人生が変わった瞬間
「そうだよなあ。やっぱりそうか。聞いて安心したよ」
松田は安堵した様子で言った。
「話はそれだけだ。教えてくれてありがとな」
「いえいえ、松田様のためなら何でも致しますので…」
社員たちは一斉に腰を低くして答えた。
こうして、不条理すぎる全社会議は幕を閉じた。
翌日、松田は社内で小石と平野に報告した。
「えー、全社会議で小石さんのいじめに関する事情聴取を行いましたが、一般社員の全員が真っ向から否認していましたよ。あなたが見たのは、見間違いか、何かの勘違いじゃありませんか?」
松田は平然と言い放った。
「は? 見間違いなわけないでしょ!?
だって小石さん本人も被害を受けたと言ってるし、傷跡や痣もちゃんと残ってますよ!?」
平野の正義感が爆発した。
しかし、この世の中の正義などというものは、形だけ作られたもので、本物など存在しない。
「でもねえ、みんなが否認している以上、パワハラを認めるわけにはいかないかなあ」
松田は心底どうでもよさそうに言った。
その、重大さをまるで理解していない松田の態度に、平野は腹の底から込み上げる怒りを覚えた。
「…分かりました。じゃあ、もう辞めます。」
「あ、そう。どうぞお好きに。うちいくらでも代わりの弁護士いるから」
そして平野は、ひたすらぼんやりとしている小石の方を見て言った。
「小石さんも、こんな会社、辞めますよね?」
「…はい」
二人は退職届を提出し、丸の内のオフィスビルを後にしてタクシーに乗り込んだ。
ふと、小石が平野に尋ねた。
「…いいんですか?平野さんが、僕のために辞めてしまって…」
小石は、自分のことは心底どうでもいいようだった。
「大丈夫よ。こんな酷い会社、辞めるべきだわ。それより、あなた、私の法律事務所で働いてみない?」
平野は突然、小石にそう切り出した。




