06.菊池茉莉
食事の後片付けまで終えて風呂に入り、Tシャツ&ジャージ姿にバスタオルを頭に巻いたままの格好でテーブルの前につくと、スタンバイにしていたネットブックを起動する。
ブラウザを立ち上げると大手SNSの一つであるMIXIを開き、友人達の更新を確認して、気が向けばコメントを書く。
マイミクシィと呼ばれるMIXI内の友達の人数が、これといって多い訳ではないので、そんなに時間は掛からない。
そんな事をしている時、ベッド脇で充電していた携帯電話がメールの受信を告げる。
送信者には≪菊池茉莉≫と表示されている。
それは、同時に入社した地元の同期からだった。
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TO:伊藤美優
FROM:菊池茉莉
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やっほぉ~☆
元気してる?
仕事どぉ?
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茉莉らしい文面に自然と顔に笑みが浮かぶ。
慣れた仕草で返信画面を表示させ、文面を打つ。
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TO:菊池茉莉
FROM:伊藤美優
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おひさし~☆
もちろん元気だよー!
そっちはどーよ?
仕事はやっと慣れた感じ
かな☆
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送信完了の文字から数分と置かず、再度携帯がメールの受信を告げる。
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TO:伊藤美優
FROM:菊池茉莉
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もちろん元気♪
そっか。
で?
彼氏出来たー?
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茉莉の文面に知らず、苦笑を浮かべる。
何故なら、茉莉は私がまだ『彼』を引き摺っている事を知っているから。
彼の後、何度か告白もされたし、気になった人もいたが、どうしても付き合いたいという気持ちになれなかった。
それを茉莉が一番心配してくれているのも、私は知っていたから。
休日に呼び出しては、「男の傷は男で癒すんだよ!」と言って、至る所に連れまわしてくれた。
ま、実を結ぶ事はなかったんだけど…。
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TO:菊池茉莉
FROM:伊藤美優
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なんでそうなるのよ(笑)
まだ越してきて一月ちょ
いだよ?
あるわけないし☆
そっちこそ、上手くいっ
てるの?
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私が引っ越し準備に追われている最中、茉莉から彼氏が出来たと報告された事は、まだ記憶に新しい。
私もその人と面識があり、私とタメの茉莉よりも二つ年上で、優しそうでゆったりとした口調で話す、大人な人だったと思う。
きっとラブラブなんだろうなぁ~と思っていたので、茉莉から返ってきた次のメールに驚愕する事になった。
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TO:伊藤美優
FROM:菊池茉莉
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いや~だってさ、環境ガ
ラっと変われば気持ちも
変わって、人恋しくなっ
たりするじゃない?♪
あ~…私は…その…また
…別れちゃった(笑)
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これは、「えぇ~!?」って声を出さなかった私を褒めてあげてもいいと思う。
まあメールで百面相してる自分は、傍から見ればかなり変な人になっているんだろうと思うが…、自宅なのだから気にしなくていいだろう。
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TO:菊池茉莉
FROM:伊藤美優
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ないから(笑)
え~!?
あんなラブラブだったの
に!?
また別れたの!?!?
なんで!?
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返信が早く読みたくて返信を待つと、携帯がメール受信ではなく、着信を告げる。
ディスプレイを見ると≪菊池茉莉≫となっているから、きっとメールで書くのがめんどくさくなったんだろう。
「茉莉?」
茉莉からの着信である事は分かっているのに、確認するように名前を呼んでしまうのは、もう電話を出るうえでの癖のようなものだろうか。
「だってさぁ~、ちょっと聞いてよ!美優!」
「聞く、ちゃんと聞くから。で?どしたん?」
茉莉のテンションは考えていたよりもずっと高く、今回のメールは私の近状を知りたかったというよりは、きっとこの愚痴を言いたかったんだろうな~と思い当たる。
「アイツ、私に隠し事してたんだよ!?」
「隠し事?」
「そう!子供が居たの、コ・ド・モ!!普通隠す!?」
「…え?こども?」
「そうよ!つまりバツイチ子持ちだったわけ!」
「それホントなの?」
「私も勘違いかなぁ~って思って、本人に確認取ったら、これがマジなのよ」
「なんで知ったの?」
「急に行って驚かせてやろーっと思ったら、家に居たのよ。子供が」
つまり、――バツイチ子持ちだったから別れたのだろうか…?――と素朴な疑問をぶつけてみる。
「まさか!だって相手が私じゃなくたって、アイツの子である事は確かでしょ?そんなの気にしないわ、ただ、隠されてた事がむかつくの!!!」
確かに人を好きになれば気にならないかもしれないけど…、そこまで言い切っちゃう所がやっぱり茉莉らしいと思う。
私なら、理性では理解出来ても…やっぱり感情的には納得出来ないだろうから。
「彼氏はなんて言ってたん?」
「折を見て話すつもりだったって。そんなのフェアじゃなくない!?」
「ん~確かにアンフェアだけど…でもいいの?」
「…」
「茉莉?」
「…だって…」
茉莉は悩んでるんだと直感的に思った。
隠していた事を許す気にはならない。
だから別れたけど…。
「まだ――好きなんでしょ?」
「…ぅん」
「それでいいの?ちゃんと話し合った?」
「…」
「別にそのまま終わって茉莉がいいならいいの。でも、嫌だと思うなら自分で動かないと…彼は連絡しづらいんじゃないかな?」
「…」
冷静になりきれていない所を見ると、まだ考える時間が必要なんだろう。
「茉莉?相談には乗るから、しっかり考えて答え出して。後悔しないように」
そう、――私のように後悔しても遅いんだから――そんな気持ちを込めた言葉に、「うん」と頷くと、どちらからともなく電話を切った。
今日は2話更新しました☆
ノリノリの時は執筆早い物ですね!
ではまた次回。
誤字・脱字・矛盾があったら知らせて頂けると嬉しいです。