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勇者ガチャでノーマル勇者の私がおっさん勇者とロリババア勇者とともに、闇落ちしたSSRレジェンド勇者を成敗する!

作者: 黒木菫
掲載日:2026/06/28

序章-私は卵から生まれた勇者らしい。


気がつくと、私は卵の中にいた。


(どういうこと?)


学校から帰る途中だったはず。

誘拐でもされたのだろうか。

しかしそれにしては様子がおかしい。

目の前は真っ暗だが、体の自由はある。

触れてみると、つるつるした曲面だ。

どうやら卵のような球体の中に閉じ込められているらしい。

外に人の気配がする。


「ちょっと!出しなさいよ!」


思い切って壁を叩く。


パリ。


「え?」


予想に反して、壁はいとも簡単に割れた。

それこそまるで卵の殻のように。


(いける!)


(だったら。)


もう一度、殻をたたく。


パリン。


いとも簡単に割れる。


「よし!」


卵を砕いて、外に出る。

そこには想像を超えた光景が広がっていた。


卵がそこかしこに並んでいる。

そしてそこから次々と人が出てきていた。

みんな私と同じように、状況を飲み込めないでいる。


自分の出てきた球体をみる。


黒い卵。


まわりを見ると、虹色に輝く卵、金の卵、銀の卵、白い卵もある。


「これは…!」


まっさきに思いついたのがスマホゲームのガチャ。

まさか私はゲームの中に転移してしまったのか!


まわりを見ると、男性や女性、年齢は10代から50代くらいまでいる。


そして一人のとがった耳の召喚士らしき人物が話しかけてくる。


「みなさん。驚かないで聞いてください!あなた方はこの国を救う勇者として召喚されました!」


(そうでしょうね。そうなんだろうと思っていました……。)



10人ほどの勇者と呼ばれた人物たちが召喚士のもとに集まる。


「どういうことだ!?」

「家に帰してよ!」


抗議の声があがる。


「残念ながら、帰る方法はありません。受け入れてください。」


(……⁉)


うすうす思っていたが、頭がおかしくなりそうだ。


なぜ、こんなことになってしまったんだ!

ひょっとしてドッキリで、みんなして私をからかおうとしてるんじゃなかろうか。


「しかし、こちらの世界にきた皆さんには素晴らしい力が宿っている可能性があります。」


そんなこと言われても何も感じない。


そう思った瞬間、召喚士の眼に光がやどったように見えた。


(この光が見えるのが私のスキルか?しかし、意味がわからない。)


召喚士はスーツにネクタイ姿の男性に声をかける。


「そこの男性、首から布を下げている方」


首から布!?


ネクタイのことだとはわかったが、妙な表現をするものだ。

「え?私?」

「そう、あなたです。思い切りその場でジャンプしてみてください。」

「え?なんで?」

「いいから思い切りです。」


スーツの男性は半信半疑のまま、思い切りジャンプする。


その場で軽く2メートル近く飛び上がった。


ドスン!


「うあ、いたたたた。」


着地に失敗したらしく、痛そうにうめく。


「ああ、いけない。回復魔法を。おい。」


召喚士が指示をすると、従者がスーツの男性に手をかざし、光があふれる。


「え?痛みがなくなった。」


男性は信じられないように自分の足をみる。


「それがスキルです。自分のスキルにはなるべく早く名前をつけることをお勧めします。本質にあっているほど、スキルは自由に扱えるようになります。私もお手伝いしましょう。」


そういうと再び、召喚士の眼が光る。


「こ、これは⁉」


召喚士が虹色の卵から出てきた若い男をみて驚愕する。


「おい、みんな、この方を鑑定してみてくれ!!」


促されるように、何人かの召喚士たちが虹色の卵の男を見る。

両手の人差し指と親指で四角をつくる者もいれば、杖の水晶を通している者もいる。


(おなじ能力でもやりかたが違うのか?)


ざわつく召喚士たち。


「し、信じられない!あなた様こそ、まさに予言の勇者に違いない!あなたのスキルは『全属性攻撃無効』——この世界のいかなる攻撃もあなたに通じないという、無敵最強のスキルです!」


「え?おれが?」


いわれた男が唖然とする。


「ええ、まちがいない!あなたが出てきたその虹色の卵はSSRレジェンド勇者の証なのです!」


ざわ——


召喚士たちから沸き起こる歓声。


(いやあ、そんなにすごい人なら、もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな。)



順番に鑑定されていく勇者たち。


「そこのゴールドの卵の方、あなたもすばらしい。」


こちらもスーツ姿の40代くらいの男性だ。

さっきまで会社帰りだったような雰囲気だ。


なかなかスマートなおっさんではあるが。


「え?オレがですか?」

「あなたは【瞬間移動】のスキルをお持ちだ!」

「瞬間移動?そんなことができるなら今すぐにでも元の世界に戻りたいよ。」


おっちゃんが肩を落とす。


「だまされたと思って、あそこまで一歩で進むつもりで歩いてみてください。」


召喚士は20メートルほど先の扉をさす。


「やれやれ、はい一…」


ゴールドのおっさんが一歩踏み出した瞬間、姿が消えた。

そして、指さした場所にまさに瞬間移動していた。


次の瞬間もどってくる。


「うそだろおおお!」


瞬間移動した本人が一番驚いていた。


「おお、あなたはブラックか、これはめずらしい!」


一人の召喚士が私を見ていった。


(え?そうなの?私も伝説の勇者?私の心にかすかな期待がうかぶ。)


「あなたは鑑定スキルをお持ちのようだ、なかなかめずらしいですぞ。」

「え?鑑定と言われても何も見えないんですが?」

「鑑定スキルは幅が広いですからね。料理のレシピが見えるものもあれば、噂ですが自律して考えて行動し、スキル自体を作り出すとんでもないものもあるそうですよ。」

「いや、料理のレシピが見えるのは便利なんですが、今は何も見えないんですが。」

「うーん、きっかけや訓練がいるタイプもありますからね。」

「えーっと、さっきブラックがめずらしいとおっしゃってましたが…」

「ええ、ノーマルの中に稀に黒いやつが出るんですよ。色違いでめずらしいんです。」


(色が違うだけかーい!いや、そういうガチャあるけど!ノーマルの中のレア枠みたいなの!)


こうして一通り勇者の鑑定がおわった。


「ご安心ください。勇者に選ばれたのはあなたがただけではありません。今までも先輩勇者はいます!」

「あのすみません。その先輩勇者たちはどうなったのでしょうか?」


私は手をあげて質問する。


「皆さんはこれから真の勇者になるためのトレーニングを受けていただきます!旅立ちはそれからです。わずかな路銀を渡して冒険に出させるなんてことはありません!」


「無視すんなあああ!」


思わず絶叫した。


その瞬間、全身を電撃が走り私はぶっ倒れる。


(こ、こいつら)


「人の話を聞かない勇者様にはお仕置きもありますので、みなさん、素直に言うことを聞いていただけると助かります。」


(オ・ノーレ!私は心の中で復讐を誓った。)


こんな理不尽にまけてなるものか。


私は必ず元の世界に帰るんだ。


第2章 レジェンド勇者、暴れる


流星魔弾シューティング・レイ


全身が黒い肌の魔族の戦士がレジェンドに魔法の矢の雨を降らせる。


流星群のような魔法の閃光が空気を切り裂きレジェンドにふりそそいだ。


「フハハハハ!そんなものは効かん!」


魔力光の中から笑い声だけが響いた。

レジェンドの周りに光のオーラが現れ、魔法の矢は届かない。


「!」


ならばと魔族の戦士は剣をレジェンドに突き立てようとする。


が、やはり届かない。


音もなく、レジェンドの胸元ではじかれる。


「レジェンドスラッシュ!」


レジェンドの剣が魔族を袈裟斬りにした。


魔族の赤い血が雨のように噴き出した。


魔族は絶命し、レジェンドの身体が返り血で赤く染まる。


(魔族も赤い血なんだ…)


「すばらしい!さすがはSSRレジェンド勇者様!」


召喚士たちがレジェンドに駆け寄る。


「しかし、この剣もすごいな。」


そういってレジェンドはもらった剣を高々と掲げる。


魔族の血でそまった剣が死んだ魔族をあざ笑うように黒く輝く。


「それは伝説の宝剣、あなたが召喚されるのを待っていたのでしょう。」


「そうか。おい、オレはもう今日の特訓はおわりだ。このあと酒と女の用意はできてるだろうな。」


「もちろんですともレジェンド。ささ、こちらへ。」


「お先にな、お前ら!おいブラック!お前もあとでオレの部屋に来い。」


そんなことをいいながらレジェンドは消えていった。


(キモイなあいつ。)


私は悪寒が走り、おもわず自分の身体を抱きしめた。


「次はお前だ!ブラック!」


呼ばれて私も闘技場に降り立つ。


「お前の相手は、ボクサモンキーだ。」


キキキキ!


鉄のように固い拳の猿の魔獣だ。

私はここ数日、こいつに苦戦している。

初日などボコボコに殴られ、顔の形がかわった。

この世界には回復魔法があったからよかったが、えらい目にあった。


左右に飛び跳ねながら近づいてくる。

そして重いフックをお見舞いしてくる。


私はそれを剣で受け止めた瞬間——


頭の中で剣にスタンガンの電流を送るイメージを作る。


電撃剣ショックソード!」


そして、剣に電撃がはしる。


キキ!


感電し、猿が気を失う。


我ながら魔法とやらが上達したものだ。

私は猿の頭の横に剣を突き立てる。


「どうした!なぜとどめを刺さない!」


教官が怒鳴る。


「もう勝負はついたからいいでしょう。」


次の瞬間——


「くあああああ!」


教官の指先から電撃がはしり、私を打ち抜いた。


「ブラック、私がその猿の仲間ならお前は死んでいたぞ。」


(ぐぬぬぬ。くそう。)


そうではあるが、この怒りとこの電流のイメージが私の魔法をさらに強化するらしい。






倒れたまま横を見ると、一人の女が戦っていた。


シルバー・マジシャン。

銀色の卵から出てきた女だ。

彼女は魔法の才能があったらしい。


爆裂イグニス!】


彼女がボクサモンキーに向かって手をかざす。


ボガァァ!


小規模な爆発がおこり、猿はこなごなに吹き飛んだ。


「みごとだなシルバー!」


教官が賞賛する。


そして、横では。


6本腕の骸骨剣士を一人の男が翻弄していた。

明らかに私が相手をした猿より格上だ。


(骸骨が生きて動いているのを見るのは慣れないね。)


瞬間移動を持つゴールド勇者。

彼は瞬間移動を繰り返す。


骸骨剣士は6本の腕を振り回すがことごとく空を切る。


そして、ゴールドは骸骨剣士の死角に回り込み、後ろから骸骨剣士の脊椎を真っ二つに切り裂いた。


「お前も見事だ。」


「いただいた剣がいいんですよ。」


そういうと、ゴールドはまだ倒れている私の前に来て手を差し出す。


「君、大丈夫か、立てるか?」


「ありがとう。大丈夫よ。」


手をとり立ち上がる。


「余計なことかもしれないが、化け物より自分を心配しろよ。」


ゴールドは私の肩をたたいて、去っていった。


「なんだ、おまえ、あんなおっさんがいいのか?」


シルバーが近づく。


「ちがうわよ。いい人だとおもうけど。」


「冗談だよ。それよりお前、あのレジェンド様によばれたじゃないか。今夜、いくのか?」


シルバーがニヤつきながら言う。


「こっちにきてからなんどもナンパされてるわよ。うっとおしい。それにあいつ、人間だけじゃなく魔物の女もとっかえひっかえみたいじゃない。」


心底きもい。


「しょうがないだろ。あいつにかてるやつなんかいねえよ。私だったらすぐにいくけどなあ。」


「冗談じゃない。」


「なんだてっきり、お前もあいつに気があるのかと…」


そう言おうとしたにやついたシルバーの顔の前に剣を突き立てる。


「あんたの爆裂イグニスより私の剣のほうが早いと思うけど?確かめてみる?」


「冗談だよ。それより、これから飲みに行こうぜ。」


戦闘訓練やら魔術指導などもあったが、私たちの行動にはかなり自由が与えられていた。

何人かいきなり脱走を試みた連中もいたが、この世界の魔獣に襲われ、見るも無残な姿になったのを見せられてからは脱出しようというやつはいなくなった。


すくなくともここは安全な場所のように見えたのだ。

この時は。



勇者同士の模擬戦。


ホワイトがレジェンドの胸元に向かって剣を突き立てる。

レジェンドはよけもしない。

ホワイトの剣はレジェンドの胸元ではじかれた。


(やっぱりあいつは無敵か)


(勝負にならないな)


私は二人の戦いを観察した。


「ホワイト、降参しなさい。」


私はホワイトに声をかけた。


「クソ。」


ホワイトがちらりとこちらを見て毒づく。


「ブラックみていろ!オレには奥の手があるそれを試してやる!」


再びホワイトは剣を構えた。


「フハハハハ、そんなものオレには効かん。だが……一撃は一撃だな!」


そういうとレジェンドは魔剣をホワイトの胸元に突き刺す。

刃はそのまま背中まで突き抜けた。


「ホワイト!」


私は彼に駆け寄った。


「きゃああ!」


見物していた勇者たちからも声があがる。


「おい、早く回復してやれ!」


「なにをいってる。こいつはもう助からん。それよりよくやったレジェンド。」


教官は倒れているホワイトを無視して、レジェンドをたたえる。


(くそ。私の回復魔法じゃどうにもならない!)


「ふざけるな!おまえら!」


私は教官とレジェンドに詰め寄った。


そのとき、1人の女が駆け寄る。

星の図が書かれた卵から出てきた勇者、スター。

特技は回復スキルのヒーラーだ。


修理リペアー


彼女がホワイトの身体に手をかざすと、出血がとまり、皮膚が再生する。


「大丈夫・・・なのか?」


「いえ、傷はふさいだけど、私の能力じゃなくなった血液はもどらないから。」


スターは心配そうにホワイトを見守る。

ホワイトはとりあえず、意識をとりもどした。


「ありがとう。ブラック、スター、君たちの声がした。」


まだ視線が定まっていない。


「ちょっとあんた。もう決着はついたでしょ。どういうつもりよ。」


ホワイトの無事を確かめてから、改めてレジェンドに詰め寄る。


「妙なことをいうな。思い切り胸元をついたのはこいつだぜ。こいつはオレを殺そうとしたんだ。」


「でも、あんたに攻撃なんてきかないってわかってたわよね。」


「そんなことはわからない。こいつの奥の手とやらが万が一効果があればおれは死んでいたかもしれない。」


レジェンドは手を広げる。


私はレジェンドにつかみかかろうとした。


「やめろブラック。レジェンドの言うとおりだ。弱いそいつが悪い。いい加減に気がつけ、ここでは力がすべてなんだ。」


教官が私をとめる。


「よせ。ブラック。」


ゴールドも私をとめる。


「なんでとめんのよ!」


「今はホワイトを医務室に連れて行くのが先だ。私は人をつれて瞬間移動できない。みんな手伝ってくれ。」


みんなが手伝おうとしたが——


「おい、お前ら。勝手なことをするな、訓練にもどれ。」


教官が遮る。


「ブラック、手伝ってくれ。」


「わかったわ。」


私は教官を無視してゴールドを手伝う。


「ワタシも行きます。」


スターも同調してくれた。


「しゃあねえな、私も付き合うよ。」


シルバーも。


「あんた。ありがとう。」


私たちは教官を無視してホワイトを医務室に運んだ。



第3章 第二のチート勇者、ロリババアとこの世界の秘密


ある日の訓練、目の前には一人の少女が立っていた。

10歳くらいに見える。

しかし、その目はこちらを冷徹に観察していた。


その目はまるで歴戦の戦士のよう。


「どうしたブラック。そいつは人間に化けた敵だ。油断するとお前が殺される。ころせ!」


教官が叫んだ。


ほんとうにそうか?


どう見ても見た目はただの少女だが……


ふと見ると、シルバーも同じく、獣人の少年と相対している。


【爆裂!(イグニス)】


やるのか、シルバー。


シルバーのスキルが爆ぜる。

しかし、シルバーの顔に迷いが出た。

標的をはずす。


その瞬間、獣人の少年が跳ね、シルバーの頸動脈をかき切る。


シルバーの首元から、噴水のように血があふれた。


シルバーが崩れ落ちる。


(クソ、私もやらなきゃやられるか!)


私が目を反らした瞬間、少女が短剣を突き出す。


あらためて少女と目があう。


(だめだ!私にはできない。)

私は短剣を左腕で受け止める。


激痛が走る。


しかし、残った右手で少女の頭をつかむ。


脳眠ブレイン・スリーパー


少女の脳に直接、睡眠の魔法を叩き込む。


(訓練中に覚えた魔法だったが、うまくいったか。)


短刀が左腕に刺さったまま、シルバーのもとに駆け寄る。

スターがすでに血を止めていた。

しかし、シルバーの呼吸はすでに止まっていた。

スターが必死で心臓マッサージをほどこす。


獣人の少年は興奮している。


(お前がやったのか!)


どす黒い怒りがあふれる。

しかし、相手も少年、やらなければやられる状況だった。

そして少年もまた、怯えて震えていた。

私は怒りを抑え込んだ。


しかし、次の瞬間。


レジェンドが獣人の少年の背中に剣を突き立てた。


「ばかだなあ。魔物はちゃんと退治しないと。」


獣人の少年が言った。


「おかあさ……」


プツン。


私の中で何かがキレた。


「おおおおまああああええええええええ!」


私は剣を振りかざしレジェンドの肩口に振り下ろす。


見えない膜に止められる。

切れない。


電撃を送り込むがだめ。


(電撃も無理か!)


次の瞬間、レジェンドの右こぶしが私のあごをとらえ、後ろに吹き飛ばされる。


「安心しろ。お前は殺さない。これからたっぷりかわいがってやる。」


髪をつかまれる。

頭がぐらぐらして体が言うことを聞かない。

これじゃ回復魔法もかけられない。


そう思った瞬間。


ザク。


つかまれていた髪を誰かに斬られた。


ゴールドが私を抱えて距離をとる。


「ゴール……」


顎が砕かれて、うまく話せない。


悔しさと血の味が口の中に広がる。


「おい、おっさん。邪魔すんなよ。いくらおっさんでもオレにかなわないだろ。」


「試してみるさ。」


ゴールドは木刀を持ってレジェンドの横に瞬間移動し、打ち据える。


(おっちゃんはこんなやつでも木刀をつかうのか。)

しかし、やはりはじかれる。


「てめえはああ死ねやああ!」


一方、レジェンドは真剣を抜いた。


が、レジェンドが剣を振り上げた瞬間、ゴールドは目の前から消えた。


「ちょろちょろと!だったら!」


レジェンドはゴールドを無視して、スターに向かう。

シルバーに心臓マッサージをしているスターの首元に魔剣を突きつける。


(あいつ!)


「おっさん!追いかけっこするならこいつを殺す!」


「クッ。」


ゴールドが足を止める。


「そうだ、動くなよ!」


レジェンドはナイフをゴールドめがけて投げつける。


(おっちゃん!)


私は声にならない声を出そうとした。

が、ナイフは横にそれた。


「どうした。お前は能力に頼りすぎて練習が足りないんだよ。おれは動かねえぞ。さあスターをはなせ。」


ゴールドはゆっくりレジェンドに近づく。


「おまえええええ!」


レジェンドが剣をつかんだ、そのとき——


爆裂イグニス!」


バゴォ!


レジェンドの顔に小さな爆発がおきる。


(シルバー!)


間に合ったのか!


目の前が涙でにじむ。


ダメージは入らなかったが、レジェンドは爆発の拍子に武器を落とす。


「おまええええ!」


レジェンドは素手で殴ろうとしたが、ゴールドが腕をつかんでそれをとめる。


「なるほど。攻撃じゃなければ止めることはできるわけか。」


「てめえ!」


激昂するレジェンド。


「はい!そこまでです!」


最初に私たちを召喚した召喚士が現れる。


「レジェンド様。あなたはすばらしい。そんな二流勇者はもういいでしょう。今夜はあなた好みの女性たちを用意しましたよ。」


「チッ、しらけたぜ。今夜は女の気分でもねえ。酒飲んで寝る。」


そういうとレジェンドは消えていった。


「ところで、なんですか、この事態は。」


召喚士が教官を叱責する。

いつもより迫力がある


「いえ、これは……」


「勇者様たちは大事な人材です。こんなことで命を落としていたら、あなたはどう責任をとるつもりでしたか。」


「申し訳あり……」


ズキュウウウン!


召喚士の指先から放たれた魔力弾が、教官の額を打ち抜いていた。


教官がくずれおち、血の池ができる。


(仲間を…、なんてやつだ。)


「勇者様たち、申し訳ありませんでした。このように責任を取らせましたので。」


ズキュウウウン!

ズキュウウウン!


二発の魔力弾がシルバーと私を打ち抜く。


やられた!


「おまえ!」


叫ぼうとして、気がつく。


(顎が砕かれたはずなのに、今、声が出たのか?)


「いや、まてブラック……」


驚いたことにシルバーも起き上がる。


「これは……体力がもどっている。」


シルバーが自分の身体を確かめる。

私も自分の傷が治っていることに気がつく。


「今のは回復魔法の一種です。大事な勇者様を死なせるわけにはいきません。」


召喚士はシルバーを傷つけた獣人の少年の亡骸を一瞥する。


「やりすぎるなといったのに、このカスが。おいこのゴミをかたづけておけ。」


従者たちは獣人の少年を担ぎ上げて連れ去る。


召喚士も出ていった。


私は眠っている少女に目をやる。


「この子も連れていくか。」


私は少女を抱きかかえた。


獣人の少年の最期の表情が頭からしばらく離れなかった。





「私たち、ほんとうにここにいても大丈夫なんでしょうか?」


スターが不安そうにつぶやく。


……


それにこたえる者はいなかった。


「実は最近、気がついたことがある。」


ゴールドが壁を背にして腕を組んで話す。

最近、勇者の数がどうも減っているらしい。


「脱走してるってことか?」


シルバーが上着を着替えながら言う。


「そうかもしれんが……」


そんなとき、少女が目覚める。


「安心して、私はあなたを殺すつもりはないよ。」


少女は黙ってこちらをみる。


「こんな小さな子まで。」


「私は子供じゃないわ。」


「え?」


「私は少なくともあんたの倍は生きてるよ……」


少女がつぶやく。


「どういうこと?」


「私はあのレジェンドとおなじく虹色の卵から生まれたのよ。元いた世界で死んで、あの卵の中で赤ん坊の姿で生まれた。それで10年近くここで育てられたのよ。今では運営側の指導者。あんたみたいに甘いやつは早死にするわよ。でも嫌いじゃないわ。」


少女は冷たく笑った。


「ロリババアか……」


「ロリババアあ!?」


やばい、思わず声がでてた。


ロリババ、もとい、少女が眉間にしわを寄せた。


自分で私の倍は生きてるって言ったくせに。


「いや、その……じゃあ、なんでさっきは真面目にやらなかったの。」


とりあえずごまかす。


「あんたたちはなかなか筋がいい。死なせるにはおしいとおもったのよ。」


「あなた……」


「ゴールドがいったことは事実よ。あなたたちは選別のステージにはいったのよ。」


「選別?」


ゴールドが聞き返した。


「そう、勇者たちを殺し合わせて、選別する。」


「嘘……」


スターが顔色を変えた。


そのときドアがノックされる。


「隠れて。」


とっさに少女をベッドの下に隠し、仲間たちに目配せする。

仲間たちは黙ってうなずく。


「はいどうぞ。」


ゴールドがドアを開ける。

召喚士の連中だ。


「ダイヤはどこだ?」


「ダイヤ?」


「ブラック、お前と戦っていたあの娘だ。」


「さあ?みつけたらどうするの?」


「べつにどうもしない。あいつは天才だからな。お前もよく殺されなかったな。」


そういうと召喚士たちは出ていった。


ベッドの下からダイヤが出てくる。


「私は表向きは勇者の一人ということになってるわ。でも実際はつかえない勇者を間引きする側、不本意ながらね。しかし、お前たちはなかなか筋がいい。私が鍛えてやってもいいわ。」


ダイヤは腕を組んでいった。


見た目はどうみてもただの偉そうなガキだが、その目は冷徹に私たちを観察していた。


「それで、ダイヤ、あなたの狙いはなんなの?」


「決まっているわ。反乱をおこして、ここから脱出することよ。ただ、連中は数も多いし、少なくとも今のあんたたちより強い。私にも同志がいるけど、まだまだ数が足らない。」


悪い提案ではなかった。


「その前に、いくつか聞きたいんだけど。」


「どうぞ。いろいろあるでしょうからね。」


「そもそも、この世界はなんなの?ここの連中は何をしてるのよ?」


「わかったわ。順番に話すわ。」


ダイヤはゆっくり話しはじめた。


「この世界にはかつて魔王がいた。魔王はとある異世界から来た勇者に倒された。魔王の残党たちは考えた。自分たちも異世界から勇者を呼び出して、再び勢力をとりもどそうと。それが私たち勇者の正体よ。」


一瞬、みんな言葉につまった。


なにそれ。


それじゃあ、私たちは勇者どころか魔物側!?


「ちょっと待て!じゃあ、ワタシたちはその魔王の残党の手先としてそだてられてるの!?」


シルバーが声をあげる。


「そういうことね。」


ダイヤははっきり言った。


「それであんたは反乱しようとしてるってことね?」


私はダイヤに確認する。


「そういうことよ。ここのボスは強い、多分勝てない。でも逃げることならできるかもしれない。そのために勇者同士で力を合わせる必要があるのよ。」


みんなで顔を見合わせる。


「わかったわ。私はダイヤにのる。」


私は即断した。


迷ってても仕方ない。


この子、いや、この人は嘘はいってない。


私はそれに賭けた。


いや、彼女を信じる自分に賭けた。


「わかりました。魔王の残党などにいいようにされるのはごめんです。」


スターものってくれた。

シルバーとゴールドもうなずいた。


「では、あなたたちは私が鍛えてあげる。今から私のことは先生と呼ぶように。」


とはいえ、この少女に偉そうにされるのはどこか納得いかない。


(ロリババア、えらそうに。)


爆裂イグニス


そんな私の心を読むように、胸めがけてスキルが飛んできた。


「あつ!」


私の服だけがきれいに燃えて、胸がはだけた。


(こころを読んだのか!?)


「すごい、見事に服だけ爆破した。」


シルバーが感心する。


「私のスキルは【写し身】。近くにいるもののスキルを使用できる。」


「やっぱりこころを読んだのか!?」


「そんなことをしなくても私の悪口が顔に書いてあったよ。」


そういうと、ダイヤは一瞬で部屋の入口に瞬間移動する。


「今のはオレのスキルか!?」


ゴールドが驚いて声をあげた。


(とんでもないやつね。)


「ただし、成長過程のスキルはコピーできない。あくまでコピー元の今の能力が上限よ。ブラック、ゴールド、とくにあなたたちのスキルは成長性が高い。私が教えれば歴代最強になるかもしれない。」


「私が?」


「あなたはたぶん大器晩成型ね。時間はかかるでしょうけど。」


「ダイヤ、あなたならあのレジェンドの能力もコピーできるんじゃないの?」


私は当然の疑問をぶつけた。


「あれはだめね。はじかれた。それにあのクズは人間性が腐ってるから論外よ。でもあいつは戦力になる。というか、アイツでないとここのボス、ダークサマナーには勝てない。仲間に引き込む。」


(たしかに、戦力はあいつが別格だ。)


「ブラック、あなたは子供の私をみて躊躇したでしょう。ゴールド、スター、あなたたちは実力の差があってもあのクズにたちむかったでしょう。そういう心の強さこそ真の強さよ。レジェンドはいつかなんとかしないといけない。でも今はその時じゃない。」


(ずいぶんまっとうなことを言うのね……)


「私はレジェンドを除くすべての勇者とここの運営のスキルをつかうことができる。私一人なら逃げきれるとおもうけど、できるかぎり大勢救いたい。」


「もう全部、あなたひとりでいいんじゃない?」


私の意見にみんながうなずく。


「私の身体は10代前半の子供なのよ。体力もない。相手のスキルをコピーできても、周りにスキルや魔法を持たない大人や魔獣だったら一方的にやられる。まわりの環境に依存するのよ。」


(なるほど、無敵というわけではないのか。)


「もうすぐ最終審査があるのよ。そこで使えない勇者は皆殺しにされ、生き残った者は『魔勇者』として認められるわ。」


「魔なる勇者……、魔勇者か。」


私はおもわず口にする。


「認められたら、どうなるんだ?裏切ったら殺されるとか?」


シルバーが聞いた。


「とうぜん指名手配され、追われる。」


「やっぱりか。」


シルバーは肩を落とした。


「そこは私に考えがある。」


「どんな考え?」


「一つはレジェンドを味方につける。やつならダークサマナーにも勝てる。もうひとつは、ここからはるか西にあるという外国に亡命する。」


「外国?」


「ええ。貧困もない平等な国だといわれているわ。ここの連中はそことは関わりたくなさそうなのよ。」


「雲をつかむような話ね。」


私はため息をついた。


「できればレジェンドを味方につけ、ここの連中を倒すのが一番よ。」


「何か手はあるの?」


「そこは私に任せて。あいつはロリコンの変態でもあるからね。」


(あ、察し。)


「いやまて、なにも君が犠牲になることはないだろう。」


ゴールドが止めた。


(この人、ほんとにいい人だな。)


「ゴールド、こう見えても私はあなたより年上よ。」


「え?」


ゴールドがかたまった。


(そうとうなロリババアだな。)


爆裂イグニス


「あちい!」


こんどは私のパンツが燃やされ、下着があらわになった。


(このロリババア!やっぱり心がよめるんじゃないか!)


私が着替えている間に、仲間たちは作戦会議をした。




第4章 勇者立つ!


その後、私たちはダイヤによって鍛えられた。


この世界で冒険者として生きていく方法。


そして、この世界の地理について。


もっとも彼女も直接旅をしたわけではないが。


それでもこの世界のことが少しはわかった。

さらにダイヤによればレジェンドも私たちについてくれることになったらしい。

どうやって説得したかは教えてくれなかった。


「女の武器よ。」


とだけいった。

見た目は子供、中身は大人のロリババアが。


そして運命の日がやってきた。



広間に勇者たちが集められた。


「勇者の皆様、今日は最終試験を行います。」


召喚士はさわやかな笑顔で、集まった勇者に向けて話しかけた。


その何人かは私たちの同志になってくれているらしい。

召喚士の笑顔の裏に何があるか、今の私には見えている。


「その前にいいだろうか。」


列の最前列にいたレジェンドが手をあげた。


「これはレジェンド勇者様、なんでしょうか?」


「おれはすべてをきいたぞ!お前たちは魔王の残党らしいではないか!勇者たちよ!オレとともに立ち上がれ!ともに正義を示すのだ!」


声が広間に響いた。

レジェンドが演説した。


それが合図となった。


勇者たちが、一斉に剣をとった。


私も覚悟を決めた。


剣を抜く。


「フ、愚かな。我々が何も対策をしていないとお思いか。」


召喚士の口元が、わずかに歪んだ。


レジェンドに向けて魔力弾を放った。


「散れ!」


叫んだのはダイヤだった。

レジェンドの周りにいた勇者たちは飛び散るように回避した。。

レジェンドはそれを真正面から受けた。


ドォン!


爆風が広間を揺らす。


数人は回避しきれず巻き込まれて火だるまになって転がっている


「ぐわあああ!」


勇者たちの叫び声が響く。

それと同時に金属音が連続して響いた。


(なんの音だ)


「フ、ばかめ!オレにそんなもの……!」


レジェンドの余裕の声が聞こえた。


爆風が晴れる。

そこには、レジェンドの周り5メートル、鉄柵がそびえていた。


(さっきの金属音はこれか?)


「な、これは!?」


「レジェンド様、このまま数日たてばあなたは死ぬでしょう。どうです?まだやりますか。」


考えたな!

魔法でも剣でもない。

単純に、物理的に閉じ込めるとは!


まさかの兵糧攻めとはね。


「勇者たちよ、改めて聞きます!反省して我々に従うか、ここで死ぬか選びなさい!」


勇者たちが動揺した。

ざわめきが広間に広がる。


(やばい、この空気!)


私は迷わなかった。


「みんな!レジェンドを助けるのよ!柵を壊せる人は手伝って!」


叫びながら近くの衛兵に切りかかり、首を飛ばす。

血が噴水のように噴き出した。


(もうやるしかない!)


「ブラック!助かるわ!」


ダイヤが声をあげ、宙に浮いた。


その目は召喚士をとらえている。


「馬鹿め!下手に出れば調子に乗りおって!私の力を思い知るがいい!」


召喚士——いや、ダークサマナーの肌が白く変色していく。

瞳が輝く。

筋肉が、服を突き破るように盛り上がった。


異形の何かが、そこに立っていた。


鎌鼬デスサイズ


ダイヤがダークサマナーに向けて手を振りかざした。

目に見えない衝撃波が走り、ダークサマナーの後ろの壁に亀裂が入る。


轟音が後から来た。


(あれもここにいる誰かのスキルか!?)


しかし、ダークサマナーは一歩も動かない。

肌には傷一つつかない。


(なぜ!?)


「スキルとは魂の、精神の強さだ。人間程度の、まして子供の精神では我らに傷をつけることはできん!」


それを合図に、ダークサマナーの仲間たちも次々と姿を変えていく。

顔が獅子の魔人、リザードマン、鬼たち。


広間が戦場に変わった。


勇者たちが魔物と剣をぶつけ合う。

しかしどちらにつくか決めかねている者、私たちの仲間に剣を向ける者もいる。


私はレジェンドを囲っている檻を剣で叩く。

火花が散るが、かすかに傷をつける程度しかできない。


(くそ。)


「死ね小娘!魔拳波!(ダークナックル!)」


ダークサマナーの拳から魔力衝撃波が放たれ、ダイヤを襲う。


「ダイヤ!」


私は思わず叫んだ。


しかし、そこにはもう彼女はいなかった。


すぐとなりから声がした。


気がつくと、ダイヤは私の横にいた。

瞬間移動でかわしたらしい。


「私を心配するなんて、あなたも一人前になったわね。」


ダイヤは余裕でこたえた。


「ブラック、あそこにいる戦士は【斬鉄】のスキルをもっている。ダークサマナーは私とゴールドたちが相手をするから、あいつをここに連れてくるのよ。」


ダイヤは部屋の端で、どちらにつくべきか決めかねているやつを指さした。


そこに目線をやった。


「あいつ、ホワイト!」


レジェンドに殺されかけたやつだ。


「ダイヤ、あんたはこの檻が切れないの!?」


「いったでしょ。私自身の身体は子供なのよ。スキルは使えても体が弱すぎて切れないのよ。」


「そういうことね。じゃあ、あいつはまかせたわよ、ダイヤ。」


「先生と呼びなさい。」


ダイヤはそういって再びダークサマナーに向かい、私はホワイトに向かって駆け出した。



ダークサマナーをゴールドのおっちゃんが相手をしていた。


ダークサマナーが両手の剣を振り回す。

おっちゃんは瞬間移動で、ギリギリでかわし続ける。


「ええい!こざかしい!」


ダークサマナーはいら立ちを隠さない。


一撃あたればゴールドはただでは済まないだろう。


爆裂イグニス!】


隙をみてシルバーが爆裂を当てる。

爆炎が上がった。

しかし、煙が晴れるとダークサマナーはそこに立っていた。

ひるんではいる。だが、それだけだ。


ゴールドのおっちゃんは剣でさらに追撃をおこなった。


だが——ダークサマナーはおっちゃんの剣を防御した。

剣での攻撃は効く。


だからこそ、防御したのだ。


「ホワイト!あんた、【斬鉄】のスキルをもってるんでしょ!あの檻を斬るのを手伝って!」


私はダークサマナーから部屋の端でおろおろしているホワイトに目を移し、大声で声をかけた。


「ざけんな!あいつをみろよ!」


ホワイトは檻の中のレジェンドを指さした。


なんとレジェンドは寝っ転がって、戦いの様子を見物していた。


(あいつほんとにどうしようもないな。)


(最初の演説はなんだったんだ!?)


「だいたい、アイツを解放しても俺たちの仲間になるとはかぎらないじゃないか!」


ホワイトが私にいった。


「そこは大丈夫よ。約束してもらってるはずだから。」


「信じられるか!」


「でもこのままじゃ、あんたも私たちも全員殺されるわよ。」


まわりをみると、ダイヤとゴールドがなんとかダークサマナーを抑えてはいるが、徐々に勇者側に犠牲が出始めている。


時間がない。


「オレは関係ない。いや、そうだ、ブラック!この隙に逃げるんだ!」


そうか、その手が——


いや、だめだ!


私は邪念を振り払った。


「わかった!逃げるんならあんた一人で逃げて。ただし、あの檻を斬ってからよ!」


「だめだ、ブラック、君もいっしょだ!聞いてくれ、オレは君が好きだ!」


は?


なにをいってるんだ。


こんなときにこいつは!


「オレはホワイトじゃない!オレの名は美甘昭烈みかもてるあきだ!ブラック、君の名を教えてくれ!」


「私の名は……」


言いかけて、そんなことを言ってる場合じゃないことを思い出す。


「わかったよ!ミカモ!全部終わったら考えてあげるから、とりあえず一緒にきて!」


私は必死でホワイト改めミカモの名を呼び説得した。


「わかった!本当だな!」


ミカモ・テルアキは私とともにレジェンドの檻へ向かった。



「こざかしい!これでどうだ!魔拳百裂弾!(ダークバレット!)」


ダークサマナーが天井に向かって両拳を突き上げた。


空に向かって無数の拳を繰り出す。


光の粒が無数に生まれ——次の瞬間、雨のように降り注いだ。


「ぐわあああ!」


広間が悲鳴に包まれる。

私とミカモのところには運よく来なかったが、勇者たちがあちこちで倒れていく。


(数うちゃあたる作戦かよ)


「くそ、ここまでか。」


シルバーも足に命中したらしい。

膝がおかしな方向に曲がっているのをスターが必死で回復させている。


「ゴールド!ダイヤ!お前たちは助かっても他の連中はおわりだ!魔拳百裂弾!」


ダークサマナーが叫んだ!


再び、光の粒が天井を埋め尽くす。


その瞬間——


「こうなったら!」


ダイヤが空中に躍り出た。


(何をする気!)


【避魔針】&【鋼化】!


魔力弾の軌跡が曲がった。

広間に降り注ぐはずだった無数の弾が——全て、ダイヤ一人に向かって集まっていく。


「ダイヤ!」


轟音の連続。


ダイヤは仲間たちを守るために、自身に攻撃を集めたのか!


ダイヤがボロ雑巾のように落下する。


(やばい!落ちる!)

地面に激突する寸前、姿が消えた。


(瞬間移動したか!?)


「フハハハハハ!やつさえ消えればもう終わりだな!」


ダークサマナーが勝利宣言をした。


しかし——


私とミカモが、とうとう檻の前についた。


「ミカモ!」


合図を送る。


【斬鉄!】


ミカモの剣が、鉄の檻を一閃した。

切断面が光る。

その間にもミカモは次々と檻を斬りつけ、レジェンドが動ける空間を作っていく。


「ようやく、オレの番か!」


レジェンドが立ち上がった。


しかし——次の瞬間、信じられない光景を見た。


「おせえよ!クズ!」


レジェンドは檻を斬っていたミカモを、後ろから蹴り飛ばした。


「ぐわああ!」


ミカモは無防備に蹴りをくらい、顔面から転ぶ。


「あんた!なにしてんの!状況わかってんの!?」


「状況わかってないのはお前らだろ。オレはお前らの仲間になったつもりはないぜ、ブラック。」


「なんですって!?」


この後に及んでこいつは!


「あんた、ダイヤと話がついたんじゃないの!?」


「ああ、たしかにな!でもあいつロリババアだったんだろ!おれを騙しやがって!ババアじゃねえか!」


ボロ雑巾のようになったダイヤの姿が頭をよぎる。

怒りがわいてくる。


こいつは!


「そうだ!ブラック、お前オレの女になれ!そうすれば助けてやる!」


ここにきて、こいつはどこまでも。


私はキレそうになるのをこらえた。


「わかったわ。アンタと寝ればいいのね。あいつを倒してくれるならそうする。」


歯を食いしばりながら答えた。


「貴様あ!」


ゴールドが瞬間移動し、怒りのままにレジェンドに切りつけた。

しかし、やはりはじかれる。

そのままレジェンドがゴールドに切りつける。

ゴールドは体力を消耗していたのか、瞬間移動でかわしきれず、そのまま倒れ込んだ。


「フハハハハ!さすがはレジェンド様!ものの道理がわかってらっしゃる!」


その様子をみてダークサマナーが高笑いする。


私は怒りを抑えながら、ゴールドに駆け寄る。


(よかった。切られてはいるが、これなら助かる。)


私はゴールドの手を握った。


美佐江みさえ日葵ひまり、しんたろう……」


ゴールドがうめいた。


(それがおっちゃんの家族の名前か……。)


そのとき——


(え?)


私の手から、おっちゃんのスキルの情報が流れ込んできた。

膨大な、詳細な情報が。


(これは——鑑定スキルか?)


「よし、ブラック!こうしよう!お前、ここで脱げ!ここで相手をしてやる!そのおっさんや、さっきのホワイトの目の前でな!」


「フハハハハハ!それはいい!レジェンド様、あなたこそ真の勇者だ!」


下衆が。


どこまでも下衆が!


ブチ。


私の中で何かがキレた。


「おまえええええええ!」


剣を持って、レジェンドに切りかかった。


「フン!」


やつはよけもしなかった。


ギャン!


剣のほうがへし折れた。


折れた刃が床に落ちる音が、妙に大きく聞こえた。


「くそおおおおお!」


私は折れた剣を投げ捨てた。


拳を握る。

固く。

もっと固く。


この世界に来てから積み上げてきたもの、怒り、全部をこの一点に込めるように 。


全力で——やつの鼻っ柱めがけて、拳を放った。


やつは微動だにしなかった。


そして——


私の拳が、やつの顔面にめり込んだ。



「ぐはあああ!」


奴がうしろに吹っ飛ぶ。


広間が、一瞬静まり返った。


「なんだこりゃあああ!いたいいたいいたい!」


奴は鼻を抑えるが、水道のように鼻血が流れていた。


殴った私の拳も痛かった。


やつを殴ったとき、私の脳内に言葉が流れた。


【世界最強】この世界のものによるすべての攻撃を無効化する。


これがこいつのスキルだと、直感的にわかった。


「この世界のもの」——そういうことか!


私はこいつの身体を思い切り踏みつけた。


一回、二回と。


「いたい!いたい!なんだこれは!ブラック、なんだそれは!」


レジェンドは身をまるめて自分をまもった。


「みんな聞いて!こいつのスキルはこの世界のものによる攻撃を無効化する。でも私たち異世界人が普通に殴れば効くのよ!」


広間が、どよめいた。


「なんだと!?」

「ばかな!」


ダークサマナーも顔色を変える。


「こいつ、今まで!」


勇者の一人がレジェンドを蹴っ飛ばす。


「やめてくれ!たすけてくれ!」


さっきまで無敵だった男が、悲鳴をあげていた。


「クソ野郎!私たちに蹴り殺されたくなければ、あいつをやりなさい!」


私はダークサマナーを指さす。


「そうすれば、許してくれるんだな!?」


「いいからいけえ!」


私は再度、拳を握った。


「はいいいい!」


レジェンドは剣を持ち、ダークサマナーに向かった。


「き、貴様!裏切るか!」


ダークサマナーはレジェンドに向かって魔力弾を放った。


しかし、この世界の力はレジェンドの前に無力だった


「おのれえ!」


渾身の蹴りを放つ。

だが、はじかれる。


「じねえええ!」


レジェンドは涙と鼻血まみれの顔で剣を振り回した。


レジェンドの一撃がダークサマナーの首を飛ばした。


巨体が、ゆっくりと沈んだ。


それをみた魔物たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。





エピローグ 君の名は。


「これでいいんだろ、ブラック。じゃあオレとつきあってくれるんだな!」


「なわけあるかぼけえ!」


私は再度レジェンドを殴り飛ばした。


「いままで好き放題やりやがって。」


「この野郎が!」


レジェンドはほかの連中にボコられた。


やつがボコられる心地よい打撃音とやつの悲鳴だけが聞こえた。

当然の報いだ。



戦いが終わった広間は、勇者たちがそれぞれ笑顔で談笑していた。


魔物についたものもいたが、もう終わった話だ。


彼らもバツが悪そうにしているが、どうこうするつもりはない。


「終わったんだな。」


ゴールドがやってきて、私に手を差し出した。


「ええ。なんとかね。」


私はその手を握った。


「お疲れ様。」


ダイヤもきた。

体中が傷だらけになっている。


「あんた、無事だったの。」


「ぶじじゃないわよ。全身の骨がくだけて、さっきまで内臓がお腹から飛び出てたのよ。なんとか回復したけど、そこで魔力がつきたわ。」


「そ、それは大変だったわね……」


想像するだけで痛くなる。

このロリババアは、少しだけど笑いながらそれを言っていた。


「やりましたね、みなさん。」


スターがシルバーに肩を貸しながらやってきた。


「ブラック、君ってやつはたいしたやつだ。」


「ミカモ、あんたもね。」


私はミカモに握手をした。


「ミカモ?」


ダイヤが怪訝な顔をした。


「こいつの本名らしいよ。」


「これからどうするみんな?一緒にどこかに行くか?」


ゴールドがみんなに声をかけた。


「ゴールド、そのことなんだけど……」


私はゴールドに、気がついたことを告げた。



「なんだって?オレは元の世界に帰れるかもしれない!?」


ゴールドが声をあげた。


「ええ。あんたの手を握ったときに私の解析スキルが反応したのよ。あなたのスキルは次元を超えて、自分の思い描いた場所にジャンプできるみたい。見えるところにしか行けなかったのは、見えるところははっきりとイメージできるからだと思う。」


「そんな……」


ゴールドは言葉を失った。


「ゴールド、あんたの家族の顔を強く思い出すのよ。みさえさんとひまりさんと、しんたろうくんがあんたをまってるわよ。」


「なぜ、その名を!」


ゴールドは本当におどろいた表情をみせる。


「倒れたとき、あんたが呟いていたわよ。」


そういってゴールドは懐からスマホを取り出した。

当然、もう電池は切れている。

しかしスマホケースに、家族の写真が貼ってあった。


ゴールドは目を閉じた。


しばらく、誰も何も言わなかった。


「みえる!あいつらの顔が、三人で食事をしている!オレの分の食事もつくってある!」


ゴールドの眼から涙があふれた。


「元気でね。ゴールド。」


「いや、オレの名は野山だ、野山ひろきだ。ブラック、それにみんなの名は?必ず家族につたえる。」


それぞれが涙を流しながら、自分の名前をヒロキに告げた。


「私は結構よ。そっちの世界では私は死んでるからね。」


ダイヤだけが、寂しそうに笑った。


「みんな!今までありがとう!絶対にお前たちのことは忘れない!」


それがヒロキの、この世界での最後の言葉になった。


次の瞬間、ヒロキの姿が消えた。


(元気でね。)


私は目を閉じ、二度と会えないだろう友達の幸せを願った。



「で、ダイヤ、あんたはどうすんの?」


「ジョカよ。私はジョカ。」


ジョカは静かに言った。


「私は西へ。この地平線の向こうに、神が治める国があると聞いたわ。そこへ向かう。あんたもくる?」


「いえ、私は足でまといになりそうだから、やめておくわ。まずは人里を探す。魔王を倒した勇者がいるなら、ちゃんと人間がいるでしょうし。」


「そう。じゃあ、そこまではいっしょにいきましょう。みんなもそれでいい?」


生き残った勇者たちにジョカが声をかけた。

みんなうなずいた。


「じゃあ、いこうか。アビ。」


私の本当の名前を、ジョカは自然に呼んだ。


「そうね、先生。」


「やっと先生と呼んでくれたのね。」


ジョカがくすりと笑った。


ワタシたちは、この世界で新たな一歩を踏み出した。




続く。



お読みいただきありがとうございました。

アビの物語の続きが気になった方は、ぜひととも本編、「冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。」をお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n8516ls/

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