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プロポーズは良く考えて

冒険者ギルドグルーヴ支部。


周辺の国々からグルーヴに流れてくるクセ者達の受け入れ所である。


流れ者達の集まりと言えば良からぬ印象を受けるが、そういう奴らの大半はギルドの先達から手痛い洗礼を受けこの街から去るか、街の住人の手により排除されるので素行が著しく悪い者はいない。


が、基本脳筋思考な王国人とそんな彼等に受け入れられた奴らの集まりなので、日々騒動は絶えない。

今もそこら辺で殴り合いのケンカをしているのが何組かおり、その周りでは野次馬が声援やら罵倒やらを叫んでいて中はかなり騒がしい。


(んでもって、その殴り合いをしてるのが明らかに前衛のマッチョ野郎とギルドの女職員なのが、王国内でもこの街が特に異常なところだわな)


そんな騒いでいる彼等を尻目に、ネサラはスルスルと人ごみを抜けて受け付けにたどり着いた。



「よっす。何か、今日中に終わる依頼とか無い?」


「はい?ああ、ネサラさんですか。こんにちは。珍しいですね、あなたが自分から依頼を受けようだなんて。今日中に終わる依頼ですか、少し待っていて下さい」


そう言い、挨拶もそこそこに依頼を見繕いだす受け付け嬢。


「ところでよ、アレは何が原因なんだ?」



今ギルド内で最も注目を浴びているマッチョvs女職員、を指しながらネサラが尋ねる。


女職員が一切無駄の無い最小限の動きでマッチョの攻撃を避け続けているところであった。



視線を向けること無く受け付け嬢が説明する。


「あれですか。今回はいつものより下らない内容でしたよ。

確か、冒険者の方が一目惚れしたとかでいきなりあの子に告白なさって、それをあの子がバッサリと振ったのですが、諦めきれなかったようでしつこく食い下がっていたらあの子がいい加減怒りだして、自分を倒せたら考えてやる、とか言い出したんです」


ウンザリとした様子で説明をする受け付け嬢。

ウンザリしているのは内容が下らないこともあるだろうが、職員が一人欠けたことで仕事に影響がでることを危惧してだろう。



ここで歓声が上がった。女職員のエルボーが冒険者のわき腹に食い込んだところだった。




「ていうか何?あの人、元冒険者なの?」


はたから見て、冒険者が弱いという訳でもなさそうである。ネサラの見立てでは中級、つまりC級かB級ぐらいの力量があるように見える。



ちなみに、冒険者の男は何とか盛り返そうとしているが完全に流れは女職員にあり、もはや一分も保たないだろう。



「いえ、違いますよ。個人情報なので詳しくは言えませんが、両親が元冒険者で小さい頃から護身術のような感じで教わっていたそうです」


「護身術ね〜。・・・・・・護身っちゃあ護身だが、自分から潰しに行ったんだよな?」


「別に良いのでは?あの冒険者の方は特に素行が悪い方ではありませんが、いささか鬱陶しい感じの方でしたし」


淡々と仕事をしながら言ってのける受け付け嬢に、女って怖え〜、と内心おののくネサラ。



そんなことを言っている内に、


おおおぉぉーー‼︎


どうやら決着がついたようである。



「ありゃ、しまったなー。決まり手を見逃しちまったぜ」


若干残念そうに言うネサラ。


冒険者の男があお向けに倒れ、女職員が周りの野次馬達に手を振っているところだった。


実にいい笑顔である。





「はいはい、そんなことより今回もネサラさん1人で行かれるんですね?」


「ああ、そーだぜ。アトリアもケルイスもまだ帰ってきてねーからな。まあ、帰って来てもチームって訳じゃ無いんだから組むとは限らないがな」


アトリアとケルイスとはネサラの悪友である。ネサラの言った通りチームを組んでいる訳ではないが、気の合う仲でよく一緒に酒を飲んでいるし、たまに3人で依頼を受けることもある。



「そうですか。では、ワイルドボア2頭の討伐はどうですか?」


そう言って、依頼書を出す受け付け嬢。


「ワイルドボア?そいつぁー確か、山の中に住む魔物じゃなかったか?おいおい、今から行ったら帰りは明日の朝になっちまうじゃねーか」


そうネサラが嫌がると、


「いえ、その心配には及びません。そのワイルドボアは山から下りて来て、この近くで発見されたそうなので」


「あ?どういうことだ、ワイルドボアって確か、他の魔物から追われる程弱い種じゃ無かったよな」


ワイルドボアの強さは、魔物の中では中の中から中の上といったところである。冒険者で表すとB級のチーム相当である。



「ええそうですが、出てしまったものは出てしまったものですし、ギルドとしては依頼されては冒険者を送らないわけにはいけませんから」


「・・・・・・アンタ、よくもぬけぬけとそんなこといえるな」


「ネサラさんなら特に問題無いでしょう?」


と、受け付け嬢が信頼しているのかぞんざいに扱っているのか分からない口調で言う。


「オレのランクB級だぞ」


そう、ネサラの冒険者のランクはB級なのだ。

だからB級のチーム相当のワイルドボアの討伐に、ましてや不可解な状況で行かせて良い訳がないのだが、


「ランクは、でしょう。はあ、昇級試験を受けたら楽に受かる実力を持っているというのに」


ため息を吐きながらそう言う受け付け嬢。


そう、この男はA級、しかもその中でも上位に間違い無く食い込める実力を有しているはずなのだ。



しかし、


「こうゆう面倒くせー依頼を受けたくないからA級にならねーんだよ。無駄使いしなけりゃ、B級の収入で十分食っていけるからな」


全く向上心の無い男である。


しかも、食っていけなかったから仕事をしに来たことを棚に上げている。


「まあまあ、いいじゃないですか。どちらにしろもう簡単な依頼は中級と下級の方々が受けてますから」


「マジかよ。はぁー、しょうがねえか。んじゃ、それ受けるわ」


渋々といった表情で受けることにしたネサラ。


「ありがとうございます。ご存知だとは思いますけど、ワイルドボアの皮膚は魔力を通し難いので気をつけて下さい」



「ああ、知ってるよ。んじゃな」

そう言って受け付けから離れるネサラ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆



(ったく、昨日からずっとツイてねーぜ)


手紙が書けずほぼ1日をむだにし、メルティアに嵌められ、受け付け嬢からは厄介な依頼を渡されたりと、確かにツイてはいないだろう。


(あ、そうだ勇者について色々聞いときゃよかったな)


少し冷たいところもあるが、基本優しいあの受け付け嬢ならば嫌がらずに教えてくれただろう、と思うネサラ。



そんなことを考えながらギルドから出ようとすると、


「よう、ネサラ。これから仕事か?」


酔っぱらった顔馴染みの冒険者が話しかけてきた。


「そーだよ。ったく、昼間から酔っぱらってんじゃねーよ」


「ガハハハ、いいじゃねーの飲みたい時に飲んでこその酒だぜ」


「そのまま酒樽の中に頭突っ込んで死にやがれ。ああそうだ、ちょうどいい。ちょっといいか?」


「あん?なんだよ?」


「勇者について何か知ってねーか?」

ちょうど思い出した勇者の話を聞こうと尋ねるネサラ。


「勇者?噂話し程度ならそりゃ知ってるが、それがどうしたんだよ」


何を今更、といった感じで酔っぱらった男が不思議がる。



「いやな、あんま勇者について知らねーんだよオレ」


頭を掻きながらぼやくように言うネサラ。


「生まれが王国じゃねーし、今まで興味も無かったしな」


「はーん、そんなもんかい。まあいいや、一杯奢ってくれるだけでいいぜ」


ニカッと笑い、グラスを軽く上げた男だったが、



「・・・・・・今、一文無しどころかツケてもらった分を返すために依頼に行くところなんだが」



「そ、そうか。あー、そいつは済まなかったな。別に話すぐらいいいさ」


「いや、気にしなくていいぜ。言ってて我ながら情け無いわ」


ようやく自分の現状を客観的に見て、ショックを受けたネサラであった。




「んっん、勇者の話だったな。つっても、どこから話せばいいんだろうな」


グラスを傾けながら少し迷った風にする男。


「じゃあ、ザックリでいいから最初からで頼むわ」


「そうか?じゃあ、アザルス大戦の終わりから話すか」

そうして、勇者についての講義が始まった。


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