天才のコード
「え!? あの有名な金井さんが!?」
小石は驚き、平野に聞き返した。
「ええ。起訴内容は著作権違反幇助よ。この情報はまだ世間には公表されていないわ。それで、私たちが何も悪いことをしていない金井さんを最高裁で逆転無罪にするために、あなたの専門知識が必要なの」
平野はそう詳しく説明した。
「な、なるほど…」
小石は一応納得したふりをしたが、内心ではまだ理解が追いついていなかった。
「で、で、これから僕は何をすればいいんですか?」
小石は噛みながら言った。
「まずあなたには、裁判に必要な、これまでに収集した金井さんのプログラムの証拠を調査してもらうわ。そして私は、その調査結果をもとに準備書面を作成していくの」
平野はそう説明したが、小石はまだ腑に落ちていない様子だった。
「僕、裁判のことはよく分からないんですが…大丈夫ですか?」
小石は心配そうに平野に聞いた。
「ええ、大丈夫よ。あなたはプログラムのことだけを調査してくれればいいんだから。さあ、着いたわよ」
平野がそう言うと、二人はタクシーを降り、門の扉を開けた。
そこは、神楽坂にあるレンガ造りのビルだった。
中に入ると看板があり、そこにはこう書かれていた。
ー平野法律事務所ー
さらに奥へ進むと、年配の男性が待っていた。
彼女の父である、平野広心だった。
「やあやあ、よく来てくれたね。君が例の小石君かい?」
彼は親しげに小石に声をかけた。
「は、はい。そうです」
小石はボソボソと答えた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいさ。
ところで、五星電機でいじめを受けていたそうだね?」
広心は単刀直入に聞いた。
小石は一瞬困ったような顔をしてから、口を開いた。
「は、はい…他の同僚から、暴行を毎日のように受けていました…」
「そりゃ大変だったなあ。まあ、あの会社はブラック企業の代表格って言われるほど問題が多いからね。あはははは」
広心はどこか能天気に言った。
「ごめんね、うちのお父さん。かなり能天気で…あはははは」
凛花は苦笑しながら笑った。
その笑顔に、小石の傷ついた心は少し癒された。
しばらく雑談をしたあと、広心は席を外し、本題に入った。
「まず、金井さんが逮捕されてしまった経緯を話すわ」
平野はそう言って、小石に事情を説明した。
「そうなんですか…金井さん、大変ですね」
小石は心配そうに言った。
「今は保釈されているから拘置所にはいないけれど、それでも与えられた理不尽なストレスは相当なものよ」
平野は静かに言った。
「それであなたには、裁判で金井さんが過去に手がけた作品を紹介する際の補佐をしてほしいの」
「え? 裁判で? どうしてですか?」
小石は不思議そうに聞いた。
「一見、裁判には関係がないように見えるけど、これによって裁判官たちに、金井さんが悪意を持って「Jinny」を作った訳ではないと示せるかもしれないの」
平野は丁寧に説明した。
「なるほど…」
小石はその意外な視点に感心した。
「じゃあ、これが金井さんの過去の作品のプログラムよ」
そう言って平野は、小石に大量のプログラムが印刷された書類を手渡した。
「これを今から調査してちょうだい」
「え? 今からですか?」
小石は驚いて聞いた。
「そうよ。最高裁は二週間後。時間はほとんどないわ。ほら、早く」
急かされ、小石はすぐに調査に取りかかり、書類に目を通し始めた。
すると…
「…なんて凄いんだ…」
小石は余りの凄さに、途轍も無い衝撃を受けたのだった。




