君は感謝を伝えたい
「秋人!ケーキ作ってみたい。明日休みだから、一緒に作ろうよ」
昼休みになった途端、冬花が勢いよく走ってきたので、何事かと思えば、無茶なことを言い始めた。
小さく手招きして、冬花とシュンに付いてくるよう合図する。教室を出てそのまま隣のクラスの幼馴染みへ声をかける。
「翔太、悪いけどお昼は央都と二人で食べてくれ。僕ちょっと用が出来たから、それじゃ後でな」
「はっ?ちょっと…秋人、お前最近どこ行って…」
翔太の言葉を無視して、足早に階段を上がる。いつもの屋上へと着いて、振り向くと、笑顔の冬花と無表情のシュンが、揃ってそこに立って居た。二人を見ると、溜め息しか出てこない。
「もう、秋人急にどうしたの?央都ちゃん達とお昼一緒じゃなくていいの?」
その貴重なお昼時間を邪魔する発言をしたのは誰だと呆れつつ、抗議の意味を込めて、ケーキ作りを全力で止める。
「さっきのどういうこと?ケーキ作りたいって。無理に決まってるだろ。実体がないから、物に触れられないのに、どうやって入れたり混ぜたりするんだよ。そもそも、冬花ってケーキ作ったことあるの?先に言っとくけど、僕は作れないからな」
冬花が、僕の言葉に少し考えてから満面の笑みで、任せてと言うように胸を張る。
「作ったこと有るか無いかで言うと、覚えてないよ。でも、調べたら手順はわかるでしょ。秋人が居れば、私も混ぜたり出来ると思う。いけるよ。任せて」
いったい、どこから来る自信なのか、僕には絶対に失敗する未来しか見えない。
貴重な休みを無駄にしたくない。正直、面倒くさい。どうせ失敗するなら、初めから無謀なことはしないのが正解だ。
「ケーキって、そんな簡単に作れないだろ。急にどうしてケーキ作りたいって言い出したんだよ。食べたいなら今日の放課後に買って帰ろう。作るのは諦めて。」
珍しく冬花が不機嫌な顔で、僕に詰め寄る。
「別に食べたい訳じゃないもん。やりたいことリストにも料理したいって書いてあるでしょ。やる前から諦めたくないの!自分で作ってみたいの!」
シュンを見ると、こんなに必死な冬花に、何も言えないようだ。担当死神なら、ここでガツンと無理だと説明して欲しいところだ。
「はぁ…どうして、そんなに手作りケーキにこだわるの?確かに、やりたいことリストに料理も有ったかもしれないけど、僕が出来る範囲しか手伝えないよ。何なんだよ。突然手作りケーキなんて言い出して…」
諦めない冬花にイライラして少し言い方がきつくなってしまった。冬花はそっぽを向いたまま、僕を見ない。仕方ないので、もう一度ちゃんと話そうと、彼女に近づいた。
「…たいの。」
冬花が何か言ったが、声が小さくて聞こえない。聞き返そうとした僕に、突然冬花が大声で叫んだ。
「お礼がしたいの!みんなに、いっぱいお世話になったから、自分で何かしたかったの!秋人にも、央都ちゃんにも、シュンにも、私が…私の気持ちが…みんなにわかるように、伝えたかったの!」
僕は、冬花の言葉に、そのまま立ち止まり、動けなかった。
冬花の気持ちに何も言葉が出なかった。
今の冬花は、僕を通して会話するしかないし、そもそも、生きてる人には存在すらも分かってもらえない。
相手の事を感じて伝えたくても出来ないことも多いし、幽霊だから、見えない相手には態度で示すことも出来ない。
(みんなにわかるように、伝えたい…か。)
あんなに無理だと諦めろと思っていたはずなのに、自分の思いを形にして、渡したいって言われたら断れない。
結局、僕も冬花には逆らえない。最後には、僕が負けて、彼女の思いに従ってしまう。
「…冬花の気持ちは、わかった。リストにも料理がしたいって書いてあるし、手伝うって言ったから約束は守らないとな。明日は、休みだから1日あれば、何とかできるだろう」
冬花が、不機嫌な顔から、一瞬で笑顔に戻る。
「ありがとう秋人。私にいい考えがあるから、絶対に大丈夫だよ。」
「あまり信用出来ないけど…まぁ、やれるだけやってみよう。」
冬花が笑顔になり、シュンも安堵の表情を見せる。
「それで、何でケーキなのか聞いてもいい?」
「…うーん、ケーキはみんな好きだし、私も食べたいからかな」
「……」
「俺は、ケーキ好きだぞ。秋人、今すぐ冬花に伝えろ」
やっぱり止めるべきだったと後悔しながらも、翌日のお菓子作りの材料を買って帰ることにした。
〈話し合いの結果、ケーキは難しいのでクッキーを作ることに変更した。〉




