第1章 神社の出会い
言葉が傷を刻むこともある。
ある日、青年は──“声”を纏った呪いの記憶を抱えながら、知られざる世界の裂け目へと足を踏み入れる。
そこに響くのは、届かぬ言葉の痛みと、再び響かせるための囁き。
これは、静かな夜に紡がれる、癒しと再生の物語。
秋の午後、静まり返った神社の境内。
落ち葉が風に舞い、ひとけのない石段の上に、ひとりの少年が立っていた。水瀬 蒼だ。
彼の目は、周囲の人々の声――心の奥に潜む負の思いに反応し、身体にかすかな痛みをもたらす。
「また……こんな声が……」
蒼は小さく息を吐き、手で胸のあたりを押さえた。
そのとき、どこからともなく透き通るような歌声が聞こえた。
「……え?」
振り向くと、同年代くらいの少年が、石段の端に立ち、静かに歌っていた。日向 希だ。
その歌声は、まるで蒼の痛みを洗い流すかのように、心の中のざわめきを和らげた。
「……誰?」
思わず声を漏らす蒼に、希は少し驚いた顔をして微笑む。
「……歌、好きなんだ。」
希の言葉は自然で、強くなく、でも確かに蒼に届いた。
蒼は初めて、胸の奥に小さな安堵を感じた。
そして無意識に、蒼も口ずさむ。
かすれた声で、希の歌と同じ旋律を――




