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魔王候補のバーテンダー  作者: リリス
1章 リリス
9/12

ただいま

城を出て、人間の国フォンタステの城下町へ向かうリリスとガルディム。


--


「ねぇ、ガルディム」

 

「私、あなたに酷いことをしてしまったわ」

 

「あなたの目を掻い潜って逃げるなんて」


「えぇ、そうですよ」

 

「あの後、魔王様にたっぷり叱られました」

 

「今すぐ探し出せーってね」


ガルディムは少し寂しそうに笑う。

 

リリスは、その笑顔を初めて見るように目を細めた。


--


「ねぇ……もし私が一年の約束を守れなかったら、どうなるのかな」

 

「……魔王様のことです」

 

「リリス様とその男を引き剥がすため、魔王様自らその男を…」

 

「……私、圭介を巻き込んでしまったのね」


「いいじゃないですか」

 

「女の子は、わがままな方がいいのです」


ガルディムの満面の笑みが、リリスの心をほんの少し軽くする。

 

「えぇ、そうね」


二人は、城の近くの森まで、楽しそうに話しながら歩いた。

 

別れを感じさせないほどに。


--


「リリス様、私はここで城へ帰ります」

 

「どうかお気をつけて」


「ガルディム……ありがとう!!」


リリスが精一杯叫ぶと、ガルディムは一度だけ振り返った。

 

「では」

 

そして、空高く飛び去っていった。


--


森を抜け、城下町へ向かう途中。


「待て、そこの女」

 

「身分証を出せ」


「え、でも、この前までこんな取り締まりしてなかったわよね」

 

「魔族が侵入しそうになってから、警備が厳しくなったんだ」

 

「さぁ、身分証を」


「ごめんなさい、私……」


「通してやりな」


リリスは驚く。

 

「ルヴァンさん!でも、身分証がないと……」


「こいつはギルド横の路地の店の従業員だ。お前らもよく行ってるだろ?」

 

「ですが!」

 

「俺が保証する」


鋭い目付きに、門兵は言葉を失う。


リリスは小声で呟く。

 

「ギルマス……これで、あなたも巻き込んじゃう……」


「ここでは、私がなんとかする」


--


かつて初めてこの街に足を踏み入れた時を思い出すリリス。


(懐かしいわ……)

 

(倒れそうなほどお腹が空いていて……)

 

(食べ物を出しなさいって、殺気まで放って……)

 

(圭介まで巻き込んで……従業員にまでなって……)


ギルド横の路地に着くと、ルヴァンがドアに手をかけた。

「おい、嬢ちゃん。入るぞ」

 

「ケイスケが待ってる」


リリスは立ち止まる。

 

「……私、このまま戻ってもいいのかしら」

 

「やっぱりケイスケのことを考えるなら……」

 

「……いいから来い」


ガチャ


「おかえりなさーい!!!」


--


店の中には飾り付けがされ、これまで出会った客たちが集まっている。

 

カウンターの奥には、圭介。


「ケイスケ……これは……」

 

「リリスさんの従業員就任祝いですよ」


「でも、みんな忙しいのに……」

 

「リリスさんの明るい笑顔には、いつも癒されているんです!」


モーブが笑い、宰相が拳を落とす。

 

「私の部下が、この店には世話になっています。祝わせてください」


「僕からも!これ、プレゼントです!」

 

モーブは小さな金属の板を差し出す。


「名札?」

 

「それとこれ、俺からだ」


ルヴァンが箱を手渡す。

 

「これって……黒い服?」

 

「この店の制服だ。ケイスケの服と対になるよう、仕立て人に頼んで作ってもらった」


リリスの目に、涙が光る。

 

「嘘……嬉しい……」


圭介が声をかける。

 

「おかえりなさい、リリスさん」


リリスは笑った。

 

今までで一番の笑顔で。

 

「ただいま!」


--


「ところで、ラガーはまだか?」

 

「ボルグンさんも居たんですね!」

 

 ドワーフの長のボルグンだ。

 

「おう、嬢ちゃんもここで酒作るんだろ?」

 

「俺が味見してやる」


圭介がグラスを差し出す。

 

「リリスさん、出番ですよ」


リリスは涙を拭い、頷く。

 

「はい!」


--


その頃、フォンタステ王城。


「勇者選定の儀の準備は進んでいるか」

 

「はい、滞りなく」

 

「今回は必ず成功させねばならん。新しい魔王が生まれる前に」


机の上には一枚の書類。

 

そこに書かれた文字――勇者候補者名簿。


名だたる冒険者や魔導師の名前が並ぶ。


側近がページをめくる。

 

「今回の有力候補はこの辺りか……S級冒険者、宮廷魔導師、騎士団長……」


最後の方に書かれた名前。

 

アレス


「……これは?」

 

「最近S級に上がったばかりの冒険者です」

 

「実力は、まだ未知数かと」


しばし沈黙。

 

「構わん。候補は多い方がいい」

 

「勇者とは、時に予想外の所から現れる」


窓の外に広がるフォンタステの街。

 

そのどこかにある小さな酒場――


まだ誰も知らない。

 

この街の片隅で、運命が静かに動き始めていることを。

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