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謎の少年

 窓から差し込む暖かい木漏れ日で目覚めた私が最初に見たのは簡素な作りの木でできた知らない天上だった。


「ここは……」


 横たわっていたベットから起き上がり、辺りを見回すと少し離れた椅子に座って分厚い本を読む、白髪の少年の姿があった。


 なぜこんなところにいるのか分からない。

 見た感じ監禁されていたりはしないようだが、助けてくれたということだろうか?

 たしか魔導四輪車に乗って移動中に何者かに襲撃されて……


 まず先決は状況の把握だ。


 襲撃されたのであれば早急に王都と連絡を取らねば。


「君、ここはどこだ? 何が起こった?」


「……」


 私がそう問うても少年は反応を返そうとしない。

 なんと無礼な――と思う気持ちもあるがここは抑えて根気強く……


「君? 私を救ってくれたのかい?」


「……」


 またもや無視……

 少しイラっと来てしまったが冷静になるんだ。

 もしかしたら耳が悪くて声が聞こえないのかもしれない。

 

 そう考えた私はベットから降りて立ち上がり、少年に近づいて肩に手を掛ける。


「少年、もしかして耳が聞こえないのかい?」


「聞こえてますよ、今いい所なんです少し待ってください」


 無視してるだけだった。


 少々、いやかなりイラっと来たがおそらく救ってもらった手前あまり強いことは言えないので、おとなしく彼の読書が一段落するのを待つことにした。


 その間彼と家の中の様子を観察していたのだが、これがまた中々に奇妙だった。


 年は十代前半、だがその青い瞳が放つ眼光に一切の幼さはなく、どこか浮世離れした雰囲気を放っている。

 彼が読んでいる本は一冊5万シードはくだらない上物の魔導書で、本の内容的に十代前半の貴族でもない少年が読むような内容の本ではないことは自明である。


 それに何より、机に乱雑に置かれていた魔法構築理論の資料の山。

 原子だとか量子だとか全くもって未知の概念を用いた新たな魔法とその構築理論の数々。

 中にはとんでもない魔法も散見されたが、そのほとんどは組み合わせて効果を発揮する基礎魔法であった。

 『空気を固形化する魔法』『物体の分子運動を活性化する魔法』『光を屈折させる魔法』『時間を正確に測る魔法』『現象・物体・エネルギーの情報を二進数に変換する魔法』

 これらの色々な基礎魔法を組み合わせて新たな魔法を作るその地道な過程は、今までの魔法構築の形態を覆すものであった。


「これは……」


 彼の親が? いやおそらく彼がこれを創ったのだろう。

 まさに天才。

 真剣な眼差しで魔導書の頁を読み解くその少年の姿はまるで、百年生きた大賢者の姿を見ているようであった。


「……もういいよ。話って?」


 そんな想像をしていると、彼の読書がひと段落したらしくやっと話を聞いてくれる気になったらしい。


「あ、ああそうだったね。まずは礼を言わせてほしい、命を助けてくれたこと感謝する」


「……どうも」


 いまいちな反応だ。

 まさか感謝されるとは思ってもいなかったのか、少し驚いたような表情をしている。

 まあ無理もないだろう。

 この世界の身分の序列は絶対。

 こんな服を着ているものだから私を貴族だと考えて、もしや感謝してくるなどと考えもしなかったのだろう。

 だが私はそこまで恩知らずな人間ではない。

 身分が違えど助けてくれた恩人にはしっかりと感謝するように心がけている。

 ファーストコンタクトも済んだことだし、現状確認のフェーズに移るとしよう。


「ここは何処かわかるかい?」


「ここは王都ターミナルのずっと東、エイギス帝国との国境付近のリーン伯爵領だよ」


 私は帝都から帰る道中で何者かに襲われた。

 まだ帝国内であればマズかったが王国内であるならばひとまず安心してよいだろう。


「私の従者は?」


「死んだ」


 私を除いて全滅……か。

 高位の魔導法衣を着ていた私だけ助かったのだとすれば、やはり従者にもこれを着せておくべきだったか。

 優秀な部下を失ってしまったことは悔やまれるが、これしきの事で失意に暮れていては明日を生きながらえることはできない。

 ここはそういう世界だ。

 それにしてもこの少年、ふつう口ごもるようなことを平然と言うな。

 それだけ過酷な環境で生きてきたということか……


 私の怪我にも丁寧に包帯が巻かれて、この感じは多分消毒もきっちりされている。

 怪我の治療には慣れているようだ。


「いろいろと世話になったようだな」


「……ええまあ……怪我をしてたので」


 そう少年は、不愛想に答える。

 何でもないかのように、私に見返りを求めるでもなく淡々と。

 その姿はまるで……


「……」


「?」


「いやなんでもない、それよりも私は早急に王都に戻らなければならないんだ。少し協力してはもらえないか? 急な話だから無理にとは言わないが……」


「いいよ。協力してあげる」


 即答。

 何か裏があるのかもとか立場上見返りを要求するつもりなのかもしれないなどと考えたがおそらくこの少年はそんな考えを持っていない。

 ただ純粋に『興味』に突き動かされて動いている。

 そんな彼の目と同じ身をした人間を私は知っていた。


 その瞬間、私の脳裏に悪い企みが浮かぶ。

 それが決して許されないことは分かっている、今であったばかりの見ず知らずの少年にそんな業を背負わせるのは間違いだと。

 だがどうしても私の欲望が、彼の類まれなる才能の片鱗がその考えを諦めさせなかった。

 

 いや、まだ判断するには早急だ。

 もう少しこの少年の様子を見てから、決めるとしよう。


「ありがとう、よろしく頼む」



――――――



 いやあ、まさに渡りに船ってやつだ。

 王都に行きたいな~、なんて考えていた矢先こんなうまい話が降ってくるなんて本当にラッキー、これこそ因果応報。

 断る理由など無いだろう。


 それにこのおじさん、個族の格好してるくせしてやたらと物腰柔らかだ。

 これなら変ないざこざもなく王都まで同行できるに違いない。


 出発はいつにしよう、明後日か? 明々後日か?


「出発はできるだけ早い方がいいのだが……」


 じゃあ決まりだな、明日出発だ。

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