08.誘い
「この後空いてる?タメのよしみで飲みに行かない?」
そうお誘いをかけられたのは、珍しく定時に上がれた週末の金曜日。
「いいですね、何処に行きます?」
そのまま家に帰る気にもなれず、行きつけにしたいバーでも探してみようかと考えていた時の事だった為、ありがたくそのお誘いに乗る返事を出した。
「よかった、断られたらどうしようかと思った(笑)あ、行ってみたい所があるんだ、新宿の方でも平気?」
日焼けしたその顔に爽やかな笑みを浮かべるのは、同期の坂井さん。
若干席が遠い事と、関わっているプロジェクトが違っていた為、余り親しく話した記憶はないが、同期で飲んだ時の事や、普段目にする態度を見る限り、取っつき難いイメージはない人だ。
「大丈夫です、何のお店ですか?」
「あ、仕事も終わったし、こっからはプライベートだろ?って事で、敬語なしね」
「え、あ、はい、わかりまs…っと、了解」
ついつい癖で敬語を使いそうになったら、坂井さんがジト目でこちらを流し見るので、言葉半ばで言い換えると、こちらを見てニッコリと笑う。
「お店は俺も良く知らないんだけど、ダチに勧められたんだ。そういえば最近冴島と仲良いんだって?」
「そりゃ、プロジェクトも一緒だし、ほぼ一緒に仕事してるし、仲良くもなるでしょ」
「へぇ~、それだけ?」
そこまで言ってから言葉を切ると、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「休日も遊びに行ってるらしいじゃん。付き合ってんの?」
「じゃ、坂井さんは休日一緒に遊んでたら付き合ってる事になるんだ?」
お返しとばかりに、そう言ってニヤニヤしながら彼を見ると、少し驚いたような顔をしてから、諸手を上げて降参
「――…いや、ならないね。違うのかぁ…って、呼び捨てでいいよ、さん付けいらない」
「んじゃ私も呼び捨てで。で、誰から聞いたの?」
「いや誰からも。こないだ俺が見かけただけ」
「へぇ~、声掛けてくれたらよかったのに」
「馬に蹴られるよーな事はしない主義なんで」
「別に蹴らないと思うけど…」
何度も遊びに行っているのは、冴島との関係にそういう感情はないだろうと踏んでの事だ。
そういう感情がないからこそ、気楽に東京案内を頼んでいるとも言える。
「ま、これは俺の勘だし?まぁ伊藤はそのつもりなしって事か(笑)」
「別に冴島もタイプじゃないと思うけど…」
「冴島ってタイプじゃねーの?」
「んータイプ…ねぇ…そんな風に考えた事ないし…」
「じゃ、どういう奴がタイプなんだ?」
「ん~、好きになった人がタイプ?」
「それじゃわからないって(笑)」
「そう言われてもなぁ…」
過去に付き合った3人を交互に脳内に呼び出すが、共通点らしい共通点を拾う事が出来なかった。
そんな話をしながら促されるまま歩き、促されるまま電車に乗り、促されるまま電車を降り、「あ、ここだ」と言われ視線を向けたそのお店は、言われなければ気付かないぐらい飾り気のない面構えだった。
ギリギリ。。。orz
今週なんかいろんなことがあって、精神的に参ってます。
…付き合うってなんだろうなぁ~。。。←恋愛小説を書いてる人にあるまじきつぶやき。