詩織
椎名七海の家、朝の6:30。
七海と妹の詩織が使っている子ども部屋に、朝を知らせる目覚まし時計の強烈なベルが鳴り響いた!
「!!」
自分のベッドからガバッと飛び起きた七海が、自分の枕を目覚まし時計に叩きつけた。
「シオリ!シオリ起きろ!」
七海がとなりの詩織のベッドの上の掛け布団を跳ね上げる。しかしなぜか詩織の姿が見えない。
「またこっちかー!」
七海は自分のベッドに戻ると、今度は自分のベッドの掛け布団を持ち上げた。
いつの間にか詩織が七海のベッドに潜りこんでいた。
「早く起きろ!パパが来る!」
「ふにゃ〜・・・。まだ眠いのだ〜」
「早く・起・き・ろ!」
「ぎにゃ!!」
七海が詩織の鼻をギュッと握ると、ようやく彼女のベッドから詩織が顔を上げた。
すると・・・・。
廊下から、2階にある七海たちの部屋へ向かって歩いてくる誰かの足音が聞こえる。そしてその足音は2人の部屋の目で立ち止まると、扉をいきおいよく開いた。
「ナミ!シオリ!おはよう!!」
「お、おはよう、パパ」
「ふにゃ〜・・・、おはようなのだ・・・」
七海と詩織は椎名家の姉妹。七海が中学2年生で、詩織が小学3年生。2人の部屋を訪れたこの人物は、もちろん七海と詩織の父親である。
実は彼には七海たちにとって少し迷惑なクセがあるのだ。それは、娘にキスをせまるクセ。
この父親は決まって6:30になると七海と詩織を部屋までわざわざ起こしに来て、まだ眠っていると確認するやいなや、2人のホッペにキスをして起こそうとするのである。
七海と詩織は、この父親のクセがイヤでイヤでたまらなかった。そこでそれをを回避するために、2人は特に強力な目覚まし時計を母親に買ってもらい、毎朝眠気と戦いベッドから飛び起きる生活を続けていたのだった。
「なんだ、もう起きたのか・・・」
「アハハハ・・・、じゃあパパ。あたしもシオリも着がえるから、パパはリビングで待っててね」
「ちぇ、残念だなぁ・・・」
父親はいかにも残念といった具合で、1階に降りていった。
とりあえず目の前の脅威が過ぎ去ったことで、2人はホッと胸をなでおろしたのだが、まだベッドの上で半分夢の世界をさまよっている詩織の頭を、七海がゲンコツで軽くこづいた。
「痛っ〜!ナッちゃん何すんのさ〜」
「シオリ!あんたね、何度言ったらあたしのベッドに潜りこむクセを止めるワケ?」
「いいじゃんか。寒いんだから〜」
「今何月だと思ってるの?もう7月になったんだよ!」
七海や詩織たちが住む鳳町。ここは、一言で言えば片田舎にあるありふれた小さな町だが、時々不思議な出来事が起きる場所でもある。
七海や、その友人の神酒たちが中学2年生になってから約3ヶ月。
季節はもうすぐ夏を迎えようとしていた。
詩織が七海のベッドに潜りこむのは、これが今に始まったことではない。
実は詩織が小学生になり、この部屋を2人で使うようになってから、毎日同じようなことが繰り返されている。
夜寝るときは、いつも2人はそれぞれのベッドに入るのだが、夜中にいつの間にか詩織が、七海が眠っている隙に彼女のベッドに入り込むのだ。
ものによっては全然平気だが、変なところで彼女には姉以上の恐がりな部分がある。
「あんた本当は一人で寝るのがコワイんでしょ?」
「そんなことないよ〜!」
「あたし明日から宿泊訓練で3日間家にいないんだよ。ちゃんと1人で寝てよね〜」
「え〜!?そうなのか〜!」
実は七海たちが通う籠目中学校では、夏休みに入る少し前にあるイベントがある。それは毎年この時期に中学2年生はそろって隣県のキャンプ場へ、宿泊訓練でキャンプに出かけるということ。今年はもちろんそれが七海たちの学年の番になっていて、明日から2泊3日の予定でキャンプ泊に出かけるのである。
「まさか小学3年生にもなって、ママたちと一緒に寝たりしないよね?」
「・・・ナッちゃんのイジワル・・・」