2.なんじゃこら~!
姉の件も事情が分かって1ヶ月近く経った。俺は姿を現さないってことはあちらに無事帰れたんだと思うことにした。
「たよりがないのは、いいたよりって言うしな」
俺は部屋でベッドに寝そべりながらそうつぶやいた。そろそろ日が変わるころだ。寝ないと明日の仕事にひっかかるな。
そう思って目を閉じることにした。まさかそれが地球での最後の風景になるとは知らずに。
異変に気がついたのは、自分の身体の周りに風を感じたからだ。
部屋で寝ていたはずなのに、なぜ外のような風を感じる?
そう思って目をあけると見渡す限りの草原が広がっていた。
ここ、どこだ?
ありえない状態を目にして、事態を把握すべく辺りを見渡す。
そこに一組の男女が抱き合っていた。いや、正確には男性が女性を横抱きに支えているようだ。二人ともこちらを見ているのだが、二人の容貌がとても派手なので驚く。不思議な事に二人とも瞳の色が左右ちがいだ。大柄な男性の瞳は深紅色と青色で、髪は短く黒だ。その彼に抱かれている少女といったほうがよさそうな女性の瞳は金色とうす紫色で、長い髪は白金色である。とここで、女性のその瞳に見覚えがあることを思い出す。
「もしかして・・・・あねき?」
そうだ。あの姿は間違えなく1ヶ月前玄関に現れた変わり果てた姉貴の姿だ。あの容姿を間違えるわけがない。
だが、少女は信じられないとばかりに目を大きく見開いてこちらを凝視している。
「姉貴だよね?」
確認の意味でもう一度聞きながら、彼らのそばにゆっくりと歩み寄る。
「は・・・隼人?」
少女の口から俺の名前が出る。やはり姉貴だ。顔を強張らせたまま、姉貴は支えてもらってた大柄の男から離れて俺の腕に手をのばしてくる。
「なんとか、神の国とやらに戻れたんだな。よかったよかった。心配してたんだよ」
姉が無事、言ってた神の国に帰れたんだと知って安堵する。と同時に姉貴が俺を掴んでいることに違和感をおぼえた。前は触れなかったのに、なぜ今は掴めるのだ?
「あれ?姉貴触れることができるようになったんだ。なんで?」
そう言いながら俺は逆に姉貴の腕を掴み返した。俺も少女に触れることができた。
あーなるほど。これは夢か。
「もしかしてここは夢?わざわざ姉貴、俺の夢の中に会いにきてくれたのか?律儀だな~」
確かに心配していたので、こうして教えてもらったら安心する。よかった、よかった。
そう思って何度も頷いていると、目の前の姉貴である少女が真っ青な顔して、いきなり突飛な行動に出た。
「隼人!ごめん!」
その掛け声とともに俺の胸をむきゅっと掴む。
「な!いきなりなにすんだよ!姉貴」
俺はあまりにいきなりの行動にびっくりして慌てふためいたように姉貴の手を払いのけた。
お前は痴女か!
むきゅっとなったぞ、むきゅっと・・・。
「ってあれ?」
なぜ、平べったい俺の胸がむきゅっとなるんだ?
おそるおそる視線を姉の顔から下げていく。頭を地面が見えるぐらい下げた時に、俺はパジャマの隙間から見える谷間を目撃してしまった。
「・・・・」
考えるより先にそっと両手で胸を触る。むぎゅっとたしかなふくらみの感触、それは手からだけでなく自分の胸からも感じていた。25年間生きてきて初めて味わう感触。
「なんじゃこら~!!」
俺は自分が出せるだろう最大ボリュームの叫びを出した。叫んだ内容が深夜番組で見た昔の映画から好きになった俳優の名セリフになってしまったのにも、一度言ってみたかったからか?
叫んだと同時に目の前が真っ暗になる。
俺は考えることを放棄した。
ここは?白い天井が見える。一瞬病院かと思ったが、目の前で俺を見つめている少女を見て違うことを悟った。いっきに悪夢のような先ほどの出来事を思い出す。姉である少女はまだこちらが目を覚ましたことに気がついていないようで大きなため息を何度も付いていた。そしてぼつりとつぶやく。
「私の子として生まれちゃったこともショックだよね」
はい?私の子?つまりは・・・
「姉貴の子?」
いつのまにそういう事になっているんだ。っとそれより自分のことだ。
掛布の中で自分の身体を触る。やはり柔らかい感触がある。
「ああー。やっぱ夢おちってわけでなかったか」
そうであろうと姉の姿を見てから想像はできていたが、自分自身の手で確認するとよけいにへこむ。
「勘弁してくれ~。こんな奇想天外なことってあるか~」
俺は思わず情けない声で嘆きながらベッドの上で掛布を頭から被って身体を丸めている。
そのつもりはなかったのに、そうすることで自分の身体がはっきりと見えてしまった。パジャマからはみ出る白い胸。
こんなのありかよ!
しばらくの間そのカッコのまま俺は固まっていた。
姉は何も言わずに俺の頭を布の上からなでてくれている。姉としても俺の状態にとまどっているのだろうし、俺が落ち着くのを待ってくれているのだろう。
俺は大きく深呼吸してから掛布から顔を出した。身体を見たくないので、顔だけ出す形だ。
そうして、姉に意を決して事情を聞くためにこう言った。
「姉貴!事情説明頼む!」
姉はその言葉を受けて真剣な顔つきで想像を絶する説明をし始めた。
「あのね。隼人。わかっていると思うけど、ここは前に話してた異世界の神の国なの」
出始めはこんな感じで話がはじまった。