人生が変わった瞬間
「そう?私は文系出身だから、その凄さはよく分からないけどなあ」
平野は、少し羨ましそうに言った。
その後、平野は小石に原稿の書き方を教えた。
「じゃあ、その解析と原稿作成をお願いね」
平野に頼まれ、小石は解析を始め、裁判で使用する原稿を作成し始めた。
作業を続けたその日の夜、平野が小石に声をかけた。
「どう?できた?」
「まあ、一応…」
「どれどれ?」
そう言って、平野は小石の原稿に目を通した。
すると、驚いたように声を上げる。
「え!?すごくよくできてるじゃない! 分かりやすい言葉を使っているし、説得力もある。凄いわ!」
平野は、惜しみない称賛を送った。
「あ、ありがとう…」
小石は照れながら、ぼそっと礼を言った。
「その調子で頑張ってね! ファイト!」
平野の言葉に、小石は少し自信を持てた気がした。
優しさは、人を、そして世界さえも救うことができる、そんな気がした。
翌日、凛花と小石は、神楽坂のカフェ「スターダストコーヒー」で、金井と面会した。
水色のシャツに薄黄緑色のズボンを着た金井を見て、小石は、これまで尊敬してきた人物が隣にいることに緊張した。
「この戦略でいこうと思うんですが、いかがでしょうか?」
平野が金井に尋ねる。
「いいですね。それでいきましょう」
金井は納得した様子で答えた。
「じゃあ、裁判で絶対に勝つために、一緒に頑張りましょう!」
「はい!」
金井は力強くうなずいた。
そして二週間後、最高裁で見事、勝訴した。
最高裁判所前で、金井と平野、小石の三人は、「逆転勝訴」と書かれた紙を掲げ、涙を流しながら喜び合った。
その夜、凛花と広心、そして小石の三人は、神楽坂にある定食屋「夜桜」で夜食を取っていた。
「あんた、一見さんかい?」
突然、陽気な店長が小石に声をかけた。
「あ、はい。どうも…」
小石は恥ずかしそうに挨拶する。
「この人、うちの娘の彼氏なんすよー!」
酔っ払った広心が、突然そう言った。
「やめてよ、父さん!」
凛花は顔を赤らめる。
「あははははは!」
「ははははは」
「ははははは!」
そのとき小石は、人生で一番幸せだと思った。
その日の夜、平野と小石はお台場海浜公園にいた。
「本当に、よかったね」
平野は嬉しそうに言った。
「そうですね」
小石も微笑んだ。
しばらく沈黙が流れたあと、小石は勇気を振り絞って口を開く。
「あの…僕、平野さんのこと、好き」
「え?」
平野は一瞬悲しい顔をして、戸惑った。
「付き合ってください!」
平野はその言葉を聞いて、微笑みながら言った。
「いいわよ。恋人になりましょ」
そう言って、平野は小石の頬にキスをした。
二人は幻想的な東京湾の夜景を、静かに眺めていた。
彼は、最高の気分だった。
その日までは…
翌朝、秋葉原のマンションの一室で目を覚ました彼は、テレビをつけた。
次の瞬間、画面を見た彼の顔から血の気が引いた。
足の力が抜け、その場に崩れ落ちた。
ニュースは、こう報じていた。
ー弁護士・平野凛花、殺害ー




