02.異動
「本日より、こちらへ配属になりました伊藤美優です。宜しくお願い致します」
挨拶を終え、頭を下げた途端に、至る所から拍手が聞こえる。
私が頭を上げると、その横に立つ人が同じような挨拶をし、頭を下げていく。
どの会社に入っても割合よく見かける光景だ。
今回、この日本橋本店に異動になったのは私を含めて6名、その内訳は女1人・男5人である。
私の属するIT業界としては、さして珍しい事でもないが、正直1人ぐらい同性が居てくれると良かったなと思ってしまうのは、まぁ…仕方ないと思う。
この業界に入って既に5年目だし、もともと男兄弟に囲まれて育った私に、男が苦手と言う事もないが…これは多分気持ちの問題である。
そうこうしているうちに、6人全員の挨拶が終わり、新しい上司に促されて案内された席へと腰を下ろす。
座席としては、今回異動になった6人が3人ずつ向かい合わせになっている中の端の席だ。
これは左右に異性という状況にならないように配慮してもらったからなのかもしれない。
私達6人の本日の作業は、自席の上にあるパソコンの初設定という話だ。
ちなみに机の上にあるのは、『箱詰めされたパソコン一式』である。
ご丁寧に箱の上にLANケーブルが置かれている所を見ると、本当に初期からの設定になるようだ。
そして手元に渡されたプリントには、社内ネットワークに繋げる為の情報や、インストールすべきソフトの一覧、社内のドメイン認証を行う為の情報、後はメールアカウント情報などが記載されている。
三日間パソコンの設定をするなど、時間の無駄と思わないでもないが、もともと縦横のコミュニケーションを重視するという会社の方針を考えると、多分この間に打ち解けろという事なのだろう。
私はスーツの上着を脱いで椅子に掛けると、机に乗せられた箱を抱えて一つずつ床に下ろしていく。
それはただでさえ身長の低い私に、机の上での開封作業は無理があるからだ。
既に机の上で開封を行っていた左隣の――確か冴島さんがこちらに気付いて顔を向ける。
「あ、手伝おうか?」
「いえ、このぐらいなら平気です。無理そうになったらお願いしてもいいですか?」
「ん、了解。俺、冴島、宜しくな」
「伊藤です。こちらこそ宜しくお願いします」
お互い失礼だとは分かっているが、手は動かしたまま、眼だけを相手に向けての会話だった。
箱だししたディスプレイを机に置いて、パソコンの本体を取り出しに掛かりながら、再度隣から声が掛かる。
「俺営業からだから足引っ張ると思うんだけど、聞いてもいいかな?」
「私で分かる事なら」
その質問に、私は彼に対する好感度を上げた。
この理由は、きっと分かる人には分かって貰えると思う。
しかしこの反応は、自分からは動かない、受身しかしない同期にイライラした記憶が、まだ私の中で新しいからなのかもしれないが…。
そんな事を考えながらも、身体は動き、順調に作業を進めていく。
パソコンのセッティングというと難しく考える人が多いが、ハードウェア――機械設備や機器。ソフトウェア(情報・理論など)に対し、有形のものの事を指す――に関してはそれほど難しい物ではない。
電源ケーブル、マウス、キーボード、ディスプレイ(モニタ)、LANケーブルなど、繋ぐケーブル類は意外と少ないのだ。
全てのセッティングを終え、机と机の間に設置された電源タップにコンセントを差し込むと、パソコンの電源を立ち上げる。
パソコンが立ち上がるのを待っている間に他の5人を見ると、大体全員がパソコンの立ち上げを行っているらしい。
冴島さんも、本社技術部へ異動になるだけあって、もともとパソコンには触れて居たのであろう、困っている様子はなかった。
ソフトのインストールを後回しにし、面倒な初期設定を進めていく。
やる事自体は簡単なのだが、それぞれの作業の合間合間で時間が掛かる為、メールのアカウント設定を行うのは昼食を挟んだ昼過ぎになっていた。
先輩に誘われて昼食を食べ、午後になってからメールのアカウント設定を行うと、新規未読メッセージが2件あると表示される。
片方は上司からで、翌日に行われる親睦会のお知らせ。
そしてもう片方は隣の冴島さんからで、今日同期で飲みに行こうというお誘いメールだった。
さすが元営業というかなんというか、なんだか少しらし過ぎて笑ってしまった。
どちらのメールにも参加の旨を連絡し、Windowsの更新やらソフトのインストールをいくつか終えた頃には、既に定時を回ろうとしていた。
なんか数年使わないうちにサイト内がかなり変わっているんですねぇ…(-_-;)
難しい。。。
そういえば、異動した時期が同じ人も『同期』って言うんですかね??
言い方違ったら教えて頂けると嬉しいです。
誤字脱字見つけましたらコッソリ報告お願いします。