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朝のじゃれ合い


午前10時。決して早朝とは言えないこの時間に起き出してきた男がいた。


「ふぁーあ。おはよう、おばちゃん。朝食定食一つ頼むわ〜」


眠たそうにしながら食堂に入り注文する男、ネサラである。


「あいよ!作ったげるけど、なんだい今頃起きてきたのかいあんた?」


そう返しつつ、呆れながらも厨房に入って行ったのはネサラとメルティアが住み込んでいる宿の女将のおばちゃんである。

年は50代中頃程であり、冒険者もよく来るこの宿の中でも群を抜いてエネルギッシュな人である。そして金の無い新人、中年冒険者達や、近所の中年達からおかんの様に慕われている。




そうして注文を終え、ネサラが座る席を探そうとして辺りを見回すと、


「おばちゃんの言うとおりだ、今頃起きたのかネサラ?」


残りわずかな朝食を食べながら、30代前半に見える頬に傷がある男がたしなめるように言った。


「あれ、ゲイルさん?いや、兄貴の所に送る手紙が全然書けなくってさ」


ちなみに、彼が昼から書いていた手紙は全てメルティアにダメ出しを喰らい、結局彼女の目の届かなかった夜に書いたのを送ることになった。


「というか、ゲイルさんいつもこんな時間に来てたっけ?」


と、尋ねるネサラ。


このゲイルという男は何故かおばちゃんのことを特に慕っており、毎日のように通っているので宿に住んでいるネサラともよく顔を会わせるのだが、会うのは基本夜食の時間なのだ。


「うむ、今日は昔の知り合いが来ることになっていてな。夜はそいつと出ることになっていて来れそうになかったからな」


そう言いながら、ゲイルは残った最後のスープを飲み干し、


「では、おばちゃん。代金はここに置いて置きます」


金を置いて厨房のおばちゃんにそう言ってから宿を出て行った。



「あいよー!いつもありがとねー」


そう言いながら入れ代わるようにおばちゃんが厨房から出て来た。


「はい。朝食定食」


「ん、ありがと。ああ、そうだおばちゃん。メルティアの奴どこ?あいつも寝坊か?」


やって来た朝食定食のサラダを食べながらネサラがそう尋ねると、




「酷いなぁ、勝手にボクをキミごときと同列に扱わないでくれよ」


「酷いのはどっちだ!朝っぱらから毒吐いてんじゃねーって、ん?」


いきなり背後から聞こえてきた嫌味にネサラが応えながら振り向くと、


「ん?どうしたんだい?」


「なんだその格好。どっか行くのか?」


そこには、いつもの服装に加え小柄な体をスッポリと覆うような黒いローブを着たメルティアがいた。


「ああ、これかい?うん、今日は少し人に会うことになっててね。初対面ではないんだけれどまだ知り合ったばかりだから、舐められない為に、ね。ボク程の美少女だとそういった所まで気を使わなくちゃいけないんだよ」


やれやれ、といった感じでメルティアが言う。


「はっ、んなことしてもその身長じゃ無駄だろ」


確かに、メルティアの身長は160cmに届かない程で、声も見た目に反し図太い重低音、というわけでもないので全身をローブで覆っても侮られるだろう。



「おや、美少女というのは認めるのかい?」


にやにや、といった感じでメルティアがからかう。


「はっ、別に今さらそこを否定しはしねーよ」


メルティアの言葉に皮肉るように返すネサラ。


メルティアの容姿は10人いたら10人が可愛いと認めるところだろう。珍しい黒髪を肩の先まで伸ばしていて、背は高くはないが彼女の見た目の歳なら普通のように見え低くはない。

歳は16、7といったところであり、胸は残念であるが。


「何だか今、かなり不快な感じがしたんだけどキミかい?」


「いや、何でだよ。イキナリ物騒だなお前は。大方、お前に嵌められた奴らが悪態でもついたんじゃね〜のか?ったく、お前の外見がどんだけ良くても中身のせいで台無しなんだよな〜」


「ふふふ、本人を前にしてよく言えるねー」


そうは言うが、特に気分を害したという様子は見せない。


けれども、言い切った後からメルティアの表情と雰囲気が変わった。




「それよりさ、君は何をしてるんだい?」


相手を小馬鹿にするような感じで、どこか楽しそうにいや、愉しそうに顔を歪めさせながらメルティアが尋ねる。


「あん?何って、見ての通り朝飯を食ってるだけだろ」


そう返すネサラだが、どうにも嫌な予感を感じ出す。

この顔のメルティアは基本的にマズイ。大小はあるのだが、今までの経験則から言わせるとこちらの得になることはまず無いだろう。


こういう所のせいで顔が良いのに台無しになるんだ、と内心で毒づく。


「いやいや、大したことじゃないしボクの記憶違い、はないか。うん、やっぱりキミが愚かなだけだね。ふふふ」


「ずいぶんな言い草だなオイ。言いたいことがあんならとっとと言いやがれ」


青筋を浮かべながらネサラが言う。

しかし、それは追い詰められたかのような焦燥感からくる発言だった。


「そうかい。じゃあ言わせてもらうけど、


キミお金持ってるの?」



「あん?んなの持ってるに決まって、、、、、、あ」


ちなみに、昨日の時点で彼の財布の中身は既に無かった。



「ボクは貸さないよ」


「早ぇよ!もう少し考えろよ!」


あまりにも早いメルティアの断りにネサラが叫んで返す。


「ヤダよ。キミに貸したらキリがないじゃないか。

というか、何で頼んじゃったのさ」


「あー何でだろ、何かつい頼んじまったんだよなー」


そう言いながら、どうしようかと頭を抱えていると、


「はー、いいからいいから。何か適当に依頼を請けてきな。それまで待っててあげるから」


おばちゃんがやって来てそう言ってくれた。


「おばちゃん。でも依頼か、メンドクセーなー」


おばちゃんに情けをかけて貰ったというのに渋るネサラ。


「ゴネるんじゃないよ。ゲイルさんが残ってたら、また説教されるとこだよ」


「だろーな、あの人おばちゃんのことになるとムキになるからなーって、ん?」


「どうかしたかい?」


「お前、何でゲイルさんが居たの知ってんだ?」


そう、ゲイルはいつもの時間帯とは違う時間に今日は来たのだ。ゲイルが出てから食堂に入って来たメルティアが彼が来ていたことを知るはずがないのだが、



「お前、まさかオレが食べ始めるまで黙って隠れてやがったのか?」


目の前の女がそういうことを嬉々としてやることを知っているネサラは、ほぼ確信を持って尋ねる。


が、



「うん、そうだよ。ちなみに言うと、キミが寝てる内に鼻先に焼き立てのパンを持っていって食欲を促してみたりもしたよ」


特にもったいぶること無く、それどころか聞いてもいない余罪までメルティアがしゃべる。


「全部オメーの仕業かぁーーーー‼︎‼︎」


ネサラが叫びながら立ち上がり、ガタン‼︎と音を立てイスが倒れる。



その様子を見ながらメルティアは何ら悪びれること無く、むしろ愉しそうにしながら嗤っている。


「あっさりとこっちの予想より上に行きやがって、何なのお前⁉︎本当に何なの⁉︎何朝から何の生産性も無いことにどんだけ力注いでんの⁉︎何がしてーんだお前は‼︎」


ギャーギャーと騒ぎ立てるネサラだが言っていることは至極当然のことであった。


それに対してメルティアは、


「何が多いいねー。何がしたいのかって?決まってるだろう。」


そう区切り、




「キミの苦しんでいる顔が見たいんだよ!!」


満面の笑みで言い放った。それはもう可愛らしい笑顔で、100人いたら200人が振り返るほどの笑顔だ。


けれども、


「ざけんな‼︎お前はオレの敵か!敵なのか!ついに言いやがったな!よーし、いいぜ表に出ろ、ぶっ殺してやる‼︎」


どれほど可愛いくても言われた方はたまったもんではなく、今まで溜まった鬱憤を晴らすかのようにネサラが怒鳴り散らす。



だが、


「ああ、もう時間だ。じゃあボクはもう行くけどちゃんと代金を払うんだよ」


そんなネサラを気にも留めずとっとと出て行くメルティアであった。


「あっ、ちょ、待ちやがれ!おい!、、、、、、っマジか、あそこまで言わせて無視かよ」


割と本気で怒っていたネサラだったのだが、まるで相手にされず残されてしまった。



「はぁー。ほら、終わったならとっとと食ってギルドに行ってきな」


話が終わったのを見計らったのか、いつの間にか離れて仕事をしていたおばちゃんが戻って来て言った。


「はぁ、しょうがねーか。んじゃ、おばちゃん悪いけど待っててくれ今日中には絶対に返すからよ」


「あいよ。程々に無茶して来な」


ここで無茶をするなでは無く、程々にして来い、という辺りが このおばちゃんらしいところで、ネサラ達が気に入っているところだ。


そんないつものおばちゃんに苦笑しながら、ネサラは目の前の朝食に取り掛かった。


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