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6.神、初日の朝

 あ・・・白い壁。

 ここはどこだ?

 辺りを見渡してから無言で自分の胸に手をやる。

 やはり現実か・・・。

 現実であることを自分の柔らかい胸の感触で確かめるのはどうかと思うが、元男としてどうしてもその手段を取ってしまうことは許してもらおう。これが一発で現実と実感する手段なのだから。

 ゆっくりと起き上がる。

 どこか一瞬わからなかったけれどここはフウカと一緒にいた部屋だ。3人の神を紹介されたあと、ベッドに寝そべってそのまま寝てしまったようだ。

 フウカはどこに行ったんだろう?

 周りを見渡すが唯一の顔見知りである元姉の姿が見えない。


「姉貴?」


 思わず声に出して呼んでしまう。自分でも予想外に彼女がそばにいないことに動揺しているようだ。

 その時、がちゃりとノブが開く音が聞こえてきてそちらの方向を見る。

 大きな扉ではなく、その反対側にある小さなドアである。


「はーくん、おはよう」


 そこから変わり果てた外見をした元姉のフウカが、大きなあくびをしながら入ってくる。純日本人といった容姿だったはずなのに髪の毛は白っぽい金色で、腰まで伸びている。眼は右は金で左はスミレ色といった派手な色彩をしている。

 今まで見慣れてた姉の姿はずいぶんと若返った上にすこしたれ眼になり、唇はだいぶふっくらとしている。素は姉貴だがかなり若く美形になってしまっていた。顔だけでなく身体も全身整形手術したようにみごとな凹凸とくびれを見せている。シンプルな白いワンピースを着ているのだが、そのプロポーションはそんな服の上からもはっきりとわかった。

 おはようと挨拶しながらもどこか視線が定まっていないので、まだ半分以上寝ている感じだ。

 どんなに外見が変わろうが朝の寝起きが悪いのは相変わらずなんだなと、彼女の姿を確認できた安堵も手伝って俺は大きく噴きだしてしまった。


「フウカ?起きているか?」


 笑いながら彼女の顔の前で手を振る。


「ん~。起きているよ。はーくん・・・・・あ!ハヤト!」


 寝ぼけた頭でも今の状況を思い出したようで、一気に覚醒したようにフウカは俺に声をかけてきた。


「だ、大丈夫?昨日は疲れちゃったでしょ?」

「ああ。昨日はごめんな。気が付いたら寝ちまってた」


 俺がそう言うと俺の表情を心配そうに窺うようにしていたフウカの表情に、安堵の笑みが浮かぶ。


「いろいろと話聞きたいんだけど・・・」


 俺がそう言ったと同じぐらいに大きな扉の向こうでノックの音がする。フウカが軽く返事すると、昨日服を持ってきてくれた女性ともう一人若い少女がワゴンのような物を持って入ってきた。


「「おはようございます。フウカ様、ハヤト様」」


 二人は部屋に入った途端に笑顔で朝の挨拶をしてくる。


「おはようございます」


 俺も決まり切った挨拶を彼女たちに返す。隣ではフウカも彼女たちに返事を返している。


「おはよう、ノア、セレーナ。あ、そう言えば自己紹介まったくしてなかったね。ノア、セレーナはもう分かっているだろうけど、紹介させてね。この子はハヤトで守護の神ね」

「ご誕生おめでとうございます、ハヤト様」


 昨日の彼女ではないほうが元気よくそう言ってくる。明るい栗色の髪と黒の眼の今のフウカと同じぐらいの外見の女の子だ。眼が大きくヒラヒラの服を来ている。まるでメイド喫茶のコスプレみたいだが彼女にはよく似合っている。とりあえず彼女の爛々と輝く瞳にすこし圧倒されながらありがとうと小声で返す。

 昨日の彼女も声には出さないが、俺の顔をみて軽く会釈をしてくれた。


「で、ハヤト。昨日お世話になったのがセレーナね。闇の精霊よ。で、こちらが光の精霊のノアね。いま、私はこの二人にお世話になっているの」


 なるほど、精霊なのか。だがどう見ても人間にしか思えない。


「昨日話してて、セレーナがハヤトの身の周りをしてくれることになったので私がそばに居られないときとか、聞きたいことは彼女に聞いてね。もちろん、ノアでも大丈夫だけど一応メインはセレーナにお願いしたんで」


 いつの間にかそう言う話になっていたのか・・・。まあ正直好みのタイプだし、落ち着きがある彼女のほうが助かるので異存はございません。


「えっとセレーナさんにノアさん。フウカ同様お世話になります」


 そう言って軽く頭を下げる。すると二人は慌てて手を大きく振りながら俺にこう言った。


「ハヤト様!頭を上げてください。わたくしたちに頭を下げる必要などございません」

「そうです!それに呼び捨てで敬語抜きおねがいします!」


 びっくりしてフウカのほうをみると、苦笑しながら頷いている。


「私もよくするんだけど、精霊たちに頭を下げたりすると相手のほうが畏まっちゃうのよ。これからお世話になるんだしさん抜きで呼んであげて」


 なるほど、神と精霊との位の差なのか?

 と言ってもフウカが言うように生粋の日本人にそれを求めるのはむずかしいぞ。


「分かったよ。セレーナにノア。よろしくな」


 そう言って握手を求めて手を差し出した。これぐらいは大丈夫だろう。

 すると、ノアと呼ばれた少女が感極まったかのような潤んだ瞳をこちらに向けながら、がしっと両手で俺の差し出した手を掴んできた。


「こちらこそ、フウカ様だけでなくハヤト様にまでお仕えすることができて本当に幸せです~」

「本当に他の精霊たちに嫉妬で恨まれてしまいそうですわ。かといってこの恵まれた立場を決して他の誰にも譲る気ございませんけど」


 ノアに熱烈に手を掴まれたあと、セレーナもそっと両手で俺の手を包み込んでそう言う。

 あまりにもその両手広げての歓迎ぶりにびっくりしてしまうが、何はともあれ拒絶されるより歓迎してもらったほうがありがたいと思うことにした。

 その後、着替える服を準備してもらう。

 服は今着ているもの同様、襟の詰まった上着とズボンだ。それに下着も男性でもいけそうなほどシンプルなブリーフのようなものを用意してくれている。昨日言う暇もなかったが、気を利かせてフウカがそう注文してくれたのだろう。ありがたい。


「そう言えばハヤト風呂入らずに寝ちゃったよね?朝だけど入る?」


 フウカが思いだしたように言い出したことでそのことを思い出した。

 風呂か・・・。また気力を消耗しそうな難関がやってきた。

 だが、いつまでも風呂に入らない訳にもいかないだろう。


「入るよ」


 ため息交じりに俺が返事するとフウカが、


「手伝おうか?」


 と声をかけてくれる。

 ありがたいお言葉だが、姉に身体を洗ってもらうのも微妙に嫌だ。

 結局、セレーナに入浴の準備をお願いして風呂の使い方を説明してもらうと覚悟して一人で入ることにした。

 セレーナもノアも何度か手伝いを申し入れてくれたが、姉以上に他の女性に風呂を入れてもらうことは嫌だったので丁重にお断りすることにした。

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