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ただの雑談

【拝啓・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「だぁぁぁーー!!書けねーーーー!!!」


昼食の時間が過ぎ、客のいなくなった食堂で急に叫び声を上げながら頭を抱えだした男がいた。




「いやいやいや、まだ【拝啓】しか書いてないじゃん、しかも定例文じゃん、それ」


呆れた表情をしながら、対面に座っているこの辺りではあまり見ない黒髪、黒目の少女が言う。


「うっせーな、出てこねーモンは出てこねーんだよ

財布と同じでよ」


少女の言葉が地味に効いたのか、叫んでいた青年は顔を背けながら言った。


「財布からお金が出てこないのは君だけだよ。

というか、手紙なら毎月一度出してたじゃん。何モタモタしてるのさ」


と、不思議そうに少女が聞くと。



「おっと。そんなこと言うのか?そんなことをお前が言うのか?お前がオレの今月の手紙を勝手に見て

『うわ、何これ箇条書きだらけ。これ手紙?事務報告じゃなくて?ネサラってまともに手紙を書けないの?』って言ったんだろ!忘れたのか!?」


怒りを声に滲ませて青年いや、ネサラがそう言うと。





「うん。憶えてるよ。馬鹿にしただけじゃん、勝手に人をお馬鹿キャラにしないでよ。失礼だよ」



「お、ま、え、が、オレ、を、馬鹿にして!!失礼だろ!!」


ダン‼︎と机を叩いて怒鳴るネサラ。



「いやいやだってさ、拝啓から先が出ないで箇条書きのかたまりを手紙と言い張るのはバカにされてもしょうがないでしょ」


ネサラの怒鳴り声に応えたそぶりも見せずバッサリと切り捨てる少女。


「うっ、いやまあ確かに箇条書きのかたまりを手紙とは言い張れねーけどよ」


と、少しひるむネサラだが、



「ほら、ボクは全く悪く無いじゃん」





「お前の言葉には悪意が満ち溢れてんだよ!!!」






















「全く、お前にはもっとこう相手を労わる言葉遣いは出来ねーのかよメルティア?」


ウンザリとしながらネサラが嘆く。


「おや、これは心外だね。ボクほど常に相手を思いやっている者はそうそういないなよ。他にはそうだね、ゴンザレスぐらいだよ」


本当に傷ついたようにしながら少女いや、メルティアは言う。



しかし、



「ゴンザレスって、先週牢屋に入れられたっていう

あのゴンザレスか?

あのアルコール中毒者で、【他の客の迷惑だから】って、ここいらの酒場からさえも出禁くらったら路上で酒飲んで役人に難癖つけて牢屋行きになったあのゴンザレスか!?」


「そうだよ。ちなみに、彼は牢屋から出た次の日に酔っぱらって詰め所に攻め込んでまた捕まったらしい」


「何やってんのゴンザレス⁉︎全然知り合いじゃないけど何やってんの⁉︎というか、そんなのと自分を同列に扱ったのお前⁉︎もうそれ自供だよな⁉︎」



「おいおい、さっきから叫び過ぎだぞ?ほら水を飲め、それに人はいないが店内だぞここ?静かにしろ」



「ここで思いやりを入れんじゃねーよ!!」






「まあいい、話を戻そう君はいつも箇条書きを送っていたのかい?」


何も無かったように言い出すメルティア。


「箇条書きって言うな、いーんだよ向こうもそれで満足してんだから。」


こちらもすんなり話を戻すネサラ。これが二人の日常らしい。



今ネサラが言った『向こう』とは彼の実家であり、話題に上がっている手紙の送り先である。


彼が14歳の時に家を出て一人何の縁もないこの街に住もうとした時に条件として毎月一度手紙を送るよう言われていたのだ。(これだけを見ると過保護に見えるが、4年たった現在18才の彼の財布の中には空気しか入っていない現状を考慮すると妥当なところだと思われる。)


そういったわけで月に一度は手紙を書かなければならなかったのだが、この根は真面目なのに普段はひねくれている男は最初の月から手紙を送ることをしなかった。



「へぇ〜意外だね。前に聞いた話だと手紙をサボって酷い目に遭ったって言ってなかった?」


それが気になっていたのか身を乗り出して聞いてきるメルティア。


「ああ。半殺しにされたよ。あのクソ兄貴のせいで顔の半分が腫れ上がって2週間は外に出れなかったぜ。」


「あーそうだった、そうだった。確か、腕も折られたんだったよね?」


「そーだよ【利き腕じゃないから手紙は書けるだろ?】とか言ってな。手紙の内容より手紙が来ることが大切なんらしいぜ。」


忌々しそうに思い出しながら言うネサラ。


対称的に楽しそうに笑いながらメルティアは、


「凄いお兄ーさんだよねボクも会ってみたいよ。君と会ってもう2年近いけど一度も見たことないよね?

次はいつ来るんだい?」


「知らねーよ。そもそもこの街に来たのもその一回だけだし、他に会う時はオレが向こうに呼ばれた時だしな。」


ぶっきらぼうに言うネサラ。


「そうか、残念。まあ、いつも箇条書きだらけというのもあれだしやっぱりちゃんと書きなよ。」


そうは言うが、あまり残念そうにも見えずにメルティアは話しを戻す。


「いや、だから何を書いたらいいんだよ」


若干ふてくされながらそう言うと、




メルティアが、



口を、



開く、



「何か時事ネタでいいんじゃないかい?










ほら、例えば今話題の
















聖剣に選ばれたっていう




























勇者の話。」


























「いや、別にオレその話あんま興味無くて何も知らないんだけど。」


と、本当にどうでも良さげにネサラが言うと


「だよねーボクも話振ったけど何も知らないし。」


同じく興味も無さげにメルティアも同意した。


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