14.あの日
「付き合っていくうち、段々連絡を取る頻度――というよりも、彼からの連絡が少なくなっていって、その事を不安には思ってた。それでも、私は私に言い訳をしながら、あまり深く考えないようにして、自分を納得させてたの。それが出来なくなったのが、付き合って半年ちょっと経った彼の誕生日――」
今考えるなら、私は現実から逃げたかったのかもしれない。
長々と話すことで乾いた喉をお酒で潤すと、私はあまり思い出したくない記憶を掘り起こす。
「――事前に予定を聞いて、家に居る予定って事だったから、その日私はプレゼントを持って彼に会いに行ったの。家の住所は知ってたから、驚かせてやろうって思って地図を見ながら家まで行ったわ。でも…彼はいなかった…――」
「…伊藤――辛いなら…」
――話さなくてもいいぞ――と言いたげに、坂井が心配そうに私を見ているのは、多分私の目に涙が溜まっているからだろう。
もう2年近く経ったのに、まだ…涙は枯れてないんだなと、私は人事のように思いながら、坂井に「大丈夫」と言って涙を拭う。
――あの日を思い出す。
初めて行った彼の家、その扉の前でワクワクしながらチャイムを押したけど反応はなくて、何処かに出掛けたのかと思って、連絡を取った。
いつもはメールで連絡を取るのに、あの時に限っては早く会いたいのも手伝って電話を掛けた。
それであんなことが分かるなんて、知るはずもなく…。
「――電話をしたの。長いコール音の後に彼が出て…今何処に居るのかって聞いたら、…家から出てないよって言われたわ」
「え、だって家にはいなかったんだろう?」
「うん…そう。何度もチャイム鳴らしてたからね。だから、疑問を持つのは…当然と言えば当然の成り行きで…『浮気』を疑ったわ。それ以外に場所を偽る必要は思いつかなかったから…」
そう――『疑い』のみで終わるなら、そうであって欲しかった。
「…彼の後ろから『誰からの電話~?』って、女の人の声が聞こえたの」
居場所を偽り、他の女性といる彼氏――それで確信を持たない方が可笑しいだろう。
「もう一度だけ聞いたわ。何処にいるのかって。そしたら自宅だって言ってるだろって」
欲しかった言葉は…彼からは貰えなかった。
「…じゃぁ開けてよって言ったら、「え?」って驚いてたよ。だから言ってあげたの。今玄関に居るんだけど家の中に居るんだったら、すぐに開けられるよねって…」
当時を思い出すと、溢れてくる涙はその勢いを増し、どうしても止まらない。
「…あとは、何か言おうとしてるの遮って、別れるって言い放ち、その場から逃げるように、泣きながら新幹線乗り込んで…それっきり」
「――それっきりって…連絡して来なかったのか?」
「さぁ?分かんない」
「分かんないって…」
「電話もメールも拒否してたから、あったかもしれないけど…私は知らないんだ。あの時、例え何か言われたとしても…もう信じられないと思ったし――何も聞きたくなかったから」
何も、知りたくなかった。
もしかしたらあれは勘違いだったのかもしれない。
早とちりだったのかもしれない。
――それでも…『真実』がいつも優しいとは限らないから。
「――私は…逃げたの、彼から。向き合う事もせずに…ね」
卑怯と言われても仕方のない事を…私はした――その自覚はある。
「それなのに…好きなんて…言っちゃいけないよね」
「……伊藤…」
「――…馬鹿みたいだよね。自分から離れて置きながら…。――でも…、それでも――」
さっき、私はもうひとつ気付いた事がある。
本当なら嫌っていて当然の彼に、どうして会いたいと思うのか。
何故彼に会いたいと思っている事に疑問を抱かなかったか…。
どうしようもないぐらい、大きくなって、吐き出す事も出来ずに、堪りに堪った想い。
「――好き…なの…」
押し込み、蓋をし、見ないふりをして来た――本心。
でも、気付いてしまったから――もう、見ないふりは出来ない。
さて。
美優の言う『あの日』が明らかになりました。
こんな展開ありえねーよ!
っていう意見は…さすがに作者こういう経験はないので…(-_-;)
突っ込みどころあったら教えてください。
っていうか、これ読む限り春光ヤな奴だよねー。
…ま、しゃーないか。
春光…いつ登場するんだろう…。
そういえば。
何故か冴島よりも坂井の方が美優に近付いちゃいました。
冴島…気持ち出てないけど――ピンチ??
もう少し坂井との会話は続きます。(多分)
では来週☆