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5話 躾


「あの、何か俺に用件でも?」



 彼女たちが言っている事は分からないが、睨み合っていても仕方がないのでそう切り出してみる。これで何らかの意味ある言葉を引き出せたならよいのだが……。


 そう思って様子を伺っていると、ショートカットでよりキリリとした女性の方がつかつかと歩み寄って来て……いきなりぐーで頬を殴られた。


 咄嗟の事で反応が、いや、あの速さは万全の状態であっても避けられたかどうかは怪しい。無造作なのになんて鋭い打撃を繰り出すのか……なんて考えている場合じゃないな! 何で俺は殴られたんだ!?



「いってぇ! ちょっ、アンタ、何を……!」

「黙りなさい。姫様に対してその無礼な物言い。本来なら手討ちにされていてもおかしくない所作ですよ? 敬語を使いなさい」



 えぇー、なんだそれ……。


 ほぼ初対面で素性が分からないってのに、なんでそんな事を要求されにゃあならんのだ。それに俺は一介の冒険者であって、偉いさんと接するための礼儀なんて身に着けてはいない。


 つーか、『姫』って何だ? いや、意味ぐらいは知っているが、この浮遊大陸プロキオンでは王族なんて存在しておらず、共和制の政治を執っているのだ。


 こりゃあ最初に出会った時に思ったように、外からやって来た者である可能性が高くなってきたな……。


 と、とにかくこんな訳の分からない連中に付き合う理由は何もない。さっさと逃げるとしよう。どうやら俺を探していたようだから今後も会う事があるかもしれないが、逃げ続けていればいつかは諦めるだろう。


 俺は相変わらず辛辣な視線を向けて来る女性二人から目を背けると、出口に向かって走り出した――が、目の前に迫る凶悪なメイスを避ける為にエビ反りとなってすっころんだ。



「な、な、なっ、何すんだお前ーッ! ぜってーいま、殺しに来てただろ!」

「無礼者を手討ちにするのに何の問題が? この私に無礼な口を利いた上に逃げようとするなど万死に値する。あ、いや、殺してしまうのは不味かったか。せっかくの『適合者』を殺してしまっては、次を見つけるのにまた手間がかかってしまうからな」



 三つ編みの女が何やら訳の分からないことを呟いているが、俺の心臓は九死に一生を得たことによってバクバクと脈打っており、全く頭に入って来ない。


 くそっ、こんな異常者共に付き合っていられるか。どうにか逃げる隙を見つけないと。


 しかし一度逃げる仕草を見せたことで相手も学習したらしく、転んだ俺の前後に位置して絶対に逃がさないという意思を感じる。

 

 こんな時、ギルド職員に頼れたら良いのだが、騒ぎを起こしていると言うのに、いずれの職員も素知らぬ顔だ。俺達冒険者には無茶な欲求を押し付けるわりには事なかれ主義なのだから信頼がおけない。

 

 まあ、この際、ギルドの事はどうでもいい。自分自身の力でこの場を切り抜けないとだな。ただ、そうするにしたって、この女たちの目的が何なのかを把握する必要があるだろう。


 ……ああ、それを聞いたらいきなり頬を叩かれたんだった。こんな異常者相手に下手に出るのは嫌だが、同じ轍は踏みたくないし……ここは慣れない敬語を使ってでも聞いてみるか?


 

「あの、おぜうサマ方……ワタクシめに、何か御用がおありで?」



 って、自分でも言ってて変な敬語ではあるが、突破口になるのなら何でもいい。


 とにかく美女二人から見下されているこの状況を改善しないと話が何も進まず、時間だけを浪費する事になる。そして時間の浪費はギリギリの生活を送っている者にとって最も忌むべきことなのだ。


 そんな俺の想いが通じたのかどうかは分からないが、女二人は同時に溜息を吐くと各々が好き勝手に喋り出した。



「ハァ、適合者がこのような者とはな……仕方がない事とは云え、気が滅入るな」

「姫様。どうしてもこの者が気に入らなければこの場で切って捨てます。いくら適合者が少ないとは言っても、皆無ではないでしょう。無論、そのときは再探索にお時間を頂く事になりますが……」

「いや、この監獄島に強制転移させられてから1か月余。今もこうしている間にあの下種で愚かな者どもが、私の国を好き勝手していると思うと腸が煮えくり返る想いだ。一刻も早くこの地から我が国へ戻らねばならぬ。そのためには多少の不愉快さには目を瞑るさ」

「ははッ、では予定通りこの者を使うと言う事で……」

「うむ。我が神器をこの者に宿らせる事によって、この地からの脱出を図る」



 ……何だか俺の与り知らないところで話が進んでいっているような気がする。その中には俺の命運をも決めるようなものがあったようなのだが、それに続く情報によって頭に入って来ない。


 監獄島? 強制転移? そして、『脱出』。


 間違いなく彼女らはこの浮遊大陸プロキオンの外からやって来た者だ。そして……恐らくはこの浮遊大陸から脱出する術を持っている。


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