなんて言い出したの?」

 そこがサリエラにはわからないらしい。


「いや、だって真珠を買うだけなら、極論、お金を出せばどこでも替えるよな。宝石商なんて大きな都市なら絶対いるし」

 こくりとサリエラがうなずいた。先を続ける。

「でもさ、真珠の製造過程って真珠を作ってるこのトーヴァでしか見せられないだろ。それってトーヴァが持ってる唯一無二の価値だと思うんだ」


 しゃべりながら、俺も思考を整理していた。


 モノを買うことはそのモノが流通している以上、どこでもできる。それはそれですごく大事なことだ。

 けど、それだとトーヴァという都市に行く価値は生まれない。


 観光立国を目指すなら、その土地独自の意味を発信しないとダメなんだ。

 それが、その土地に行かないと体験できないものなら、もっといい。


 ほかの国でどれだけ金を積んでも、真珠を作っいる工程は見学できない。もちろん、一つ一つの内容に、興味があるかは人それぞれだけど、その方向性で体験を売りにしていけば、観光地を作っていけるんじゃないか。


 無事に、真珠の見学施設は作っていく方向性で同意を得ることができた。


 とはいえ、サリエラが真珠あればいいと言ったように、これだけだと楽しさやかわいさに訴える力が弱いきらいもある。


 海も近いし、少し、海が見えるところを歩くか。

 俺はサリエラを連れて、海の近くの道を散策した。なかなかいい天気で、陽光が波にぶつかって、まぶしい。


 その時、ザパーンと何かが海から飛び出た。

「いったい、何だ!?」


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