夜泣き
結局その日は電話はつながらず、そのまま夕方を迎えることになり、真夢は一度家に帰って、後はどうするかは明日考えようということになった。
真夢が帰ろうとして、それを詩織が玄関まで出て見送ろうとした時、詩織はなんとなく真夢に奇妙な違和感を持った。
「・・・・?あのさ、マム。」
「どうしたの?シオリちゃん。」
詩織はまじまじと真夢の顔を見た。
なにかいつもと印象が違う。どこが違うかと聞かれると非常に困るのだが、
それでもやっぱり、なにかいつもと真夢の雰囲気が違っているように詩織には感じる。
「う〜ん・・・、ううん。なんでもないのだ・・・・」
「?変なシオリちゃん。それじゃ、また明日ね!」
そして、真夢はいつものように家へ帰っていった。
「なんだろう。なにかいつもと違うな〜・・・、マム」
★
その日、詩織は両親にティムをペットとして家で飼っていいかどうかを正直に相談した。
事の詳しい経過については、神酒からの預かり物ということでぼかした部分もあったが、自分の想いを話し、きちんと最後まで世話をするからと強く誓っていた。
詩織の両親は、最初はもちろん反対をした。
未だ七海が見つからない中で、急にペットを飼い始めても世話をしきれないだろうと考えていたからだ。
しかし詩織が強く懇願を続けているうちに、2人はある心配事の解消に、もしかしたらティムの存在が解決の糸口になるかも知れないと思い始めていた。
その心配事とは・・・・。
実は七海が行方不明になってからは、詩織は夜は両親と一緒に寝るようになったのだが、夜中、詩織は自分でも気付かないうちに夜泣きをするようになってしまったのである。
原因は、もちろん七海の行方不明になる。
一緒に寝ていた両親は、詩織が夜中に「ナッちゃん・・・」とつぶやきながら
夜泣きする姿を何度も目撃していた。
普段は気丈に明るく振舞っている詩織だが、心の底では、大好きなお姉ちゃんのことが心配でたまらないのは明白な事実で、2人もそのことに心を強く痛めていたのだ。
「シオリ。ちゃんと最後まで責任を持って面倒をみれるか?」
「うん。みれる!」
「絶対に投げ出さないな」
「うん!大丈夫!」
「・・・・・そうか。それじゃ、まぁしょうがないか・・・」
「やったー!!」
詩織はティムを抱き上げて飛び上がった。
詩織の両親は、そんな彼女の姿を苦笑いしながら見つめていた・・・・。
★
そして、その夜。意を決した詩織は、自分から1人で部屋で寝ると両親に宣言し、ティムを抱いて1人でベッドに入ったのだが・・・。
やはりすぐには夜泣きが治るはずもなく、真夜中、詩織は自分の枕を涙でぬらしていた。
姉のいない真っ暗な子ども部屋。
誰もいないはずのその部屋で、1人泣きながら眠る詩織の姿を見つめる瞳があった。
それはティムの瞳で、ティムは詩織の枕元で、彼女の姿を何も言わずにじっと見つめていた。
愛おしく、そして心配そうな瞳で・・・・。




