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ゴーストタウン

 不思議な扉をくぐり抜けた詩織、真夢、そしてティム。

 気が付くと、彼女たちは今まで見た事のない奇妙な場所に立っていた。


 そこは、いくつもの奇妙な建物が並ぶ人のいない町。

 2人が真夢の部屋を離れたのは真夜中だったが、ここは強い陽射しが照りつけている。おそらく昼頃の時間帯なのだろう。


 人が造ったと思われるいくつもの建築物はあった。日本であることは間違いない。

 それらの建築物がもし使用に耐えるものであるなら、そこは誰もが見慣れたごく普通の町に見えるのだろう。


 だがそこにある建物は、そのどれもが崩れ、まともな形を残しているものは何1つなかった。

 まるで戦争か大地震でもあったのだろうか?

 壊れた道路。並ぶ廃墟。歪んだ町並み・・・・。

 あたかも人がその町を捨て、そしてそのまま長い時間が過ぎ去ったかのように、人の気配も感じられず、死の町・ゴーストタウンが詩織と真夢の前に広がっていたのである。


 その雰囲気の異様さに、最初2人は言葉も出せず、ただその風景をじっと見つめていることしかできなかったが、やがて時間が経ち、ようやく詩織が最初の一言を発することができた。


「ねえティム・・・。ここ・・・どこ?」

 ティムも辺りを見回していたが、彼にも答えは出せないようだ。

『ボクにもわからないよ。ただお姉さんがどこかにいる場所ってことしか・・』

「なんか無責任だなあ」

『・・・だから言ったじゃん・・・』


 そのうち真夢が何か気付いたことがあったらしく、急に駆け出すと、道端のガレキの中に手を入れ、そこからある物を取り出した。それは錆びて壊れた看板で、三世鶏町の文字が書かれていた。

「ねえ。ここ、三世鶏町みよどりちょうみたいだよ。」

三世鶏町というのは、鳳町のとなりにある町である。



「三世鶏町ってこんな場所だっけ?」

『違うと思うよ。多分ここは・・・・』


 その時だった。彼女たちの真上を、何かがすごい勢いで通り過ぎた。

 詩織たちが空を見上げると、そこには彼女たちが見たこともない信じられないような姿の怪物がいたのだ。


 全長は約3メートルほど。トカゲのような凶悪な顔。その口には鋭い牙が並び、緑色の汚れた唾液を垂れ流している。

 まるで象の鼻のように長くて厚い首。

 巨大なコウモリを連想させる骨ばった翼。

 そこには、詩織たちが今まで見たことのない異様な生き物が上空を旋回し、今にも彼女たちに襲いかかろうと、その歪んだ目を向けていたのだ。


『ビヤーキーだ!シオリ!マム!逃げるよ!!』

 ティムの言葉を理解するまでもなく、2人はティムの後ろについて走り出した。

「どこに逃げればいいの!?」

『わからないよ!とにかくヤツから離れないと!』

 詩織たちは必死に走りながら、身を隠せる場所がないか辺りを見回す。だが付近にあるのはガレキばかりで、とても上空からの攻撃をかわせそうな場所は見当たらない。


 逃げ出した詩織たちに気付いたビヤーキーは、すぐに彼女たちに向けて滑空した。

 その走る速さと飛ぶ速さでは雲泥の差があり、ビヤーキーはすぐに詩織たちに追いついてきた。


「あ!!」

 真夢の小さな悲鳴が聞こえた。

 足をもつれさせた真夢が、そのはずみで転んでしまったのだ。

「マム!!」

 詩織は引き返すと、そのまま真夢の上に覆いかぶさる。

 2人の危機に気付いたティムも、すぐに引き返すとビヤーキーと詩織たちの間に割って入った。


 その時だった。

「そのまま伏せてろ!!」

 聞きなれぬ声が聞こえた。


詩織が声のした方を見ると、そこには1人の少年が立っている。歳のころは15歳前後ぐらいだろうか?

 迷彩の古びたカーゴパンツを身に付けた少年が、大きなショットガンを構え、その銃口をビヤーキーに向けて立っていたのである。


 ショットガンが火を吹く!

 1発・2発・3発・・・・。

 渇いたような銃声が響くたびに、ビヤーキーの体から緑の体液が噴き出した。


 発射された弾は計7発。

 さしもの怪物も、大量の弾丸を喰らってはひとたまりもない。

 一度は上昇しようとしたビヤーキーだったが、それはすぐに断末魔を上げ力尽き、離れた廃墟の中に轟音とともに落下していった。


 突然の恐怖に一時固まっていた詩織と真夢だったが、彼女たちの気持ちが落ち着くまでにさほど時間はかからなかった。そしてそんな詩織たちのもとへ、さきほどの少年が銃を下ろし、不思議そうな顔をしながら近づいてきた。


 彼女たちは少年の顔をしげしげと眺めた。

 なんとなく、どこかで見たことがあるような顔だ。


「珍しいな、こんな場所に小さな子がいるなんて。ケガはないかい?」

 少年は優しく2人の手を引いて起こすと、彼女たちの服に付いた汚れを払いてあげた。

 真夢がポッと頬を赤らめる。どうやらちょっと好みの顔つきらしい。


「これ、ネコ?」

 詩織の傍にいたティムを見た少年は、ティムのノドをゴロゴロとなでた。

「はい、ティムっていいます。あの・・・・」

詩織は頭を下げた。


「ありがとうございました!助けてもらって・・・」

「危なかったね。でも、君たちどこから来たの?名前は?」

「あ、あの・・・あたしはシオリ・・」

「マムです!マムっていいます!お兄さんは!?」


 2人のちょっと滑稽なやりとりに、少年は軽く笑いながら彼女たちの頭をポンとなでた。

「ボクの名前はヒカルさ。シオリちゃんとマムちゃんだね。なんか事情ありみたいだけど、とりあえずここは危ないから早く安全な場所まで行こう」


 そしてヒカルは詩織と真夢の手を取ると、ガレキの向こうへ歩き出していった。



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