4.着替えだけで気力消耗だ・・・。
「とりあえず、服どうにかしないとね・・・」
フウカが俺の姿を見て考えるようにしてそう言う。確かにいつまでもぶかぶかのパジャマを着ておくわけにもいかないだろう。だが、スカートは断固拒否させてもらおうと俺は元姉であるフウカに声をかけようとしたが、部屋の空間がゆがんだためにそれは阻止された。
そこから現れたのは女性だ。これはテレポートか?フウカは慣れたように普通に彼女を見ている。テレポートが当たり前の世界なのだろう。さすが、神の国。なんでもありなのか?
どういう仕組みでなっているのだろうと現れた女性を凝視する。濃い蒼色の肩ぐらいの長さの髪の美女だ。目の色も一緒である。細身でおだやかそうな顔立ちをしていて知的な雰囲気がある。
かなり俺の好みのタイプである。
思わず、今まで通り男の目で彼女をみてしまった。
それがばれたのか、彼女のほうもこちらを興味深そうに見ている。視線を外すか迷っているうちに彼女のほうから外して、フウカに声をかけていた。
「フウカ様。もしかしてそちらの御方は・・・」
「うん。守護の神よ。とりあえず説明は後にして、ゼノンたちに会わせるのにこのかっこだとどうかと思うので、服を用意してもらえないかしら?」
守護の神とか言われてもまったく実感ない。身体は変わったのはいやでもわかったけれど、別に違和感がないからかもしれない。
あ、そうだ。ここできちんとズボンを注文しないといけないと思いだして口を開いたと同時にフウカがその注文をしてくれる。
「あのね。難しいかもしれないけど、男性の服にしてもらえるかな?なければせめてズボンでお願い」
さすがにフウカは分かっている。助かった。
目の前の女性はすこし戸惑いを見せるが、すぐに返事して手を空に振る。それと同時に彼女の手の中に白と黒の布のような物が舞い降りる。
おお!
「すげぇ~。魔法のランプだ」
俺は考えるよりさきに目の前に出来事に感心してしまった。本当にいろんなことができる世界なんだな。こんなところでもう馴染んでいるなんてフウカもノーテンキだなって思ってしまう。
「このようなものでいかがでしょうか?もし丈など長ければ調整いたしますので、着替えて頂けますか?」
女性はいきなり現れた服をフウカに渡す。ズボンなのでひとまずほっと息を吐く。
「う、うん。わかったから君も姉・・・フウカも出て行ってくれる?着替えたら呼ぶから」
いくら女性になったからと言っても、いや、だからこそ誰にも着替えるところを見られたくない。着替えと言うことは自分の身体を見なければいけないわけだから一人で覚悟を決めてやりたいのだ。
「わかったわ。廊下に出ておくから。時間かかってもいいからね。わからないことあったら呼んでちょうだい」
さすがに元姉のフウカは俺の気持ちをわかっているようで、怪訝そうにしている女性を連れて扉の向こうに行ってくれた。
さて・・・。覚悟を決めるしかないか。
自分のパジャマに手を掛けながらごくっと唾を飲み込んだ。
出来るだけみないようにパジャマの上を脱いで、持ってきてくれたチャイナ服のようなすこし丈の長い詰襟の白の上着をすばやく羽織る。前が見えないこの形でよかったとは思うが、服の上からも胸の頂上がくっきりと出ているのを見て俺は思わず大きなため息をついてしまう。女装している気分だ。そんな趣味まったくないのに・・・。
持ってきてくれた服の中に下着のような物が入っていたが、見るからに女性のものである。さすがに履く気になれないので、カッコ悪いかもしれないがもともと履いていたボクサーブリーフのまま、パジャマの下も黒のズボンに履き換えた。寸法は本当にちょうどよい。さきほどの少女は直すと言っていたけれどまったく必要ないだろう。
俺はなんとか着替え終わって目の前の鏡を見るとそこには、疲れ果てた顔をした少女がズボンを履いて突っ立っていた。
これが俺なのかよ・・・。これからずっとこの姿なのか。
いやだと叫んでしまいたい。だが、叫んだところでどうすることもできないことは分かっていた。フウカが消えた時に周りの者全てが記憶を無くしてしまったように、俺がこちらに来た時点で俺のことも全ての者が忘れてしまっているだろう。これは推測ではなく確信があった。
守護の神とか言われてもピンとこないけれどこうなる定めであったと、頭のどこかで理解していた。
それならば開き直るしかあるまい。
たかが2ヶ月とはいえ、姉のフウカは一人でこの状態で過ごしてきたのだ。それに比べたらそばにその姉がいるということで俺の今の状況は姉よりだいぶ救われているのかもしれない。
そう思うことで自分を前向きに考えさせることにした。
フウカを呼び戻すと父親であるという戦神を呼んでいいかと聞いてきた。
正直どう返すべきか返答に困る。フウカを母だと思うことなど到底無理だ。それと同じで知らない男性がいきなり自分の父であると言われても、今まで日本に居た両親の記憶があるだけにすんなり受け入れることなど不可能だ。
「ああ。でも、あの人を父親として接しろって無茶な注文はやめてくれよ」
俺はフウカにそう言いながら自分の頭を無造作に掻く。だが、いつもと違って髪が長いので指に絡まってしまう。それをすーと腕をのばしながら自分の髪をひっぱる。長い。落ち着いたら切ってしまおうか。
そんなことを考えていると、フウカが軽く苦笑してきた。
「オリセントはそんなこと要求しないと思うわ。詳しくは後できちんと話するけれど彼は、ハヤトが生まれてくるのを100年以上待ち望んでいたからね」
100年?
「なんで?」
思ったことがすんなりと口にでる。100年って長すぎだろう。
「あなたが守護の神だから。自覚はまだないだろうけどね」
「な~るほどね。と言ってもよくわからないけど」
守護の神ね~。さっきも言われたっけ?
俺は乾いた笑いをしながら頷く。詳しく話聞かないとよくわからないことだし、今その話をフウカがする雰囲気もないのでとりあえず流すことにした。あとで説明してくれるだろう。
しばらくするとフウカのそばの空間がゆがんで、最初にフウカを抱いていた黒髪の大柄な青年が姿を現わした。
テレポートは2度目なのでそれほど驚かずにいられたが、ひどくどういう仕組みなのか気になる。
俺は現れた彼をじっと見た。すこし強面だが十分顔は整っているだろう。だが、さすがに戦神とだけあって軍人のような威圧感は半端ではない。フウカと同じく色違いの赤と青の瞳はとても力強くて、印象的である。
よくこんな人がフウカの恋人になったもんだな。
ついそう思ってしまう。
彼のほうをじっと見ていると、強面の顔をすこし緩ませて俺のほうにすっと片手を差し出してきた。笑うと意外にも表情が柔らかくなった。
「戦を司っているオリセントだ。いろいろと思うこともあるだろうが、まずは歓迎させてくれ」
そう言われておそるおそる手を伸ばして彼と握手する。自分の手が身体に合わせて小さくなったからもあるだろうが握られた手はかなり大きい。
「えっと・・ハヤトです。正直どう言ったらいいか分からないですけど、よろしくおねがいします」
とりあえず名前を名乗ることにした。
中途半端ですが長くなるのでここで切らせてください。