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説明回、動かぬ場面


「知ってるだろーが、アザルス大戦は今から大体350年ぐらい前の戦争だ。魔族、王国、帝国、エルフ領、獣人族、ドラゴン、大陸中の全ての生物を巻き込んだ戦いだった。


事の発端は当時の魔王が侵略を開始したことらしい。

その魔王が放った一発の魔法で山が消し飛んだり、何百人も死んだそうだぜ。流石に脚色された話だろうが、その魔王ってーのは魔族の中でも異常な程強かったらしい。


そう、異常だ。同族の魔族達の目からもそう映ったらしい。しかも、力だけじゃなく頭もな。

現に、魔王が勇者に殺されたら直ぐにあいつらは和平に移ったからな。それまでは誰一人として逆らえなかった。いや、逆らうっつー考え自体が無かったみたいだな。将軍から一兵卒にいたるまで全員死にもの狂いだったんだからな。


ん?ああ、見たように言っちまったのはどこの言い伝えでもそういう話しが伝わってたからだよ。何人かは殺しを楽しんでたらしいが、大抵の魔族は魔王を心底怖れていたらしい。女、子供、負傷兵も関係なく駆り出されてたらしい。胸糞わりー話だ。



っと、話が逸れたな。まーそんだけ強くて怖れられてた魔王にどこの国も種族も歯が立たない状況だっんだ。


そんな中現れたのが勇者だ。勇者はいきなり現れた。例の聖剣を持ってな。

いや、本当にいきなりだったみたいだぜ。王国や色んな学者達が調べたけど何も分からなかったそうだ。 王国民かも分からなかったが、勇者は王国に現れた。最初にな。


そこからは色々あって、王国や他の種族からバックアップを得た勇者は魔王と戦って魔王と相討ちしたんだよ。


ちなみに、魔族は当時のNo.2が魔王になって魔国を作ったんだが・・・・・・やっぱり知らなかったのかよ。はあ、当時の魔族は今みたいなちゃんとした国の形になってなくて、なんつーか魔王に従う群れみたいなもんだったらしいぜ。強者至上主義、みたいにな。



話しを戻すがな、勇者は死んじまったけど勇者の持っていた聖剣は残ったんだ。もちろん、どこの陣営も聖剣を欲しがったさ。勇者の遺品だし、何より勇者が肌身離さず持っていた得物だ、とんでもねー力があると思われてたからな。



ああ、思われてたんだよ。けど、そんな力は無かった。いや、有ったのか。

いやいや、はぐらかしてるんじゃねーよ無いし、有ったんだ。

誰もがきたいしていたスゲー力は無かった。なさ過ぎた。紙切れ一枚すら切れねーなまくらだったんだ。もちろん、その聖剣は本物だったさ。だから力は無かった。


んで、力が有ったっつーのはその聖剣がなまくら過ぎたところだ。刃こぼれ一つ無く、勇者と共に激戦を文字通り切り開いてきた聖剣が、紙切れ一枚切れ無い筈がないだろ?だから国の奴らはこう考えた、聖剣は勇者にしか扱えない、ってな。


そっから先は順当で、勇者と最も関わりが深かった王国が聖剣を管理することになったんだ。誰にも扱えないまま、今までずっとな。



そして、遂にその聖剣を扱える勇者が現れたっつー訳だ」








話し疲れたのか、男はグラスに残った酒を一気に煽る。


「ほーなるほどなー、そんな感じだったのか。いやー、ワリーな色々とタメになったぜ。」


ハハハと笑いながらネサラが礼を言う。


「いいってことよ。大したことじゃねーし、話すのは嫌いじゃないしな」


「そっかそっか。ん?そういや、今回の勇者もどっから来たのか分かんねーのか?」


ふと、疑問になったのかネサラが聞くと、


「いや、今回の勇者は出自はハッキリしているらしいぞ。まあ、王国民ってだけで詳しい情報は下々のオレたちには下りてこないがな」


どこか残念そうにしながら、男が愚痴るように言う。


それに対しネサラは苦笑しながら、


「なんだ?勇者と戦えなくてつまらねーってとこか?」


そう言うと、


「そうなんだよなー。勇者はもう王都の城に入ってるらしいんだわ。少しでも特徴や出身地が分かりゃ何とか探し出して挑めるかもしれねーのにな。

王都の騎士共はいいよなぁ、あの勇者とやり合えるってんだから」


至極残念そうにしながら男はそう言って、空になったグラスを弄る。



断っておくが、この男が昔話の勇者に匹敵する程の腕を持っている訳ではない。また、勇者を倒し名声を得ようとしている訳でもない。


ただ単純に勇者と戦いたいだけなのだ。


昔話に出てくる強者と、たとえ瞬殺されようとも戦いたいのだ。


そんな脳筋なところが王国民なのだ。



目の前の脳筋に呆れと若干の親しみを持ちながら、


「まあ良いじゃねーか。勇者の正体が噂にすらなって無いってことは、無名の新人がなったってことだろ?だったら今はまだ強くねーってことだろ」


そう励ますネサラ。


「ん?ああ、なるほどな。そう言われりゃその通りだな!」


すると、あっさりと元気になる男。


勇者は勇者でも、強く無ければ興味は無いらしい。


あっさりと元気になった男に苦笑しつつ、


「その勇者も可哀想にな。王都っつーことは騎士団にシゴかれてるってことだからな」


珍しく、心の底から同情してそう呟くネサラであった。









王国についての話しをしよう。


今から約350年前、勇者が魔王と相討ちになった直ぐ後のことである。その時の王国内の一部では良くない空気が広がっていた。


勇者は死んでしまったが、当時のアザルス大陸の絶望の象徴であった魔王が死んだことと、戦争が終わったことにより、国民の気持ちは復興に向けて明るかった。



しかし、全員が明るかった訳では無かった。


その良くない空気が広がっていた一部というのが、貴族であった。




アザルス大戦は大陸史上最大の戦争で、言うに及ばないが過酷な争いだった。


そして、最初から上手くいった訳ではもちろん無いが、戦争も終盤に差し掛かると貴族、平民の垣根を越え団結をするようになっていった。腐った貴族が戦争の序盤で大方死んでしまっていたのも助けになったろう。


なので、平民達から貴族を責める声が有った訳では無い。彼らは共に戦い合った仲だったのだから。


貴族達は納得することができ無かったのだ。いや、自分達を許せなかったというべきか。


彼らは全力で戦った。戦い、自分達が守るべき民を守ろうとした。それは間違いない。全員が認めるところだ。




しかし、魔王を倒したのは勇者だ。



そして、勇者は国民を守るべき貴族ではなかった。それどころか王国の人間ですら無かった。


もちろん、勇者のことを妬んだ訳では無い。むしろ戦争中に現れた勇者に感謝し、共に戦えた者達は誇らしく思ったほどだった。


けれども、結果として国を守るべき貴族ではなく王国とは無関係の勇者が大陸を救ったという事実が、彼らに重くのしかかった。




勇者が魔王と相討ちになり死んだのも要因だろう。


必死に戦い、自分達の民を守ろうとする考えが芽生えたのも要因だろう。


勇者と最も関わり合いが深かったことも要因だろう。


勇者では無く自分が生き残ってしまった、と考えたこともまた、要因の一つだろう。




彼らは力を付けようとした。


もし次があるのならば、今度こそ自分達が自分達の民を守れるようになるため。

今度こそ、勇者を死なせないために。


王もまたそれを良しとして推奨し、正式に貴族達に強くなることを命じた。



幸いなことに、貴族には魔法を扱うことに優秀な血が流れていた。


加えて環境を整える財力もあった。


更に、指導者として魔族達と戦い戦争を生き残った歴戦の兵士達がいた。


また、戦争を経て民を想うようにはなれたが根はプライドの高い貴族なので、自然に競い合うようになっていった。


そして、次第にその風潮は国民にも広まってゆき、




王国は実力主義の脳筋国と化していった。





ここまでが王国の話しである。



そして、そんな脳筋国の王国の中でも更に異常な集団がいた。



王国騎士団である。


王国騎士団は5つの団から構成されている。

そして、どの騎士団も入団試験を受けるのに資格は必要無い。


つまり、平民でも実力があれば入れるのだ。

ここに王国騎士団の特徴が表れている。



王国騎士団は王国の中でもより一層強くなることに重きを置いている。



求められることは、国への忠誠心と、ただひたすらに、強くなることに貪欲になることだ。



訓練では重傷者が出るのが日常茶飯事である。王都の病院には、訓練中の怪我で入院している騎士が常時何人もいる。


貴族の先輩騎士が平民の出の後輩に教えを請うことも珍しく無い。そして後輩は躊躇わずに教える。


強くなる為ならどんな恥をかこうとも気にしない。いや、それを恥とは思わない連中である。むしろ、何もしないことの方が恥だと言うだろう。



そのようにお互いを高め合って、延々と強め合うのが王国の騎士達である。




そんな騎士団を他国の人々はこう称す



狂戦士の巣窟、と。












最も王国人らしい王国人である騎士団なのだ、目の前の男と同様に勇者に挑もうとするのは目に見えている。


「期待外れで見逃して貰えたら助かるだろーが、そん時は死ぬ程鍛えられてから戦わせられるんだろーな」


見たことも無い勇者に対して、ネサラは憐れむことを止められなかった。




けれど、


「まっ、オレには関係ねー話しだがな」


あっさりと憐れむことを止め、勇者のことなど頭から抜け落ちるのであった。



「んじゃな、色々聞けて良かったぜ。サンキュな」


そう言って、ギルドから出て行こうとするネサラ。


「おう。今度は一杯奢れよな」

ニカッと笑い、男はそれを見送るのであった。


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