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1.消えた姉貴

 これは『女神の憂鬱』の守護神のお話です。あらすじ程度には話を入れますし、単品でも楽しめるようにしたいと思いますが、できれば女神の憂鬱のほうをざっとでも目を通してから読んだほうが話が通じると思われます。

 話がかぶっている部分が大いにありますので。

「はぁ~」


 俺は大きなため息をひとつ吐く。


「どうしたの?隼人。またいもしない姉さんのお話?」


 ご飯を食べながらため息をついてしまった俺が悪いのだが、そんな俺に母は容赦なく責めてくる。


「いいよ。どうせ俺の妄想だって言うんだろうし。もう話しないよ」


 そう言うとまったく信じようとしない母のいるこの食卓から離れたくて、流し込むように夕飯を食べて自分の部屋にあがる。

 3週間前から俺の姉が忽然と消えた。

 行方不明とか失踪とかではない。文字通り存在すら消えたのだ。近所や姉の同級生はおろか親ですらその存在を忘れている。家中をひっくり返して姉がいたという痕跡を探したが写真一枚出てこない。

 3年前に最後に温泉へ家族旅行した写真は、4人で写ったはずなのにうすら寒いことに両親と俺だけになっている。

 そもそもその温泉自体、姉が企画してめんどくさがる俺をひっぱって実現したものだ。20を超えた男が健康な両親と3人で温泉旅行など理由もなしに行くわけがないだろう。


「何が起こったんだよ、姉貴」


 俺はベッドで横になりながら思わずそうつぶやく。   

 風香という名前の5歳上の姉。けっこう整ってはいたがなぜか目立たず地味な顔立ちだった。性格も生真面目で基本的に目立つことをしたがらないくせに、たまに考えなしに無茶な事をしでかすところがあった。

 寝起きがかなり悪くてボーとしているのでよく世話を焼いていた覚えがある。たしかいなくなったのは三十路になったぐらいのころだ。

 ここまでいろいろな記憶があるのだ。その存在自体が無かったはずがない。

 だが、自分以外がまったく覚えてないことに、もしかしたら俺の記憶が間違っているのかという気にさせる。

 1週間目は周りにも聞いたりして、必死に風香の存在を探し求めた。

 2週間目はそんな俺に対して疑惑の目を周りが持つようになったのを気がついて、黙って探すことにした。

 そして今週、探しても見つからない事実に本当に俺の頭がおかしくなったのかと思うようになっていた。

 しかし、1ヶ月を過ぎた時に玄関に思いがけない姿を俺は見て、そのおかしな現象の真相を知ることになる。



 社会人3年目。25歳になるが姉のこともあって、恋人と自然消滅をしてしまったので悲しい独り身だ。それほどお互いに愛情がなかったからそうなったことに未練はない。

 だから仕事を終えるとさっさと帰宅するのが日課になっていた。飲み歩くには懐が寒すぎる。家でPCを触ったりするほうが無駄遣いもしないで済む。

 そう思って家の前まで帰ると、見たこともないような少女が家の玄関のドアにたたずんでいた。

 腰まである美しい白髪。いや、白髪でなく金色が混ざっているので白金か。

 後ろ姿だがその身体付きはモデルでも、めったにいないほど均整のとれた身体だとわかる。

 なんだ?こんな子がうちに何の用があるんだ?


「だれ?うちの家になにか用?」


 そう思って声をかけると、彼女はびくっと身体を震わせながらこちらを振り返る。

 うわ~すごい美少女。それに色がすげえ。

 今まで見た中でダントツに一位と言えるほど整った顔立ちをしている。少したれ目な大きな瞳は金と薄紫の色違いである。オッドアイというやつだ。初めて見る。その瞼からでる長いまつ毛はくりんとカールされていて人形のようだ。

 唇も形よくふっくらしていて、その口から可愛らしい呼び声が聞こえてくる。


「隼人!」


 え?あれ?

 なんで俺の名前を呼んでいるんだ?


「え?君はだれ?」


 思わずそう聞いてしまう。こんな目立つ知り合いはいないと断言できる。わずかにあった程度の仲というか町で見かけただけでも、この容姿を忘れることはできないだろう。

 しかし予想外の答えが彼女の口から飛び出した。


「お姉ちゃんがわからないの?何寝ぼけているのよ~」


 はい?

 おねえさん?

 まじまじと少女の顔を凝視する。

 痴漢と言われてもおかしくないぐらい顔を近づけてみる。まったく印象はちがっているけれど、そう言われてみればなんとなく素材は姉貴の顔立ちだ。恐ろしいほど若く派手な作りの上に、峰不二子みたいな身体付きになっているのだが。


「・・・・もしかして姉貴?」


 おそるおそる聞いてみると、何を今更というように呆れた表情を見せる。その表情はなによりも姉貴と同じものだ。

 やはり俺には姉がいたのだ。

 その事実に自分の気が狂ったわけではないことに安堵する。その存在を確かめたくて目の前の少女に手を伸ばすが、触れることもできずに彼女の身体を通り抜ける。


「ゆ、幽霊になっちゃったのか姿も映らないし、ドアに触れることもできないのよ・・・」


 その事実に絶句してると姉と名乗る少女は、心底困っているというように悲しそうにそうつぶやいた。

 事情を聞きたいがこの玄関で聞くわけにはいかない。少女の姿をもしほかの人が見えても、噂になるだろう。しかし、おそらく俺以外に見える人がいないのではないかと、直感的に思う。記憶も俺しか残ってないからだ。そうなると俺は誰もいないところで、一人で話している頭おかしい奴になってしまう。ただでさえ妄想癖がでてきたと思われてそうなのに、こんなところを見られたら精神科に連行されそうだ。


「・・・・・と、とりあえず入って俺の部屋で話そう」



 そう言って玄関の扉を開いて少女を中に促がす。

 姉もどきの少女はその部屋を見てはっと息を飲む。姉の存在があったときは玄関の入り口にはたくさんの姉のつくったオブジェが飾られていた。それが一晩で消え去ったのだ。やはり彼女は姉かもしれない。少なくても姉の精神を宿っているのだろうと思う。

 なんとも悲しそうな表情で母を見ている姉を2階に促しながら、自分の部屋に連れて行った。

 少女・・・いや姉に事情を聞くことにした。



 ぼつりぼつりと事情を説明してくれる。

 いきなり部屋にブラックフォールのようなものが出てきて、気が付いたら異世界にいた。さらに姿形も変化していた。

 で、人に会えたら神殿に連れていかれて、そこが神の国で癒しの女神だと言われたと。

 人間の記憶があるのは異例なのでトップの神に消されそうになったけど、なんとかこのままでいさせてもらうことになった。

 帰ることもできないし女神として修業のようなものをしてたら、ある神に記憶を消されてしまった。

 なぜか気が付いたらこの実家の近くの駅にいて歩いてこの家に帰ってきたと。



 どこかの小説の内容にしか思えない。しかし、姉の変わり果てたこの姿がそれが事実であることを告げている。話がでかすぎて思わずため息が口からでる。

 そうすると、姉は悲しそうな表情で聞いてくる。


「し、信じられないでしょう。私でも夢だとしか思えないもん・・・」


 そう言うので外見について突っ込むと、姉は髪の毛をつまみながら姿が変わっていることに今更ながら驚嘆している。

 可哀そうだと思うが事実を彼女も受け止めないと話が進まないだろう。

 とどめとばかりに姉の姿が消えてしまった写真を彼女に見せる。


「1ヶ月前からいきなりそうなったんだ。お袋に姉貴のこと聞いても笑って本気にしてくれないしな。正直、周りがあまりにも普通に姉貴をいないものとしてるから、俺が気が狂ったのかと思っていたぜ」 


 そう俺は言うが写真を凝視していてまったく聞いてない感じだ。

 姉はしばらくは驚きで顔が固まっていたが、やがて諦めたかのような苦笑いの表情に代わる。


「フフ。そっか。私って消えるしかなかったんだ・・・こっちでもあっちでも・・・」


 続いて消え去るのが運命であるようなことを言う姉に叱咤する。  


「それは俺も分からねえよ。でも簡単に、諦めるなよ。まだ姉貴はいるんだろ?触れなくても俺には見えている。姿は違うけど姉貴ってすぐに認めたぞ。だからこちらでもあちらでもいいから、生き永らえる方法考えろよ。向こうで記憶消してくれって言われたわけでないんだろ?」


 姉は俺の言葉を聞いてしばらく考えたあと無理かもしれないけど、一度あちらに帰ってみると言い残してそのまま姿を消していった。


「しかし・・・なんで俺だけ覚えていて姿が見えるんだ?」


 シスコンでもないがそれなりに仲がよかった姉に対して、自分も記憶がなくなればよかったのにと薄情な事は思えない。しかしなぜ自分だけが残っているのかまったくわからない。


「どうせなら姉貴も最愛の男とかに覚えてもらっていればよかったのにな。まあいないんだろうけど」


 そう言いながらこの不可思議な出来事は、自分の胸にだけしまいこむことにする。誰かに言っても仕方ないからだ。

 しかし、俺だけが記憶を残されていた理由は、それから約1ヶ月後に自分にとっては本当に不本意な形で知らされることになった。

 初めての方も、女神の憂鬱からお付き合いある方もよろしくお願いします。

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