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降りかかる脅威

 これは、神酒たちがキャンプに向かうバスの中で体験した出来事である。


 キャンプ場に向かう、籠目中学校の2年生たちが乗るバスの中。

 一応名目は宿泊訓練なので、遠足や修学旅行とは少し目的が違うのだが、それでも生徒たちは、学校での授業とはぜんぜん違う開放感につつまれ、これから行われるキャンプにワクワクしながら車中の時間を楽しんでいた。


バスの中では、騒ぎすぎる生徒たちを注意する先生の声も何度か聞こえたが、とてもではないが、そんな声に耳を傾ける生徒が1人としているはずもなく、担任の深雪先生も半ばあきらめ顔をしていて、

「ま、たまにだからいいか」などと思いながら、彼女自身も今の時間を楽しんでいた。


「ねえねえ、お菓子とか持ってきた。」

 バスの中でグループになって座っている神酒、絵里子、七海のいつもの3人。

 もちろんウキウキしているのは他の生徒たちと同じである。

「エヘヘ・・、リコ隠して持ってきちゃった」

「あ!あたしも!ミキはどう?」

「もちろん持ってきたに決まってるじゃん」

「あたしなんかDSも持ってきちゃった」

「ナミ、あんたゲーム好きだね〜」

「見つかったら取り上げられるよ」

「大丈夫大丈夫。」


 神酒がちらりと後ろを見ると、座席の2つ後ろの席には瞬が座っている。

 彼女が瞬の顔を前からうかがうと・・・瞬が座席でグッスリと居眠りしている姿が見えた。


 あ〜あ。シュンは相変わらずだな・・・。


 バスはやがて町中を通り過ぎ、県境の山間部に進んでいった。

 さっきまで見えていた家々や道を歩く人の数も少しずつ減っていき、代わりに上り坂が増え、木々の緑の数がどんどんと増えていく。

 まるで舗装された森の中の道をバスが走っているようにも見え、時々カモシカやキツネなどの、普段見られない野生動物の姿が見えるたびに、バスの中から生徒たちの歓声が上がった。


 そして、そんな時だった。

 あの出来事が起きたのが。


「あ、あそこなんか飛んでるぞ」


 生徒の1人が、彼らのバスから数百メートル離れた上空を、まるでバスと並んで走るかのように飛んでいる、奇妙な飛行物体を見つけたのだ。


「あれUFOじゃないか?」

 それは、少し曇りがかった空に、ほんのりとオレンジ色の光を放ち、徐々にバスに近づいてくるようにも見える。

「スゲエ!UFOだ!UFO!」

「こっち来るぞ!」

「おお!接近遭遇!!」


 次第に近づいてくる飛行物体に、バスの中の生徒たちが騒ぎだした時である。

ふいに瞬が目を覚ました。

 しかし、彼は他の生徒たちの騒がしさに驚いて目を覚ましたわけではない。


 なんだ?この感覚・・・・。


 瞬には、何か彼の感覚に呼びかけられるような不思議な予感があった。それは、決して好ましい予感ではなく、瞬がどこかで経験していた、とてもイヤな感覚だった。


 前にも一度、こんな感じがあったような気がする。

 なんだったっけ?このイヤな感じ・・・。


 そしてそのオレンジ色の光の正体が、まるで何かのエンジンのような音を響かせて、バスの中の生徒たちにもはっきりと分かるほどに近づいてきた時。瞬はその予感が間違いではなかったことに強く気付かされることになった。


「ああ!?なんだあれ!?」

「キャアアア・・・!!!」

「か・・・・怪獣!?」

 車中に生徒たちの悲鳴が上がった。


 そこにはとんでもない化け物がいたのだ。

 バスに向けて大きな翼を翻しながら襲いかかってくる奇怪な生き物。それはまるで巨大なコウモリを思わせるその翼は、強くオレンジ色の光を放ち、不潔にうす汚く輝いている。トカゲのような頭部には、幾つもの鋭い牙が見え隠れし、だらしなく汚らしい液体がだらだらと流れ落ちていて、あたかもコウモリの翼を持つ巨大なトカゲの姿としか形容できない。

挿絵(By みてみん)

 そう。それはかつて瞬がロズウェルの実験室で出会った化物。

 星々の間を行き交う歪んだ神々の眷属と噂される『ビヤーキー』の姿だったのである。


 かつて瞬がヴァーチャルシミュレーターによって体験させられた太古の旅。その旅の途中で何度も彼らに襲いかかってきたビヤーキー。

 それが今、擬似的なものではなく、現実として再び瞬たちの前に姿を現したのだ。しかも、あの時よりもさらに巨大な姿で。


 今彼らの前に現れたビヤーキーの大きさは10メートルはある。

 かつて瞬が見たものの2倍近い大きさだ。


「運転手さん!逃げて!」


 瞬が叫んだ。

 言われるまでもなく、ビヤーキーの存在に気付いた運転手が悲鳴を上げながらバスの速度を急激に上げた。

 急な加速で車内の生徒たちの数人がバランスを崩して倒れる。

 再び上がる悲鳴。そしてパニック。


 しかし、ビヤーキーはそんな彼らの必死の抵抗をせせら笑うかのように、バスの上まで近づくと、そのまま大きな鉤のようなツメで天井に貼り付いた。

 そしてその恐ろしいまでの強い力で、バスを抱えたまま空に再び舞い上がったのだ。

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