自分との闘い
小石は、泣きながら愛おしい亡骸に近づこうとしたが、警察官たちに制止された。
そして小石は、嗚咽を漏らしながら叫んだ。
「どうして…どうしてこうなるんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
数日後、平野の葬儀が執り行われた。
平野の家族や関係者は皆、涙に暮れていた。
さらに数日後、金井も急性心筋梗塞で亡くなった。
そして一週間後、ついに犯人が逮捕された。
その犯人は、そう、あの時の三星だった。
彼は平野のストーカーで、想いを告げたが拒絶されたことに逆恨みし、平野の自宅に侵入して殺害したのだ。
ー僕にとって、これ以上つらいことなんてない。
いつか絶対にあいつを復讐してやる。絶対に。ー
ジョブズは、そう心に誓った。
その回想が終わる頃、パトカーは警視庁万世橋警察署の敷地内へと入っていった。
ジョブズは、すでに自分を犠牲にする覚悟を決めていた。
すべては、あいつに復讐するために。
警察官がパトカーのドアを開け、ジョブズは静かに外へ出た。
警察署の正面には、大勢の警察官が彼を睨みつけていた。
まるで獲物を追い詰めた蛇の群れのようだった。
「ようこそ、地獄へ。小石さん」
突然、目の前に現れた切野賢人が、にこやかに声をかけた。
しかし小石は一瞥もくれず、無視した。
ーチッ。喧嘩を売っても、ボロが出ないか…ー
切野は内心、舌打ちした。
「では、まずは取調室へ行きましょう」
高木がそう言い、ジョブズを取調室へ案内した。
椅子に座ったジョブズの正面に座ったのは、切野だった。
「こんばんは、小石さん」
今度は親しげな口調だったが、返事はない。
ー仲良し大作戦も、ダメか…。
切野は急に表情を引き締めた。
「では、本題に入りましょう。あなたは詐欺に関与しましたか?」
単刀直入な問いだった。
だが、ジョブズは沈黙を貫いた。
「証拠も揃っています。黙っていても無駄です。素直に認めた方が、刑は軽くなりますよ。」
切野は挑発的に言った。
すると、ジョブズが小さく口を開いた。
「…その、証拠は…何です?」
「ん?何?聞こえないな」
切野はわざとらしく聞いた。
ジョブズは感情を抑えながら、少しだけ声を大きくした。
「証拠、見せてください!」
「ああ、証拠ですね」
切野は隣の山岡に合図し、資料を差し出した。
「この黒木という人物、知っていますか?」
返事は無かった。
「まあ、答えないでしょうね。この男が、詐欺に関する資料を提供してくれました。それがこれです」
切野は続けて言った。
「この資料の未加工部分から、偽サイトがみずな銀行のものだと判明しました。その後、みずな銀行、さらにフィリピンのBOOユニバンクへ照会したところ、振込先は…あなた名義の口座だった」
切野は勝ち誇ったように言った。
「どうです?もう言い逃れはできません。さっさと自白した方がいいですよ。
そして、何かを思い出したように付け加えた。
「ああ、そうそう。あなたの情報を捜査支援データベースで調べたところ…10年前に殺害された平野凛花さんの恋人だったそうですね」
切野はわざと間を置き、続けた。
「大変でしたねぇ。でも、こんなことをしていたら、彼女、天国で悲しんでますよ?
きっと、悲しくて悲しくて…」
ーこいつのメンタルを、徹底的に壊してやる。ー
切野は、そう考えていた。
ジョブズの中で、怒りが膨れ上がった。
ー挑発に乗るな!ー
そう思うものの、感情は制御できない。
眉間に深い皺が刻まれた。
それを見た切野は、さらに口元を歪めて笑った。
ジョブズは、完全に追い詰められていた。




