16.傷付きたくない
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「で?」
「へ?」
唐突に坂井が話を振るから、何の事を言われたのか分からず呆けてしまったのは、まぁ…しょうがない事だと思う。
「『へ?』じゃないだろ?どうすんの?」
「…?何が?」
「まだ好きなんだろう?今のままじゃ前に進めないんじゃねーの?」
そこまで言われてやっと、坂井が何を言いたいのかが分かった私は、ちょっと鈍いのかもしれない。
「――そうかもしれないけど…もう終わった事だよ」
会いたいと思う気持ちと、会いたくないと思う気持ち。
諦めようと思う気持ちと、諦められないと思う気持ち。
鬩ぎ合い、葛藤する想い。
「あのなぁ…相手は知らないけど、少なくても伊藤の中では終わってないだろう?連絡とか取れねーの?ハッキリしとかないと引き摺るだろ?」
「――連絡先とか、消しちゃったし…」
これは本当だった。
電話も、メールも、何一つ相手に連絡を取れる手段を残さなかったから。
ただ――一つだけ。
「住んでる場所とかは?」
「――引っ越してなければ…」
あの日――地図を見ながら歩いた道だけは、そんなに入り組んだ場所でもなかったから、多分方向音痴の私であっても行く事が出来るだろう。
引っ越して来てから、何度か行こうとして…そして…止めた場所。
「遠いの?」
「…ううん。県内だから」
会える距離に、彼が居る。
それがどれほど私の感情を揺らしているか。
訪ねてみて、彼が引っ越して居るのを確認したら、きっとこの気持ちも収まるんだろうと思う私と、彼との繋がりが何も無くなる事に恐怖を抱く私。
此処でも私の中にある2つの気持ちが葛藤を起こす。
時間は傷を癒すと言うけれど、私の傷はまだ膿んだまま…。
「会いに行こうと思った事がない訳じゃない。でも、どうしても…怖くて――行けない…」
――怖い――、彼がまだそこに住んでいると知ることが…。
――怖い――、会って話をするかもしれない事が…。
――怖い――、あの時の真実を知ることが…。
――怖い――、もう…あんな思いはしたくないから…。
私は、もう傷付きたくないから――。
一回忘れさせた癖にまた蒸し返す坂井…ちょっと酷いなぁ…とか、ちょっと思ったり(え、酷いのは作者ですか?…まさかぁ~(笑))
美優が思う気持ちは作者的には当然かな?と思ってます。
一度傷付くと、どうしても次は傷付きたくないと思う。
それは自分を守ることだけど…しょうがないと思うんです。
誰でも傷なんて増やしたくないんですから。
進む事が怖くなる――それは傷付く事を知ってしまうからなんですよね。
さて、坂井との絡み。
今回はとりあえずここまでのつもりです。
では、また。