01.思い出
「…ミユ?」
「…ハル?」
確認するように呟いたのは同時で。
私は遠慮がちに見上げていた目を真っ直ぐに目の前の青年に向ける。
彼もその表情に安堵の色を浮かべ、真っ直ぐに私を見る。
『初めましてだ(ね/な)!』
そういって、同時に同じ言葉を呟いた私達は、お互いの顔を見て噴き出すように笑いあった。
「…まさか勤務地が此処になるなんてなぁ…」
昔ながらの煉瓦造りの駅を見て、私は感傷に浸っていた。
そして外観は残っているが、内部は最近工事が終わり、真新しく近代的な作りになっている事を思い出し、過ぎ去った時間を感じて切なくなる。
約7時間の道のり中新幹線内で座りっぱなしだった私は、身体を動かす事に餓えて、思い出も残るこの駅の改札を抜けたのである。
私がおぼろげな記憶を頼りに構内を歩いて行くと、広々とした出入口の近くに、探していた某コーヒーショップの看板を発見する。
「…私もちゃんと覚えてるじゃない♪」
それは、昔、この駅に来るたびに連れて行って貰った思い出の場所で、もしもまた東京に来た時は、毎回立ち寄ろうと2年程前に決めた場所でもある。
私は店内に入って注文を済まし、オレンジ色のランプの下で商品を受け取ると、出入口を見渡す事が出来るカウンターに腰を下ろす。
緑のストローに口を付け吸い上げると、冷たくて甘い味が口の中に広がっていく。
不意に、この場所に私一人で居る事に違和感を感じ、昔の優しい記憶が蘇っては消えていく。
「――もう、2年も…経ったんだな…」
泣きながら新幹線に飛び乗った事を思い出し、優しくない記憶に眉を顰めるが、今その顔に気付く人はここには居ない。
それは、一番忘れたい思い出であり、そして同時に一番忘れたくない思い出でもある。
彼女に対してその記憶だけが、彼女の中に矛盾した感情を湧きあがらせる唯一のモノ。
――会いたい。
けれど、会いたくない。
だけど、会いたい。
まるで違う二つの感情が彼女の中で渦を巻いている。
「――ま、会えるわけないか」
彼女はそう結論付けると、片手でストローを持ち、緑のシェイクと生クリームを混ぜ合わせる。
割り切る事の出来ない自分の心境を表しているかのように白く濁ったそれを、音を立てずに飲み干すと、彼女は席を立つ。
その瞳に、先ほどまでの感傷的な気持ちは何処にも見当たらなかった。
久しぶりに連載を初めてみます。
最後まで書きあげられたらいいな…っと。