事故
事故の状況はこういうことだった。
隣県のキャンプ場に向かっていた籠目中学校のバスが、途中の山間部でガケから転落。バスは大破したものの、幸い死者はなし。
ただしケガ人が多数出ていて、ケガ人の中には重傷者も多数おり、予断を許さない状況だということだった。
助手席で携帯で連絡を取りながら情報を集める詩織の母。
現場までの約1時間の道のりで、その間詩織たちのもとには、さらにいろいろな情報が舞いこんできた。
その中には、工藤絵里子が意識不明で病院に搬送。
同じく高村神酒が足を骨折していて、同じく病院に搬送というものもあったが、まだ七海についての安否がわからない。
「ママ!ナッちゃんは無事なの?」
「判らない。まだナミがどうなってるか、全然わからないの、でも・・・」
「どうしたの?」
「病院に運ばれた生徒の数と、名簿の数が合わないらしいの。もしかしたら行方不明の生徒がいるかも知れないって・・・」
そして椎名家が現場にたどり着いた時、そこで詩織たちは信じられない事実を伝えられた。
バス事故による行方不明者が2名。
その一人が水神瞬。
そしてもう1人。それが、椎名七海だったのである。
★
その頃、現場検証に入っていた警察官たちと、救出作業を行っていたレスキューや消防署員の間で、こんな会話が繰り広げられていた。
「警部。救出した運転手が妙なこと言ってるんですがね」
「どうした?」
「いや、化け物に襲われたとかなんとか・・・」
「化け物?熊でも出たのか?」
「なんでも空飛ぶ怪物が出たとかで」
「空飛ぶ怪物?運転手は酒でも飲んでたのか?」
「まだ検査はしてませんよ。」
「判った。重傷じゃなかったんだよな?そっちの検査も早く済ましとけ」
「判りました!」
「警部。やっぱりブレーキ痕は見つかりませんね」
「運転手の過失の線だろう。」
「ええ、多分そうでしょう。ただ、ちょっと気になることが・・・」
「なんだ?」
「いや、ブレーキ痕が無いのは無いんですが・・・。タイヤ痕がはっきりしないんですよね。おっかしいな・・・」
「どういうことだ?」
「なんて言えばいいか・・・・。ガケから滑り落ちたんじゃなくて、バスが自分で飛び跳ねてガケに突っ込んだんですかね。ま、詳しく調べてみないとわかりませんけどね」
「ああ。引き続き頼むよ」
「おい!救出作業はどうだ?」
「はい。崖下の生徒はたいがい病院に運ばれましたが、やっぱり2名いませんね」
「そうか。おおかた窓ガラスが割れた時に、外に投げ出されたんだな」
「しかし、おかしな壊れ方してますよね。このバス」
「何か変か?」
「ええ。普通バスみたいな長い物って、横に転がりながら落ちていくでしょう。
丸太みたいにコロコロって感じで」
「まあ、そうだろうな」
「でも、このバス見てくださいよ」
「?」
「ほら、このバス真ん中から2つに折れ曲がってるでしょ。よほど激しく正面からぶつからないと、こういう壊れ方はしないんですけどね。でも、なぜかバスの正面は無キズなんですよ。どういうぶつかりかたしたのかなぁ。
これだとまるで、鋭いツメを持ったクレーンにでも吊るされて、そのままにぎり潰されたような壊れ方ですよ、これ・・・」