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VS猿

モンクモンキー


この魔物について説明するにはその前に、王国内の魔物について説明しなくてはならない。


まぁ、モンクモンキーに限らず現在の王国の魔物を説明する上で必要なことなのだが、、、、、、




前述の通り、先の大戦の後に王国は脳筋化の道を辿っていった。


脳筋化していき、強さをより一層求めていった彼等は当然のことだが訓練を欠かすことはなかった。

むしろ、はたから見たら「何で、こいつ等生きてんの?」と、言いたくなるような内容の訓練をしている。


けれども、どれだけ過酷な訓練であってもやはり訓練は訓練。命を懸けた実戦には及ばない。(ヒートアップしすぎて危うく死にそうになった事例はかなりあるのだが。)


そんな訳で彼等が実戦を求めて魔物に目をつけたのは至極当前の成り行きであった。


しかし、バカ共にとっては当然であっても魔物達の側としては堪ったものではなかった。


当時の彼等からしてみれば人間や魔族達が勝手に起こした大戦に巻き込まれ、ようやく終わったと思ったら今度は頭のオカシイ人間共に追いかけ回されて命を狙われ始めたのだから。



「俺たちが一体何をしたっていうんだ⁉︎」


当時の彼等はそう叫んでいたことだろう。

もちろん そんな叫びがバカ共に通じるはずもなかったが。



王国外へと逃げ込んでいった魔物も一定数いたのだが、多くの魔物達は自らの縄張りを手放すことを拒んだ。

どうやら魔物にとって縄張りとは、それだけ大切なものであったらしい。(その大切な縄張りを捨てる決断をした魔物もいたわけだが)


バカ共の餌食となったのは、そんな魔物や逃げ切れなかった魔物達であった。


大戦と、その後に起きた王国のバカ共の魔物狩りに遭った王国の魔物達は大きくその数を減らしていき、弱い部類の魔物などはほぼ絶滅されたと言っていいほどだ。


そんな状況が数年続き、やがては王国内の魔物は根絶やしにされると誰もが思っていた時、変化は起きた。


進化が起きた。




多くの同胞達が目の前で殺され、他の魔獣達が文字通り絶滅させられ、己自身も殺されかけ、彼等は悟った。


このままだと滅ぶ、と。



魔物であっても生物として、一種族として、絶滅だけは避けなければいけない。



といっても、急激に進化できたわけではなかった。

だが、代を重ねるごとに彼等の個体値は確実に高まっていった。


強い個人により殺されかけた経験からか、遺伝子に刻まれた恐怖からか、彼等は数より質を求めたようにより強い個体に成るように進化していった。


さらに、彼等はそれだけで終わらせなかった。



「このままでは足りない。もっとだ、もっと強くならねばならない。アイツラから生き延びる為に、



いや、アイツラを殺す為に!!

殺してやる!!殺してやる!!殺してやる!!クソ人間共が、絶対に殺してやる!!殺してやる!!殺してやる!!」



魔物達は技術を身につけた。ワイルドボアが行った身体強化や、連携攻撃などはその一部分である。

そして現在、王国の魔物の大半は身体強化を意図して使いこなせている。




世代を重ね魔力を高め、


理不尽な世界を恨みながら技術を学び、


バカ共への殺意を燃やし狂気に染まり、


奇しくも、憎っくき王国のバカ共と同じように彼等は力を求める鬼となっていった。







さて、話をモンクモンキーに戻す。


名前の通り、彼等は武術を扱う猿である。

大戦前において、この猿は魔力を有する以外は獰猛な猿程度でしかなかった。


だが、現在においては魔力による身体強化は当然として、魔力変換を行い炎や雷を纏ったりする。そして、特に注意すべき点が、この猿共は群れによってそれぞれ異なる武術を扱うのだ。


蹴り主体の群れがいれば、拳しか使わない群れや関節技を主体にする群れまでいやがる。


しかも厄介なことに彼等はあくまでも猿がベースな為、地面の上で戦うことを前提とした人間の格闘技と大きく違い、森の木々や環境を利用したジャングルファイトが本領であるので想像以上にやりづらい。


さらに言うと彼等は群れで動く。なので討伐する場合は、必然的に群れを相手にしなければいけない。


相手のフィールドで、見慣れない独特の技を使ってきて、群れを相手にしなくてはいけない、しかも群れによって流派が異なるので対策が立てづらい。

なので、モンクモンキーの討伐はかなり厄介な依頼である。



群れにより異なる武術を扱うモンクモンキーだが、今回ネサラ達が相手にしたのは比較的オーソドックスな部類であった。





集団戦型で、拳、蹴り、関節技、、魔力変換技、奇襲、道連れ、囮、犠牲、自爆、何でも有りの王国らしい普通の部類であった。








「ウキィィイィイィィ!!」


前方から、横回転をしながら叫び声を上げ、魔力を込めた手刀を猿が振るってくる。


その手刀の猿の方に顔を向け、反対側から接近してきていた猿に向けてネサラは魔法を放つ。


「"痺れてろ"」


バチィッヂィ!


「ギィ!?」


不意を突こうとしていた猿の不意を逆に突き、放った電撃魔法が猿に当たり数秒猿の動きが鈍る。


「シッ」


その間にネサラは、飛んできた猿に反対の手に握っている短剣を振るった。


ギィン!!


金属同士がぶつかり合った音を立てつつ、ネサラの短剣と猿の手刀がせめぎ合う。



そして、猿の回転が止まった瞬間にネサラが猿の胸に手を伸ばし、魔法を放つ。


「"爆ぜろ"」


ドォオン!


瞬間、爆炎が起こり猿の胸の肉を吹き飛ばして猿を即死させる。



吹き飛んでいく猿の死体の行く末を見届けることなく、すぐさまネサラは振り向いて痺れていた猿に向き合う。


「キィッ!」


痺れは既に消えたようで、猿は身を屈めながら素早い身のこなしでネサラに殴りかかってくる。


「チッ」


ブンッブンッ


猿の拳が空気を割き、ネサラに襲いかかる。

ネサラはそれを後退しながら捌き、


ガシッ


ネサラの頭を狙って放たれて伸びきった猿の腕を掴む。

すぐさま、猿の顔めがけて短剣を突き刺す。


「キッ」


だが、猿は頭を軽くズラすことて短剣を避けた。



が、それは想定内であった。

すかさずネサラは体勢の崩れた猿の足を払い掴んだ猿の腕を押し込み、猿を倒しに掛かる。


そして猿が倒れるのと同時に突いた短剣を逆手に握り、


ドンッ!


猿のノドに突き刺した。


「ギ、ギギィ、、、」


小さくうめき声を洩らしながら猿の息が絶える。




ふー、と息を吐きながらネサラが立ち上がる。


「ったく、ホントにやりづれー奴らだぜ。」


そう言うが、ネサラには目立った外傷は無かった。 少々土が付いて汚れ、魔力は減ったがほんの1、2発分で特に問題は無い程度である。


「コッチはこれで終わりだな、向こうの方はっと」


そう言いながらネサラがアトリアの方に目を向けると、そちらではアトリアが4体の猿と戦闘中であった。








「キッ、キキィッ!」


「ギギィ、ッキィッ」

「キキ、キ、キ」

「キッ、ウキィッ」


鳴き声を上げながら、四匹の猿はアトリアの周りを高速で動きながら囲っていた。


(こいつら、もしかして・・・・・・)


猿達に囲まれながら、アトリアは剣に魔力を帯びさせながら構えるだけで動くことなく猿達の動きを観察していた。



そして、


「ギィ!」

「キキィッ」

「ウキ、キッ」

「ギィィィ!!」


四匹の猿がアトリアの四方から襲いかかる。


それに対しアトリアは、ほぼ同じタイミングで駆け出し、正面の猿に向けて横薙ぎの一撃を放つ。


「キィッ!」


ザシュッ


猿はそれをアトリアごと飛び越え躱そうとしたが、少し間に合わず尻尾の先と左足首を切られた。


切られた猿はアトリアの頭上を飛んで行く。

その下から残りの猿達がガラ空きのアトリアの背中に向けて襲いかかる。



はずだった。



「オォォッ!」



アトリアの気合いが響く。そして、片足を起点にアトリアの体が半回転し剣が再度、振るわれる。


ゴウッ!!


振るわれた剣は帯びていた魔力ごと斬撃となり猿達に向けて広範囲に放たれた。


「ガッ、」


一番手前にいた猿は近すぎて避けることは叶わなかった。




なので、己を盾として斬撃の威力を削ることを選んだ。



「キィィィ!!」


アトリアの斬撃は一匹目の猿を容易く切り裂いた。

けれども、一匹目の猿の抵抗によって僅かに二匹目に届くのが遅れた。


そして、二匹目はその僅かに生じた時間でアトリアの斬撃を回避する、、、、、、ことなく両足をしっかりと踏み締めて、両手を組み、三匹目の猿をそこに乗せ、アトリア目掛けて投げ飛ばした。


しかし、投げ飛ばすのと同時に迫ってきたアトリアの斬撃になす術なく斬り殺された。


「キキィッィィィ!!」


犠牲になった二匹の猿の意志を汲むかのように、三匹目の猿は叫び声を高らかに上げて振り上げ、、、、、、




ズボッ


鈍く、しかしどこか気の抜けた音がした。




最初に、アトリアに尻尾と足を切られた猿が三匹目の猿を背後から貫手で貫いた音だ。


魔力による身体強化を薄めていたのか、貫手は猿を貫いても威力が弱まることはなかった。


そして、そのまま切られた左足で踏み込み、アトリアの不意を突いたであろう貫手を押し込む。





「アハハッハハァー!!」


高揚した感情を隠すどころか、むしろさらけ出すようにアトリアが叫んだ。


仰け反るように上半身を後ろにやり、猿の貫手と貫かれた猿の血液を避けた。


そして、剣を両手で強く握り、貫手を放った猿と貫かれた猿の二匹を、



ザンッ!!


纏めてぶった切った。


「ガギィ!?」


不意を突いたはずだ。三匹の命を使ったんだぞ!何で!!?ーーー


切り離された己の下半身と、一緒に切られた仲間、そして自分が殺すはずだった人間、アトリアを見ながら猿の意識は疑問を抱いて暗闇に沈んでいった。






「ふぅーーー。いやー、やっぱりモンクモンキーはいいね!!殺意は当然あるとして、技術が人間に近い上に群れによって戦い方が違うから飽きが無い!そして何より数があるのがいい!!斬りごたえがあって新鮮な上、何回も切れるなんてまるでアレだね、食べ放題ってヤツだね!ウンウン、ネサラ達が食べ放題を有難るのも良く分かったよ!」


たった今、魔物とはいえ人型の生き物を斬殺しまくったというのに非常にイイ笑顔で興奮しまくっているキチガイがいた。


「それに見てたかい?ネサラ!コイツラが僕を囲んでた時の!」


その興奮が冷める間もなく、アトリアがネサラに向かって話しかけてきた。


「あーあー、見てたよ見てた。あの鳴き声の音量を弄って間合いをズラそうとしてたヤツだろ?」


まともに相手をするのが嫌らしく、目に見えて嫌そうに返すネサラだが、特にアトリアは気にすることなく勝手に盛り上がる。


「そう!ソレだよソレ!いやー、自爆とか身代わりとかはそれなりに見たことがあるけどさ、アレは初見だったなー。しかもアイツラ声色まで変えてたよ」


「あん?マジかよ、そんなことまでしたのかよ」


声色まで変えたというモンクモンキーにネサラはウンザリした様子を見せる。



「まあいいや、これでようやく終わりだな。さっさと帰ろうぜ」


「ああ。そうだね、帰ろうか。未だおばさんの所に泊まってるんだろ?一緒に晩飯食べないかい?」


そう言って剣を収めながらアトリアがネサラを誘う。


「おう。別にいいぜ。」


「いやー、おばさんのご飯は久しぶりだね。何にしようかな」


「また来ればいいだけだろ。って言うか、お前もおばちゃんの所に泊まればいいだろ」


グルーヴに泊まる時、アトリアはネサラ達が常住しているおばちゃんの宿に泊まらない。そのことを常々疑問に思っていたネサラがアトリアを尋ねる。


「ははは、とても魅力的な提案だけど止めておくよ。馬に蹴られたくないからね」


「あん?何で馬が出てくんだよ?」


何言ってんだコイツ?といった感じで首を傾けるネサラ。


そんなネサラの疑問に応えずアトリアは歩き出す。


「別に大したことじゃないよ。さっ、早く帰ろう。急がないと晩飯を食いそびれてしまうよ」


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