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3話 ギルド


 ダンジョンから出ると陽光が急速に退いていくところだった。間もなくこの辺りは闇に包まれるだろう。


 俺は魔石で重みを増した背嚢を背負い直すと、この辺りで唯一、灯りを灯しているギルド建屋の方へと歩いていった。



 建物のドアを開けると、そこは喧騒にまみれていた。俺と同じくダンジョンから生還した連中が、回収した魔石をギルド受付に提出して査定を受けているのだ。


 魔石はその大きさによって大きく価値が変わる。


 そして、命がけで魔石を回収した身としては、少しでも引き取り価格を吊り上げようとギルド職員に対して喧々諤々の交渉を行っているのだ。


 まあ、地下1階に住むゴブリンの魔石は一律、3000オンスと定められているから俺には関係ない話ではあるが……。


 俺は受付の列の最後尾に並びながら、同じく列に並んでいる同業者を見渡した。


 無傷で元気もあって査定に期待を抱いているような者もいれば、血の滲んだ包帯を巻いて意気消沈している者もいる。泣いているヤツは……仲間を失いでもしたのだろうか? 陰気な雰囲気を振りまいており、周りからは嫌な顔をされている。


 ご愁傷様とは思いつつも、ギルドの中にまでそう言う感情を持ち込まないで欲しいと言う気持ちが強い。こういう商売をしているからには仲間との死別は日常茶飯事で……悲しみの感情は生者を死者に引き込むとされている。


 だからベテランになると仲間を失っても無表情でやり過ごせるようになるのだが、昨日今日で冒険者になったヤツにそれを望むのは酷か。


 見れば装備も新しく、15歳の俺よりも確実に年若い。冒険者となって早速、洗礼を受けたということなのだろう。


 しかし、周りから『辛気臭いから泣き止め!』と怒鳴られたのに対して、泣きながらも『なんだとこの野郎!』と返しているのを見ると、元気だけはあるようだ。この分だと冒険者をすぐに止めるということは無いだろう。まあ、ソロの俺には関係のない話ではあるが。


 そんな人間模様を眺めること20分ほど経って、ようやく自分の順番が回って来た。


 俺は背嚢を背中から降ろすと、今日の稼ぎであるゴブリンの魔石3個を取り出して受付台に並べる。



「カルマさん、今日もまたゴブリンの魔石だけですか……?」

「ああ、そうだ。なにか問題でも?」



 目の前の受付嬢から含みを持たせた疑問を受けるが、さらりと受け流す。ギルドは魔石の売買と流通に関する組織なので魔石を回収する冒険者との関係は深いが、何らかの制約を課せる立場にはない。


 しかし、ギルドとしてはなるべく質の良い魔石を都市に流通させることを求められているらしく、時折こうやって含みを持たせた疑問を投げかけて来るのだ。


 ギルドとしては、この稼業3年目に突入した俺にもっと大きな魔石を取って来て貰いたいのだろう。しかし、ソロで活動する俺にとって、ダンジョンの奥深くまで潜るといった行為は死への可能性を大きく広げる。それはギルドも十分承知の事だと思うのだが……。



「そろそろ貴方もベテランです。仲間を募って更なる低階層を目指されては? 貴方であれば地下1階のゴブリンも、地下3階のホブゴブリンでも違いはそうないでしょう。問題となるのは貴方の俊敏な動きを阻害する魔石の重さだけ……であれば、荷物持ポーターちだけでも雇えば手取りは確実に増えます。今よりも余裕のある生活が送れますよ?」

「なにを言っているんだ……俺の力じゃ、ホブゴブリンと対峙する事はできてもポーターを守れるほどの実力はないよ。俺だって今のギリギリな生活に思う所はあるが、もう少し体が成長するまで無理はしないつもりだ」



 体格の問題に加え、ホブゴブリンとやり合うには、今持っている使い古しのダガーだけじゃ不安もあるしな、と言う事も付け加えておく。


 いくらヒットアンドアウェイと急所へのアサシンアタックを得意とする俺であっても、攻撃が体格差――筋肉の壁によって遮られる事は大いに考えられる。


 食い込んだら僥倖、弾かれてもまだ何とかなるが、折れてしまうのは困る。


 もしそうなったら丸腰で地下三階から出口まで潰走することになる。そんなときに仲間がいたら守れる自信は全くない。



「アンタたちギルドだって、定期的に魔石を卸す人間が減ったら困るだろう? ……俺は俺のペースでやらせて貰うぜ」

「そうですか……まあ確かに言われる通りですけどね。どこかに戦いながらもポーターをやれる人がいれば良いのですが……」

「そんなヤツは自ら冒険者になっているだろう。若しくは既に徒党パーティを組んでいるか……どちらにしてもソロで細々と活動している俺には縁遠い話だ」



 さて、たったゴブリンの魔石3個の換金で随分と話し込んでしまった。後ろからのプレッシャーも強まっているし、早いところ退散するとしよう。


 俺は魔石を換金した金を受け取ると、礼を言ってその場を急ぎ後にする。


 それにしても仲間……仲間ねぇ。


 ダンジョンに一緒に潜っていた兄弟達を失って以来、仲間を持つということはとんと思いつかなかったが、冒険者『本来』の目的を果たそうとするなら避けては通れない道だ。


 そして本当の意味での仲間――信頼を得るなら長い時間を要する。即ち、なるべく早く徒党(パーティ)を組む方がよいのだが……初期に仲間を失い、ソロでの活動の気楽さを知ってしまった今となってはどうにも気が乗らない。


 いやいや……今日の午前中、必ずこの浮遊大陸を出てみせると誓ったばかりなのに気楽さを優先させてどうするんだ。ギルドから忠告も受けたし、これを機会に仲間募集の張り紙でも貼ってみるか……例え地下一階で活動するにしても、少なくとも今よりは稼げるようになるだろうし、そうなれば装備を一新して更なる低階層へ挑める可能性が出て来る。ただ、俺のような弱っちいヤツを今から仲間に入れてくれるモノ好きがいるかどうか……。


 

 しかし後日、俺のいい加減な想いとは裏腹に、これ以上はないという仲間ができるのだが……この時の俺は想像すら出来ていなかった。


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