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1 森の中の元アサシン

新連載はじめました! ネタがどこまで持つかわかりませんが、やれるところまでやってみます!

「ふあ~~~~~~~あ」


 朝の洗濯物を終えると、俺は大きなあくびをした。

 森の中の一軒屋で見てる奴もいないので恥ずかしくもない。見てるとしたら、せいぜいリスか小鳥といったぐらいだろう。


 恐怖も拘束もない平和な生活にあこがれてたとはいえ、これはこれで暇だな……。やることがなさすぎる。


 その時、侵入者を知らせる呼子がカランカランと鳴り、俺はびくっとした。


 ついに、追手が来たか?


 すぐにナイフを抜いておそるおそる近づいていく。俺でも感知できないほど、人の気配を殺している。となると、凄腕の同業者か? いや、今の俺は森で気楽にのんびり暮らしてるだけの自由人でしかないけど。


 呼子のほうにさっと躍り出る。


「何者だ!?」


 野生の子供のイノシシ、俗に言うウリボウが、カランカランと呼子を鳴らして遊んでいた。


「あっ、そりゃ、人間の気配もないはずだわ……」

 せっかくなのでウリボウの頭を撫でてみた。かわいい奴め。


 俺の名はテオドール。職業は隠者。なかばニートみたいなものだ。

 元の職業はアサシン。


 帝国内に存在する主要な宗教であるアムルテラス教の過激な異端派である「八角形派」、そこで幼い頃から対立する宗派や組織の人間を殺すためだけの教育、というか調教を受けた。


 ほんとに、最悪の日々だった。最初にやったのは十二歳の時だった。


 ややこしいことに「八角形派」のさらに異端をはじめた奴の幹部を殺した。俺はタマネギの皮むきをやっているような気持ちになったものだ。


 そのあとも、異端内の異端や権力争いの敵を殺す仕事ばかりやらされた。異端がよく持っている、良くも悪くも熱烈な信仰心すら手放しているのだから、依頼主はどうしようもなかった。それだったあ、とっとと体制のほうに身を投じればいいのに。


 だから、十五の時に方針を変えた。

 俺を飼っていた連中を片っ端から殺すことにした。


 皮肉なことに連中は俺に難しい教義の本やらを大量に読み与えさせた。

 その結果、こいつらが間違ってると頭で理解できる程度に賢くなっちゃったってわけだ。


 あとはアサシンを飼ってた腐った連中たちをどんどん血祭りに上げて、「八角形派」を事実上、崩壊させた。

 このままアサシンの仕事をしても、いつかは自分が消される側になるだろう。それなら、ここでリスクを背負っても自由になろうと思った。その賭けは成功した。


 もちろん、残党に追われるから、名前を変えて(厳密にはそもそも名前がなかったので、名前をつけたんだが)テオドールという人間として、森に潜んでるというわけだ。


 もう、謎の隠遁生活も三年目、いや四年目か。あと、何十年か、この森でだらだら暮らしていくのかな。それもまたよしか。


 あと、何十年もこうやってウリボウを撫でられるなら、それも悪くない。


 雨の日や夜はアムルテラス教の難しい教義書を読みつつ(崩壊した異端のバカたちが正統の本も大量に所蔵してくれていたのは助かった。ちょっとずつ持ち出してしっかりコレクションにしてやった)、晴れていれば小さな田畑を耕す。


 これぞ晴耕雨読の日々って奴だな。


 だが、また人間の気配を感じた。

 しかも、今度は最低三人はいる。


 このあたりに猟師が来ることはあっても、だいたいソロでなんだよな。いったい何者だ?


 とはいえ、今更この土地を手放して逃げるというのも現実的じゃない。おおかたの居場所がばれた時点で、早晩殺されるだろう。


 それなら、ここを自分の城と見立てて、守り抜くほうがまだ賢明だ。


 やがて足音は大きくなって俺の前にやってきた。


 老人の男一人に、その護衛かただのお付きか壮年の男が二人。護衛二人はともかく老人には戦闘能力はないな。

 服装からして庶民か。こんな森に来る貴族なんていないだろうし。


「申し訳ない。余生を楽しもうと、ぶらぶら帝国内を歩いておっての。その旅の途中なのですじゃ。このあたりにお住まいでしたら、休憩させていただけませぬか?」

 いかにも好々爺っぽい老人がそう言ってきた。


「旅って、ここ、街道ともかけ離れた山中ですよ」

「街道は歩き尽くして、もう面白くないのでな」

「まあ、ミーウェ帝国と名乗るほどの面積も、今はないですからね。ほかの王国との面積の差もとくにないし。ミーウェ王国に改称したほうが恥ずかしくないかもしれないです」


 俺の言葉に護衛の男二人がむっとしたみたいだけど、俺は気にしない。ただの事実だしな。それに、俺は今のミーウェ帝国が嫌いじゃない。


「別に悪く言ってるつもりはないですよ。何百年も前の巨大な版図はなくても、その代わり帝国は平和で、周辺諸国とも領土の取り合いもない。むしろ、今ではその平和な統治を学ぼうとほかの国が言っているぐらいですから」


「そうじゃの。これも、すべては皇帝を必ずしも世襲制にしなかったためでしょうな」


 大昔からミーウェ帝国は皇帝を完全な世襲にはしなかった。大きな権力者がほかにいれば、そちらに譲ったりしたので、何度も帝国内での王朝は変わっている。

 これは初代皇帝が元老院による選挙で形式的には選ばれたせいだろう。実質は皇帝側が元老院に選ばせたわけだけど。


 それでも、元老院が認めたことは事実だ。その結果、あまりにも悪政だとほかの王朝にしてしまえばいいという民の意識が作られることになった。それは基本的には皇帝に善政を敷かせることにつながっている。


 ひたすら森に引きこもってる俺にとったら、ほとんど関係ないことだけど。


「それじゃ、家に案内します。でも、森の中の家ですから、もてなしは期待できないですよ」

「ああ、問題ないですじゃ」


 それにしても、この老人、ずいぶんと高そうな香のにおいがするな。

 もしかすると、神官だろうか。

 年老いた神官が名誉職だけになって、各地を漫遊したとしてもおかしくないし。



 俺は老人と護衛二人を家に招いて、お茶を振る舞った。

 護衛は強そうだったけど、いわゆる殺気は見せなかったし、俺を殺すための刺客なら、まわりくどすぎる。俺と関わる者でないことは確かなようだ。


「ほほう。ずいぶんと教義について書かれた本がございますな。これは貴重な註釈をまとめたものではありませんか」

「ご老人、やはり元神官か何かですか? おっしゃられるとおり、それはそういうものです」


 それから先、老人は大量の質問を俺に投げかけてきた。

 しかも、どれもアムルテラス教に関する相当マニアックなものだった。


 ただ、俺も幼い頃からそんな本ばかり読んでいたので、あっさりと答えていった。下手をすると暗殺技能以外で唯一の俺の能力かもしれない。

 立て板に水って言うんだろうか、俺がぺらぺらしゃべるので、護衛二人も驚いているようだった。


 結局、三時間は老人は俺にいろんな質問をしてきた。


「いやあ、本当に博識ですな。まだその歳でここまで詳しい方は初めてですじゃ」

「ははは、とはいえ、神殿などにつとめるつもりはないんですけどね……」


 こうやって気ままに暮らしているほうが性に合っている。


「では、最後の質問をしてもよろしいかな」

 断る理由もないので、黙っていると、老人がこう聞いてきた。


「お前さんはどんな国家を理想としますじゃ?」

「平和な国ですかね」

 これにもすぐに答えた。


「民が笑顔で暮らせる国を太陽神アムルテラス様は願っている、それは経典にはっきりと書かれていますので。それ以外の国家を作るなら、それは神に逆らうことになります」


 もちろん、戦闘神の信仰とかがないわけじゃないけど、少数派だ。少なくとも、太陽神アムルテラスを信仰しないまでも、否定する者に関しては帝国は居住を認めていない。


「ふむ、決まりじゃな」

「決まりって何がですか?」


 まさか、神官にでも推挙されるんだろうか? だとしたら、ちょっと迷惑なんだけど。


「そなたを次の皇帝にする」


「はっ!?」

次話はすぐに更新します!

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